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ペロブスカイトが革新する、次世代太陽電池の未来

  • 環境
2022/8/15

プリンストン大学で化学エンジニアリング分野を研究するチームが、商業化可能な寿命を備えた、初のペロブスカイト太陽電池を開発した。これは、再生可能エネルギー技術の新しい段階を切り開く画期的な出来事だ。研究チームの推定によると、業界標準を上回る約30年間の稼働が可能であり、太陽電池の実用化の閾値とされる20年をはるかに超えている。

耐久性が高いだけでなく、変換効率も基準を満たしている。1954年の導入以来、シリコン系の太陽電池が市場を独占してきたが、それに匹敵する性能のペロブスカイト太陽電池(PSC)が登場したことになる。

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プリンストン大で開発されたペロブスカイト太陽電池は、加速劣化および試験プロセス中において高温で明るい光の下に置かれる。この新しい試験方法は、先進的な太陽電池の実用化に向けた大きな一歩を踏み出すものだ

ペロブスカイト半導体は、太陽電池技術に適した特別な結晶構造を有する半導体だ。室温で製造可能なので、製造に必要なエネルギーがシリコンよりも大幅に少なく、製造時の費用が安価で、持続可能性が高い。また、シリコンが硬質で不透明であるのに対し、ペロブスカイトは柔軟で透明だ。米国中の丘陵や屋根に設置されている典型的なソーラパネル以外にも、ソーラー電力を拡大できる。

ただしペロブスカイトは、シリコンと違って壊れやすいことで知られている。2009〜2012年に開発された初期のペロブスカイト太陽電池は、寿命が分単位だった。今回、新たに開発されたペロブスカイト太陽電池は、予測寿命が2017年に打ち立てられたこれまでの記録の5倍に延び、変換効率も上がっている(2017年のPSCは、室温の連続照明下で1年間稼働した。今回のPSCは、研究室の同様の環境で5年間稼働するとされている)。

プリンストン大学工学部のTheodora D. ’78 and William H. Walton III ’74教授のリン・ルー(Lynn Loo)氏が率いる研究チームは、この新しいペロブスカイト太陽電池と、こうした太陽電池の耐久性を試験する新たな方法について、「Science」に2022年6月16日付で公開した論文において明らかにした。

ルー氏は、記録を達成した新しい設計は、ペロブスカイト太陽電池が持つ耐久面の可能性に光をあてるものだと述べた。そして、シリコン系の限界を超えて太陽電池技術を拡大する手段になりうるとも語った。ただしルー氏によると、今回の研究では、これまで寿命の短さが問題だったこの太陽電池技術の耐久性を向上させたことよりも、それを証明するために、「加速劣化(accelerated aging)試験の新しい手法」を開発したことのほうが重要だという。

「今は我々が記録を手にしているかもしれませんが、いずれは、他の誰かがさらなる好記録を達成するでしょう。今回の研究で本当にエキサイティングなところは、こうしたデバイスの長期的な性能を把握する試験方法を得られた点です」とルー氏は語る。

ペロブスカイト太陽電池は寿命の短さで有名だったことから、長期試験はこれまであまり考えられていなかった。しかし、デバイスの改良で耐久性が高まった現在、丈夫で消費者が扱いやすい技術を展開するため、今後は性能を試験して設計を比較することが重要になる。

国立再生可能エネルギー研究所(NREL)でシニアフェローを勤め、太陽電池の物理学を専門とするジョゼフ・ベリー(Joseph Berry)氏は、「この論文は、効率性と安定性を交差させて性能を分析したい場合のプトロタイプになる可能性が高い」と説明する(ベリー氏は、今回の研究には関わっていない)。「安定性研究のプロトタイプをつくり、(加速劣化試験を通して)何が推定できるかを示したこの研究は、大規模な実地試験を始める前に誰もが知りたいと考える研究を実施してくれました。実に素晴らしいやり方で予測ができるようになったのです」

ベリー氏によると、ペロブスカイト太陽電池は過去10年、変換効率が目覚ましいペースで向上したものの、安定性の向上はそれほどではなかった。今後産業規模で広まるためには、試験のさらなる洗練が必要になる。そこで重要なのが、ルー氏らによる今回の加速劣化の手法だ。

「こうした試験がますます重要になります」とルー氏は指摘する。「効率が極めて高い太陽電池をつくることができても、安定していなければ役に立ちません」

これまでの歩み

ルー氏の研究チームは、2020年のはじめ、太陽光から電力への変換効率を比較的高く維持できて、しかも太陽電池を常に襲う熱、光、湿度などに耐えられる、さまざまなアーキテクチャに取り組んでいた。

ルー氏の研究室にいた博士研究員シャオミン・チャオ(Xiaoming Zhao)氏らは、同僚とともに、すでにいくつもの設計に取り組んでいた。最も脆弱な部分の暴露を防ぎつつ光の吸収を最適化するため、さまざまな素材の層を重ねていたのだ。研究チームは、重要な2つの層のあいだに挟む、超薄型のキャップ層を開発した(重要な2つの層とは、ペロブスカイトの吸収層と、第二銅塩などからなる電荷輸送層を指す)。この当時、ペロブスカイト半導体は、数週間や数カ月で駄目になってしまうのが普通だったので、それを防ぐことを目指した。

このキャップ層は超薄型だが、その薄さを理解するのは簡単ではない。説明するために、科学者たちは「2D」という言葉を使う。「2次元」とはつまり、厚みがまったくないということだ。実際には原子わずか数個分の厚みはあるが、人間の目にギリギリ見える大きさの百万分の一よりも薄い。2Dのキャップ層は新しいアイデアではないが、これから発展する有望な手法だと考えられている。2D層が長期性能を大きく向上させられることはNRELの科学者らによって証明されていたが、ペロブスカイトを寿命20年という商用化の閾値に近づけるデバイスは、まだどこも開発していなかった。

チャオ氏と同僚たちは、幾何学的構造の細部を変更したり、層の数を変えたり、材料の組み合わせを数十通り試したりして各設計のスコアを付けた。それぞれをライトボックスに入れて、繊細なデバイスに強い光を連続照射し、性能の経時的低下を測定した。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第1波が収まった2020年秋、研究室に戻ってきた研究者たちは、慎重にシフトを組みつつ実験を再開した。その際、チャオ氏はデータに奇妙なところがあるのに気付いた。ピークに近い変換効率で動き続けているように見えるデバイスが1セットあったのだ。

「半年近く経っていたのに、低下はほぼゼロでした」とチャオ氏は述べる。

この時チャオ氏は、リアルタイムでの実験よりも短期間で耐久試験を行う方法が必要だと悟った。

「我々が求める寿命は約30年ですが、デバイスの試験に30年かけるわけにはいきません」とチャオ氏は説明する。「だとすると、適度な期間で寿命を予測できる方法が必要です。そこで、加速劣化が非常に重要になります」

新しい試験方法では、デバイスに光をあてながら熱を与えることで、劣化のスピードを上げる。こうすることで、通常は定期的な暴露を何年も経た場合の変化が短期間で起きる。研究チームは、基準となる「典型的な夏の日の温度」から水が沸騰する温度より高い華氏230度(摂氏110度)まで、4つの加速劣化温度を選択し、4通りのデータストリームの結果を測定した。

そしてデータを組み合わせて推定し、室温で何万時間と光をあて続けた場合のデバイス性能を予測した。その結果、平均華氏95度(摂氏35度)で連続照射しても、ピーク時の80%以上の変換効率が、少なくとも5年間は続くことが判明した。ルー氏によると、実験室におけるこの結果は、標準的な計算方法を使うと、ニュージャージー州プリンストンに似た地域における屋外での、30年間の稼働に相当する。

NRELのベリー氏も、ルー氏と同意見だ。「信頼性は高い」と同氏は述べる。「実際にそうなるのを見たいという人はまだいます。しかし、他の数多ある予測の試みよりも、科学的にはるかに信頼性が高いのです」

太陽電池のマイケル・ジョーダン

ペロブスカイト太陽電池は2006年に提唱され、その後2009年に初めてデバイスが発表された。初期のデバイスの中には秒単位しかもたないものもあり、よくてせいぜい分単位だった。2010年代にはデバイスの寿命が日単位、週単位と延びていき、やがて月単位の時代に入った。そして2017年、スイスの研究チームが、1年間の連続照射に耐えるペロブスカイト太陽電池に関する画期的な論文を発表した。

一方で、この間、デバイスの変換効率は急上昇していた。最初のペロブスカイト太陽電池の変換効率は4%に満たなかったが、10倍近く上昇したのだ。再生可能エネルギー技術の各分野で科学者が目にしてきた中でも最速の改良だった。

ところで、なぜペロブスカイトなのだろうか。ベリー氏によると、最近の進歩を組み合わせると、ペロブスカイトには、他にない魅力があるのだという。高くなった変換効率、並外れた「調整しやすさ(特殊な用途に対応可能)」、資源リスクが少なく、それぞれの地域で少ないエネルギーを投入すれば製造可能であること。そして今回、さまざまな設計を試験できる高度な劣化促進プロセスが登場したため、信頼できる予測で長い寿命が確認されるようになった。

ルー氏によると、ペロブスカイト太陽電池は、多くのシリコンのデバイスに取って代わるわけではなく、この新技術が古いものを補完することで、太陽パネルの価格が下がり、効率と耐久性が今よりも上がり、現代生活のこれまでにない新しい場面へと太陽エネルギーが拡大するのだという。例えば、ルー氏の研究グループは先日、窓をそのままの見た目でエネルギーを生み出すものに変えることができる、完全に透明なペロブスカイトフィルム(異なった化学的性質を持つもの)のデモを実施した。他に、ペロブスカイトを使った太陽光発電インクをプリントする方法も各種考案されており、科学者たちは、プリントならではのフォームファクターを考え始めている。

結局、ペロブスカイトの最大の利点は何なのだろうか。ベリー氏とルー氏は、室温で製造できるところだという点で一致している。シリコンは華氏約3000度(摂氏約1650度)で加工するため、エネルギーをどこかから持ってくる必要があり、現時点では化石燃料を大量に燃やすことになる。

ベリー氏は、さらにこう説明する。ペロブスカイトはその特性を広い範囲で容易に調整できるため、異なるプラットフォームをスムーズに連携させることが可能だ。薄膜や有機光起電など、近年大きく進歩した新しい技術をシリコンと組み合わせる際に、ペロブスカイトのこの調整力が重要になる可能性がある。

「いわば、バスケットボール・コート上のマイケル・ジョーダンです」とベリー氏は述べる。「単独でも素晴らしいが、他のプレイヤー全員を生かすこともできるのです」

研究レポート:Accelerated aging of all-inorganic, interface-stabilized perovskite solar cells

この記事は、SpaceDaily.comが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。

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