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NASA、「宇宙建設会社」実現に一歩

  • 未来
2020/5/26

人類は行く先々で、さまざまなものを建設する。文明は、家々がまとまった集落や、道路のネットワークから花開いた。現代に入るとそうした基盤は拡大し、高層ビル群や送電線、配管設備、携帯電話の中継基地局などが含まれるようになった。いずれ地球外へと手を広げていくのだとすれば、技術者たちは、宇宙で何かを建設するための方法を開発しなくてはならない。

設計技師は長年、「宇宙クレーン」や「宇宙ブロック」といった道具や資材を使って、複雑な構造の望遠鏡や、広々としたホテルの部屋などを地球外で建設する日を夢見てきた。しかし、国際宇宙ステーション(ISS)やハッブル宇宙望遠鏡を除けば、現在地球の軌道を回っている設備や機器はどれも、地上で組み立てられてからロケットに丸ごと詰め込められ、宇宙へと運ばれている。

そこで米航空宇宙局(NASA)は現在、地球の周りを高速で周回しながら複雑な構造の装備を組み立てる技術を開発するべく、民間企業を後押ししている。NASAは2020年2月はじめ、宇宙技術を手がけるマクサー・テクノロジーズ(Maxar Technologies)と1億4200万ドルの契約を結んだと発表した。同社製ロボットアームは近い将来、衛星とともに打ち上げられ、宇宙で大型アンテナを組み立てることを目指している。

マクサーの宇宙インフラストラクチャならびに民間スペース(Space Infrastructure and Civil Space)担当副社長アル・タドロス(Al Tadros)は、「NASAから開発資金の支援を受けるのは、私たちの業界にとって大きな前進です。これで、コストを大幅に削減しながら、宇宙空間での機器組み立て開始という目標に近づくことができます」と述べた。

同社製ロボットアーム「Space Infrastructure Dexterous Robot」、通称「SPIDER」 は、ミニバンほどの大きさをしたNASAの衛星「Restore-L」に搭載される予定だ。打ち上げは2020年代半ばを見込んでいる。

SPIDERの開発が始まったのは2014年。このアームは、広げると最長で約4.8メートルに及ぶ。7つの関節があり、ありとあらゆる方向へと曲がるこのアームは、人間の腕とは違うかたちだが、それと同じように柔軟だ。

SPIDERは、宇宙軌道でその器用さを発揮する。Restore-Lの側面に積み込まれているパネル7枚を一つひとつ取り外し、パズルのように組み合わせて固定する。ラチェットのような道具を使って、各パネルに装備されている専用留め具を締めるのだ。部分的に自律作動するアームは、指示が出るたびにいったん停止する。搭載されたカメラとライトを使って撮影し、パネルが正確な位置に並べられているかを確認するためだ。「ちょっとしたスイス製アーミーナイフのようです」とタドロスは言う。

作業が完了すれば、実際に稼働する直径約3メートルの丸型反射鏡アンテナが完成する。地球上の家々に向かってテレビチャンネルを送信するアンテナのような感じだ。

ブロードバンド通信企業は現在、幅およそ4メートルのロケット内に格納される自社衛星に、平らに積載できるアンテナを設計している。しかしSPIDERなら、衛星は、その倍ほどもあるアンテナを自力で組み立て、より多くのデータをより多くの人に送信することが可能になる。

地球はある意味、繊細な機械を組み立てるうえではきわめて不都合な場所だ。重力が地面に向かってつねに圧迫するように働いているため、組み立てられた機器も、その重力に耐えうるものではなければならない。また、宇宙空間までの運搬時には、音速の20倍のスピードに達する推進力を得るために、制御された爆発が続く。その振動を乗り切る必要もある。

一方、宇宙で組み立てられた機器にも、特有の問題が立ちはだかる(たとえば、宇宙における温度の上下幅は何百度にも及ぶ)。しかし理論上は、どのような大きさの機器でも組み立てが可能だ。

タドロスに言わせれば、NASAが同社に対して開発資金を支援すると決めたのは、SPIDERには技術面で豊富な魅力があるからだ。SPIDERなら、商業アンテナから、反射鏡付きの科学研究用望遠鏡まで組み立てることができる。2021年に打ち上げ予定のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡に搭載される反射鏡より4~5倍大きくても建造可能だ。

「目指しているのは、規模や量の制限なく組み立てられるようにすることです」とタドロスは述べる。

NASAが後押ししている「宇宙建設企業」は、マクサーだけではない。2019年7月にはメイド・イン・スペース(Made in Space)社と7370万ドル規模の契約を交わした。同社は、ISSの現場で特注パーツを作成できる3Dプリンターを開発した会社だ。

この契約では、メイド・イン・スペース製の3Dプリンター衛星「Archinaut One」の実証が行われる。早ければ2022年に打ち上げられる予定のArchinaut Oneは、宇宙では約10メートルの支柱2本を3Dプリントする。その支柱を使えば、衛星本体がきわめて小さくとも、過去に例のない大きさのソーラーパネルを展開して設置できるのだ。

これら2社のプロジェクトは、人類がいずれ、宇宙にある機械設備を維持管理したり、性能の向上を図ったりできるようになることを予兆している。SPIDERを宇宙まで運んでいく衛星「Restore-L」は、老朽化した衛星をキャッチして燃料補給する性能を実証することが主要なミッションだ。

タドロスが思い描くのは、ロボット修理士たちの集団が衛星から衛星へと渡り歩き、維持管理を行ってその延命を図る未来だ。地上の機械設備で行われていることを、宇宙でもやるわけだ。たとえば、米通信大手ベライゾンは、移動通信システムを3Gから4Gへと進化させた際に、アンテナを古いものから新しいものへと変更した。「しかし、中継基地局はそのまま使われました」とタドロスは言う。「基地局への送電や通信経路は変わっていません」

高性能ロボットアームが現場にあれば、何らかの支障が生じても、ミッション立案者には、その場で対処するための選択肢が増える。

SPIDERと同様の技術的DNAを持つのが、同じくマクサーが開発し、火星探査機「インサイト(Insight)」に搭載されているアームだ。インサイトのミッションでは、搭載された装置のひとつが予想外に硬い火星の土に阻まれ、センサーを正しく埋め込むことができなかった。それ以来、マクサー製アームは、土壌を再掘削するときの主要ツールとなっている。

NASAは、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡をロケット内にうまく格納するために、折り紙のように畳めるかたちで設計した。とはいえ、100億ドルをかけたこの望遠鏡を、折り畳まれた状態から再び展開する作業は一発勝負で、やり直しがきかない。しかし、SPIDERのようなロボットアームがあれば、たとえ不具合が生じても、次世代の宇宙望遠鏡は自力でそれを修正できるかもしれない。

宇宙で何かを修理したり建設したりする技術は、SFによく見られるものだが、現実の研究者たちも、何十年も前から真剣に検討してきた。宇宙ステーションは、初期構想では軌道上で建設することを念頭に立案された。また、NASAがスペースシャトルを設計した当初の目的のひとつは、衛星を修理することだった。実際、NASAは1984年のスペースシャトル・ディスカバリー号によるいくつかのミッションで、衛星への燃料補給実験、ならびに機能停止した衛星の初回収に取り組んでいる。

「宇宙のロボット修理士部隊」を創設することは予想以上に難しいことがわかったため、燃料補給と衛星回収はいずれも継続に至らなかった。しかし最近では、毎回の打ち上げに何百万ドルもの費用がかかるとはいえ、衛星を打ち上げる企業がかつてないほどに増えている。また、コンピューターの性能が向上し、資材は強度が増すとともに軽量化が図られ、機器がいっそう小型化している(SPIDERのカメラやセンサーがその一例だ)。こうしたことで、より大きく、より高性能の衛星を製造できる技術がようやく実現した、とタドロスは示唆している。「こうした類いの技術を、ほかの多くのミッションでも活用できるようにするということが、私たちがここで示そうとしている真の約束なのです」

この記事 は、Popular Scienceに掲載されました。

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The SPIDER robotic arm (white) will put together a large antenna. (Maxar Technologies/)

この記事は、Popular ScienceCharlie Woodが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。

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