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サイエンスが、電子機器からレアアースを“採掘”しはじめた

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ライス大学の研究者たちは、古いコンピューターやその他の廃棄物からレアアースを分離することに成功した Image credit:Jeff Fitlow / Rice University

たいていの元素周期表には、下から2列目に「ランタノイド」があり、周期表に収まりきらない元素の集まりとして別にされている。ランタノイドと総称されるこれらの元素は、色や特徴が似ていることから、区別が難しい。ほとんどの科学者にとってすら、ランタノイドは遠くて冷たい世界にある。「不自然」であり、安心感のある水素、炭素、酸素とは程遠いものだ。

しかし、現代の世界は、これらの金属なしには動かない。ランタノイドは、クリーンエネルギー技術に力を与える磁石から、望遠鏡のレンズ、さらには、読者が今この記事を呼んでいるデバイスの画面まで、あらゆるものを支える希土類元素(レアアース)に分類される。そして、レアアースの採掘は難しく、環境への負荷が大きい。

そこで、加工済みのレアアースを最大限に活用すべく、化学者や技術者たちは、産業廃棄物や古い電子機器からのリサイクルに取り組んでいる。学術誌『Science Advances』に2022年2月9日付で発表された新しい研究では、電気の明るい閃光(フラッシュ)を使ったリサイクルの試みが示されている。

Molecules of coal fly ash separating in a black and white microscope imageフライアッシュから分離されたレアアースの分子構造 Image credit:Tour Group/Rice University

レアアースの大半は、実際にはそこまで希少なわけではない(イリジウムのように、確実に希少な元素と比べると、希少とは言えない)。しかし、その入手は容易ではない。特殊なプロダクトを作るには、地面から鉱石を採掘したうえで分離する必要があるのだが、性質が似ているためこのプロセスは非常に厄介なのだ。レアアースの採掘は、ほとんどがランタンとセリウムを目的に行われるが、クリーンエネルギー技術に用いる磁石の場合、ネオジムやジスプロシウムなど、もっと原子番号が大きい金属が望ましい。

現在、世界のレアアースは、中国からの供給が圧倒的に多い(90%以上との推計がある)。そのため、供給源が地政学上の緊張に左右されやすい。2010年には、中国の漁船が尖閣諸島付近の海域で日本の海上保安庁の巡視船と衝突し、中国が日本への輸出を止めた。この措置は長く続かなかったが、日本はそれ以来、中国に代わるレアアースの供給源を何年にもわたって模索している。

この供給不安定よりも重要なのは、レアアース抽出の環境負荷だ。今回の研究には参加していない、ネバダ大学ラスベガス校の地球化学者サイモン・ジョウイット(Simon Jowitt)は、レアアース抽出について、「エネルギーと化学の面で非常に集約的」と説明する。「処理のしかたによっては、強力な酸性の物質を使う」ため、そうした酸性物質が環境に染み出る可能性がある。

こうした負荷を軽減させる方策の一つが、すでにレアアースが使われている製品のリサイクルだ。しかし、こうしたリサイクルはまだ普及していない。ニューヨーク州北部にあるロチェスター工科大学(RIT)持続可能性学部のキャリー・バビット(Callie Babbitt)教授によると、世界のレアアースのうちリサイクルされているのはわずか1~5%ほどだという(同氏も今回の研究には関与していない)。

こうした状況から研究者たちは、レアアースを分解するための新たな方法を発見するべく、技術革新に取り組んでいる。バクテリアも試されてきたが、バクテリアの餌として大量のエネルギーが必要なことが判明している。

そこでライス大学の研究グループは、「フラッシュ・ジュール加熱(flash joule heating)」という、強力な電力を使うリサイクル手法を考案した。このグループは、同じ方法を以前に、細かく砕いた古い回路基板でテストしたことがあった。その時の課題は、回路基板からパラジウムや金などの貴金属や、クロムや水銀などの重金属を取り除き、農耕用の土壌で処分しても安全なものにするというものだった。

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今回は、そのフラッシュ・ジュール加熱を、いくつかの廃棄物に適用した。具体的には、化石燃料発電所から出る汚染物質であるフライアッシュと、ボーキサイトからアルミニウムを精練するときに残る毒性物質である赤泥。そして電子廃棄物だ。

手順は次のとおり。まずは、分解する物質を、指の大きさの石英管に入れた。そこで電気の「フラッシュ(閃光)」を発生させ、華氏5400度(摂氏約2982度)に瞬間的に加熱する。分離した成分は溶液に溶かし、それを化学者が回収した。

有毒な化合物が発生するが、それを捕捉することで大気中に拡散することを防ぐことを目指すシステムだ。ライス大学の化学者で、論文著者のひとりであるジェイムズ・ツアー(James Tour)は、「産業として実施する際には、大気に放出させないだけではなく、捕捉することになります」と語

「我々の廃棄物処理プロセスは、他のものとは大きく異なっています」とツアーは説明する。レアアースを地面から抽出する際には、強力な硝酸が使われることが多いが、今回の溶液は、それに比べるとはるかに弱い、希釈した塩酸だという。「手に載せられても塩酸だとは感じないでしょう」とツアーは述べる。

ただし、この研究で1歩前進したとしても、大量の産業廃棄物からレアアースをリサイクルできるようになるにはまだ時間が必要だ。「この分野は数多くの取り組みが進んでいますが、ブレイクスルーになるようなものはまだ目にしていません」と、ネバダ大学のジョウイットは語る。

ジョウイットによると、フラッシュ・ジュール加熱の課題のひとつは、電子機器で再利用するまでには、レアアースのさらなる分離が必要な点だ。また、フライアッシュのような汚染物質を使うことは、この処理によって、別の有害な残留物が生まれることを意味する。ロチェスター工科大学のバビットは、「含まれているレアアースの抽出と回収は、廃棄物の処理という、より大きな課題の一部でしかありません」と語る。

電子廃棄物にしても、使われなくなったコンピューターや携帯電話の山から有用な物質を採掘するのは、容易なことではない。例えば、スマートフォン1台あたりのレアアースの含有量は、すべて合わせても1グラムに満たない。それに、どこでどのようにリサイクルすればよいのかを知らない消費者も多いだろう。

それでも、解決策はレアアースの需要を高めている製品それ自体にあるのではないかと、ジョウイットは考えている。「例えば、もっとリサイクルしやすくなるよう、設計を変更することができるのではないでしょうか」

この記事は、Popular ScienceのRahul Raoが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。