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古いSIMカードから得られる金が未来の薬の材料になるか?

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小さなSIMカードに含まれる金が、リサイクル金属の豊かな金鉱になるかもしれない。Top Image Credit: Deposit Photos

化学者たちは、廃棄されたSIMカードを電子機器ではなく製薬の目的に再利用する道を示した。

携帯電話をネットワークに接続するのに必要なSIMカードは、少量のニッケル、銅、銀、金を含んでいる。インペリアル・カレッジ・ロンドンとイタリアのカリアリ大学の研究チームは、このE-waste(電子廃棄物)から得られる金をリサイクルし、製薬における化学反応で再利用する、環境負荷の低い方法を開発した。このプロセスは、E-wasteの埋立地行きを回避し、貴金属を採掘することなく再利用するのに役立つ可能性がある。今回の発見は、学術誌『ACS Sustainable Chemistry & Engineering』に2022年12月9日付で掲載された。

インペリアル・カレッジ・ロンドンの化学者であり、今回の研究を率いたジェームズ・ウィルトン=エリー(James Wilton-Ely)教授は、「廃棄物を利用して金属を回収する、より良い方法を見つけることができれば、採掘への依存度を下げることができるはずです」と語る。「また、深刻化の一途をたどる廃棄物問題の解決にも貢献するでしょう」

リサイクル手法の開発にあたり、研究チームはまず、オークションサイト「Ebay」で200枚の使用済SIMカードが入ったバッグを購入した。続いてSIMカードを粉砕し、プラスチックを除去したあと、基板に使用されているニッケルや銅などの金属を回収した。さらに金を回収するため、彼らは環境負荷の低い安全な試薬である硫黄配位子を利用した。この分子は金属原子を中心に結合し、化合物をつくる性質をもつ。だが、こうしてできた金の化合物は、電子機器に再利用することはできない。SIMカードから得られた金化合物を純金に戻すには、さらに精製が必要であり、大量のエネルギーを必要とする。そのため、SIMカードを電子機器に再利用することは現実的ではないのだ。

「回収された金化合物を、新しい回路基板やSIMカードに加工することは、経済的観点から見て実現不可能です」と、ウィルトン=エリー教授は説明する。「しかし、我々は別の用途を発見しました」

[関連記事:Inside the high-powered process that could recycle rare earth metals]

金などの希少金属は、製薬などの分野において、有用な化合物を生成する化学反応を加速させる触媒として利用されることがある。例えば、金のナノ粒子は、がん治療薬の開発過程での使用が検討されている。そこで、インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究チームは、SIMカードから回収された金化合物を、製薬において広く利用される化学反応の促進に利用できるかどうかを検討した。その結果、この化合物は触媒として、抗炎症鎮痛薬であるディフルニサルや、関節炎に効果のある抗炎症薬オキサプロジンなど、さまざまな薬剤の製造に利用できることがわかった。研究チームはまだ、実際にリサイクル金化合物を使って薬剤を製造したわけではないが、この研究により、E-wasteの新たな用途の可能性が示された。

「今回明らかになったのは、すべてを、最初に加工される前の状態に戻す必要はないということです」と、ウィルトン=エリー教授は言う。

現状、多くの触媒反応で貴金属が使用されている。金、プラチナ、イリジウム、パラジウムといったこれらの金属の採掘には大量のエネルギーが消費され、汚染を引き起こす。また、こうした金属資源は、地球上の限られた場所でしか得られず、地政学的状況によっては採掘が難しいことがある。例えば、ロシアはパラジウムとニッケルの主要産出国であり、同国に経済制裁が課された場合、市場に混乱が生じるおそれがある。

「化学者として、我々は常にこうした物質の希少性を認識しています」と、ウィルトン=エリー教授は言う。「そのため、日常的に廃棄される電子機器や電子部品の中にさまざまな種類の貴金属が含まれているという事実は、本当にショッキングなことなのです」

[関連記事:Your old computer could be a better source of metals than a mine]

埋立地の電子機器をあさり、捨てられたデバイスに第二の生を与えることは、貴金属産業にとってチャンスになりうる。今回の研究を行ったインペリアル・カレッジ・ロンドンのチームの一員である博士課程学生ショーン・マッカーシー(Sean McCarthy)は、プレスリリースでこう述べている。「重量あたりで言えば、コンピューターには、採掘された鉱石よりも多くの貴金属が含まれています。〈都市鉱山〉は、こうした金属が集中する資源の宝庫なのです」

今回チームが示したリサイクルプロセスは、SIMカード以外にも応用可能だ。回路基板やプリンターのカートリッジからも、この方法で金をリサイクルすることができると研究チームは述べている。化学者たちがさらなる応用可能性を探求する一方で、製薬会社はまだこうした研究に乗り出していない。これは、金が製薬デザインに取り入れられるようになってまだ日が浅いためだが、注目を浴びるのも時間の問題だと、ウィルトン=エリー教授は言う。

「我々が今開発している手法は、いずれ実用化されるでしょう。ただし金を触媒とした化学反応の利点が製薬プラントの設計に生かされるようになるのは、将来的なことになります」と、ウィルトン=エリー教授は述べた。

この記事は、Popular ScienceのZayna Syedが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。