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水素化分解で、プラスチック廃棄物リサイクルの道を切り開く

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毎年、何百万トンものプラスチックが埋め立てられている。これは大きな社会問題であり、環境上の大きな脅威でもある。米国のプラスチック廃棄物のうち、リサイクルされているものは全体の9%以下だ。残りの75%は埋め立てられ、16%は焼却されており、その過程で大気中に有毒ガスが排出されている。

デラウェア大学プラスチック・イノベーション・センター(CPI)の研究者たちは、ビニール袋やヨーグルト容器、ペットボトル、ボトルキャップ、包装材といった使い捨てプラスチック廃棄物を原料にして、ジェット燃料やディーゼル、潤滑油に作り変えるための、すぐ使用できる分子に変換する直接的な方法を開発している。

2021年4月21日付で『Science Advances』誌に発表されたこの研究では、新しい触媒と独自のプロセスを用い、リサイクルが最も困難なプラスチック「ポリオレフィン」を素早く分解することに焦点を当てている。ポリオレフィンは、現在つくられているプラスチックの60~70%を占める。

デラウェア大学が開発したプロセスは、他の技術と比べてエネルギーの必要量が50%ほど少なく、大気中に二酸化炭素を排出しない。そのため、ほかの一般的な技術に比べて温暖化ガス排出量が削減される。このプロセスは、摂氏約250度の低温で、わずか数時間で完了する。家庭のオーブンで野菜をローストしたり、パイ生地を焼いたりする温度より少し高い程度だ。

重要なのは、デラウェア大学の手法であれば、さまざまなプラスチックを処理できる点だ。異なる種類のプラスチックが混ざっていても問題ない。これは、リサイクル可能な廃棄物の管理方法を考えると利点である。

今回の研究責任者であり、デラウェア大学で化学生体分子工学を研究するディオン・ブラチョス(Dion Vlachos)教授は、「化学変換は、プラスチック廃棄物に対処するための最も汎用的で強力なアプローチです」と話す。

論文の共著者に名を連ねるのは、デラウェア大学の元博士研究員で、現在は天津大学の化学工学准教授を務めるシバオ・リュウ(Sibao Liu)、デラウェア大学の博士研究員で、CPIの研究者であるパベル・コッツ(Pavel Kots)、デラウェア大学の大学院生ブランドン・バンス(Brandon Vance)、化学工学を専攻する4年生のアンドリュー・ダニエルソン(Andrew Danielson)だ。

すぐ使用できる分子をつくる

デラウェア大学の研究チームは、水素化分解と呼ばれる化学プロセスを用いて、プラスチックの固体を小さな炭素分子に分解した後、炭素分子の両側に水素分子を追加し、材料を使用可能な状態に安定させた。

水素化分解は、新しい技術というわけではない。原油をガソリンに変換するために、製油所で長年にわたって利用されてきた。

しかし、今回の研究チームの手法は、ただプラスチックを分解するだけではない。材料を、分岐分子(branched molecules)に変換し、より直接的に最終製品に変換できるようにしている。

デラウェア大学エネルギー研究所と触媒エネルギーイノベーションセンターの指揮を執るブラチョスは、「これにより、高価値な潤滑油や燃料の用途にすぐ使用できる分子になっています」と説明する。

触媒は、ゼオライトと混合金属酸化物を組み合わせたハイブリッド材料だ。

ゼオライトは、分岐分子をつくるのに適した特性を持つことで知られる。浄水器や軟水器、家庭用洗剤に使用されており、カルシウムやマグネシウムなどのミネラルを中和することで、硬水を軟らかくしたり、洗濯の効果を高めたりする。

一方、混合金属酸化物は、大きな分子を過不足なく分解することで知られる。例えば、薬箱に入っている制酸剤は、胃のむかつきの原因となる胃酸を分解、つまり中和するために使われる金属酸化物だ。

「2つの触媒は、それぞれ単独ではあまり力がありません。しかし組み合わせて使うとまるで魔法のように、プラスチックを跡形もなく溶かします」とブラチョスは話す。

その結果、CPIが開発した手法は、現在使われている技術よりも優位性を持っている。ただし、これらの科学的手法を実用化するにはさらなる研究が必要だ、とブラチョスは強調する。

もうひとつ利点がある。研究チームは一般的な触媒材料を使用しているため、かなり安く豊富に手に入るのだ。「決して珍しい材料ではないため、この技術をどうやって利用するかについて、すぐに検討を始めることができます」とブラチョスは話す。

持続可能なソリューション、循環経済

プラスチック廃棄物を化学的に燃料に変換することで廃棄物の量を削減する手法は、耐用年数を迎えた材料を捨てる代わりに何か新しいものにリサイクルするという循環経済の推進に一役買うことができる。リサイクルされた構成要素は、再び同じものをつくるために使用できるほか、燃料の場合は、より価値の高い製品にアップサイクルすることもでき、経済と環境の両方に利益をもたらす。

CPIの所長で、材料科学工学と科学および生体分子工学の特別教授でもあるラシャンダ・コーリー(LaShanda Korley)は、「この革新的な触媒アプローチは、エネルギー消費の少ない経路を使用し、特異性の高い分解ターゲットをつくり出す解重合プロセスを追求するうえでの大きな前進です」と語る。「この基本的な理解は、プラスチック廃棄物の価値化に向けた新たな道を切り開くものです」

デラウェア大学4年生のダニエルソンは、プラスチックの変換が環境にとってプラスとなる可能性に胸を踊らせている。

「プラスチック廃棄物は、深刻な環境問題です。この研究がプラスチックの再利用法の改善につながると確信しています」と語り、今回の研究では、収集したデータを検証するため、実験を再現する役割を担った。

ダニエルソンは5月に大学を卒業した後、この経験を化学業界で生かす予定だ。製造工程で温度、圧力、伝導率などの変数を制御するプロセス制御の仕事に就くことがすでに決まっている。

CPIの研究の次なるステップは、この手法で他にはどのようなプラスチックを処理できるか、どのような製品をつくることができるかを調べることだ。ブラチョスは手始めとして、大学とCPIで同僚たちとの連携を拡大し、廃棄物を価値ある製品に変えるための手段をさらに模索したいと述べている。

「この循環経済が軌道に乗れば、私たちは、今つくられている材料を未来に向けて再利用することになるため、プラスチックをゼロから製造する必要性は低くなるでしょう」

もう一つの目標は、リサイクルプロセス自体の改善方法を生み出すことだ。

「新しいものをつくるための化学処理には、グリーン電力を使いたいと考えています。今のところ実現には程遠い状況ですが、これからの10~20年で、その方向を目指すことになるでしょう」

この記事は、SpaceDaily.comが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。