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原子レベルの動きを操作し金属を制御する方法、研究で明らかに

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プラチナは無表情に見えるかもしれないが、原子のレベルまで降りてみると、実はマーチングバンドのようなところがある。Deposit Photos

地球の地殻は、大きく7つの構造プレートに分かれており、常に横方向に運動しながら、他のプレートと擦れ合っている。その様子を見ることはできないが、結果は見ることができる。例えばプレート同士が衝突して噴出する火山などの山々であり、プレートが分離した後に残る谷や海などだ。

しかし、このような振る舞いは地殻だけのものではない。現代の文明世界が成り立つために欠かせない鉄や銅、アルミニウムなどの金属の多くは、小さな結晶で構成されている。こうした金属のひとつを薄片にして、引っ張ったりつぶしたりすると、小さな結晶同士が、ちょうど構造プレートのように衝突し合う。その結果として、それらの境界が変わることがある。

こうした変化する境界を観察しようとして長年取り組んできた材料科学者のチームが今回、原子のサイズまでズームアップして、その様子を観察できることを証明した。学術誌『Science』に2022年3月17日付で発表された研究では、今回の成果により、他の研究者が結晶粒(けっしょうりゅう:crystal grain)を操作して金属を加工し、製造業で利用できるより良い基本構成要素にすることが可能になるかもしれないと説明されている。

金属を結晶として描写することは奇妙に感じるかもしれないが、多くの金属は、宝石の原石や氷のように、結晶構造をしている。結晶の定義は、原子の配列が規則的な幾何学パターンになっており、例えば6角形や立方体などの繰り返しで構成されているというものだ。これに対して、ガラスの塊は結晶ではない。原子が思い思いの場所にあり、はっきりした構造がないためだ。

こうしたパターンは、都市の格子をなす道路のようなものだと考えると良いかもしれない。ただ、その都市が十分に大きい場合には、ひとつの格子だけで構成されているわけではない可能性が高い。ニューヨークや東京、ジャカルタのような巨大都市は、多くの小さな都市、郊外、地区などで構成されていて、その一つひとつに独自の角度の格子が並んでいることだろう。

金属におけるこうした複数のパターンは「多結晶(Polycrystalline)」と呼ばれ、多結晶を構成する小さな結晶は「結晶粒」と呼ばれる。結晶粒たちは、一部で同じパターンを共有しているかもしれないが、隣の結晶粒とはきれいにつながっていない可能性がある。一つの結晶粒の原子が、他の結晶粒の原子と揃っていなかったり、配列の角度が異なっていたりする。

それだけではない。結晶粒は、静止していたり固定されていたりはしない。外力等によって互いにずれ動いたり、回転してダンスしたりするのだ。こうしたものはすべて、材料科学の用語では「結晶粒界移動(grain boundary motion)」と呼ばれる。こうした移動によって、圧力下における材料全体の振る舞いが変化することがある。結晶粒の並び方によって、材料が硬くなることがあれば、もろくなることもあるのだ。

[関連記事:Time crystals just got a little easier to make]

結晶粒界移動の研究は、何十年も前から試みられてきた。問題は、研究するためには、物質の個々の原子をしっかりと拡大して観察し、調べる必要があることだった。

近年は透過型電子顕微鏡のおかげで、こうした観察がこれまでよりも可能になりつつある。透過型電子顕微鏡では、複数の電子を当てたときに反対側に透過してくる形を観察する方法で、物質の薄片をスキャンする。

結晶粒界(grain boundary)が単純な場合、例えば、表面が平らな2つの立方体がねじれて離れているなどのときは、それで間に合う。しかし実際には、はるかに複雑な場合がほとんどだ。ギザギザなこともあれば、金属の薄片のなかを奇妙な角度で切り進むこともあるだろう。ジョージア工科大学の材料工学者で、『Science』論文の著者のひとりであるティン・チュー(Ting Zhu)は、「観察・追跡して原子の動きを理解するのは非常に困難です」と語る。

Yellow and pink atoms on a grain boundary from a platinum scan隣接する2つの結晶の間の結晶粒界を示す電子顕微鏡像のイメージ。それぞれのプラチナ原子をイエローとピンクに着色してある。Wang et al. 2022

チューのチームは、プラチナを研究した。プラチナは希少だが、風力タービンの翼やコンピューターのハードディスク、自動車の触媒コンバーターなどに多用されている。研究チームは、プラチナの結晶粒界をわずか数十億分の1メートルの厚みで取り出し、電子顕微鏡で調べた。また自動原子トラッカー(一種のソフトウェア)を用いて、電子顕微鏡の画像を調査し、原子にラベル付けを行った。これにより研究チームは、それぞれの原子がどのように動いていくのかを追跡できるようになった。

プラチナを分析したところ、予想していなかったことがわかった。結晶粒が動いて結晶粒界が変化する際に、端の原子が別の結晶粒に飛び移ることがあったのだ。結晶粒界が曲がり、より多くの原子を受け入れられるように変化した。

チューは原子のこの動きを、マーチングバンドのメンバーの動きになぞらえる。「メンバーの列が移動して、並行する隣の列を追い越す時に、2つの列が合わさって1つの列になります」と同氏は説明する。

[関連記事:Inside the high-powered process that could recycle rare earth metals]

プラチナは、この分野における輝かしい例外だと思うかもしれないが、チューによると、今回の研究は他の金属にも応用可能だ。鉄、銅、アルミニウムなどの結晶粒を操作することで、金属の耐久性と柔軟性を同時に高めることができる可能性がある。

これは材料科学者が今後、研究を進められる方向性だ。「このような微粒子からなる多結晶のエンジニアリングは、より強力な工学材料を作るための重要な戦略です」とチューは語る。

チューは、複数元素の原子からなる合金を含むほとんどの金属で、結晶粒界移動を見いだすことができると見ていると述べる。これを裏付けるためには、材料科学者が一つひとつの原子をクローズアップして、「アルミニウムのアクロバット」と「銅の中のダンス」の違いを研究していく必要がある。

この投稿「Manipulating atomic motion could make metals stronger and bendier」は、最初にPopular Scienceに掲載されました。

この記事は、Popular Scienceに掲載されました。

この記事は、Popular ScienceのRahul Raoが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。