【インタビュー】Ru配線用プリカーサーを開発 【田中貴金属工業株式会社 新事業開発統括部 チーフマネージャー 原田 了輔 氏】

半導体
貴金属循環 新たな可能性 - 海外展開・技術開発広がる商機 -

2026年5月7日 電子デバイス産業新聞

世界最高の蒸気圧実現

先端半導体の配線技術として、ルテニウム(Ru)などの代替材料の開発が進んでいる。田中貴金属工業㈱(東京都中央区)は、Ru配線向けのCVD(化学気相成長)/ALD(原子層堆積)材料としてRu前駆体(Ruプリカーサー)の開発に取り組んでおり、2020年には、世界最高水準の蒸気圧を実現した液体のRuプリカーサーを開発し、現在、本格的な普及に向けて量産準備を進めている。新事業開発統括部のチーフマネージャーである原田了輔氏にRuプリカーサーの特徴や今後の展望などを聞いた。

―CVD/ALD材料に着目する理由は。

原田:CVDとALDはいずれも基板に薄膜を形成する技術だが、近年は半導体の微細化を背景に、小さく深い穴にも均一な成膜が可能なALDが注目されている。ALDではプリカーサーと呼ばれる化合物を減圧や加熱してガス化し、それを加熱した基板に供給することで原子層レベルの薄膜が形成できる。

当社は現在、半導体向けの製品として、ボンディングワイヤーAg接着剤スパッタリングターゲットめっき液プローブピン用材料などを供給しているが、新たな事業領域として着目しているのがCVD/ALD材料だ。ALDで使用するプリカーサーについては、20年以上前から開発に取り組んできたが、20年に世界最高水準の蒸気圧を実現したCVD/ALD用プリカーサーを発表した。

―開発したプリカーサーの特徴は。

原田:現在、半導体の配線材料は銅(Cu)が主流だが、将来的にはCuよりも電気抵抗が低く、耐久性が高いRuへの置き換えが進むと予想されている。Ruプリカーサーは「DCR」「RuPta」「TRuST」など複数ラインアップしており、DCRは固体だが、RuPtaとTRuSTは液体のプリカーサーである。

なかでもTRuSTは蒸気圧が高く(気体になりやすい)、水素や酸素などの反応ガスで容易に分解するため、低抵抗なRu膜が成膜できる。常温での蒸気圧は従来のRuプリカーサーに対して100倍以上で、液体プリカーサーでは世界最高水準である。

プリカーサーは蒸気圧が高く、分子構造が小さいほど反応炉内の濃度や基板への吸着性が高くなるが、TRuSTは従来のプリカーサーに比べて、優れた段差被覆性と成膜速度を両立している。ちなみに、成膜速度は1サイクルあたり約1.7オングストロームで、液体のRuプリカーサーを用いたALD成膜では世界最高レベルである。

―どのように成膜しますか。

原田:酸素および水素のいずれの反応ガスを用いても成膜ができる。特に酸素と水素による2段階のプロセスでは、基板の酸化防止と高品質かつ低抵抗な成膜を実現している。1段目はプリカーサーの成膜後に水素を投入することで、基板表面の酸化を抑制する。このサイクルを繰り返したあとに、今度は酸素を用いた成膜に切り替える。各プロセスは同じ原料と成膜温度で行うため、プロセスや設備のコスト低減が期待できる。

―課題はありますか。

原田:ALDは微細で複雑な構造の表面に極薄膜を形成できるが、投入したプリカーサーに対して、成膜に使用できる量は少なく、材料の使用効率が良いとはいえない。また、Ruは希少金属で近年は価格も高騰傾向だ。資源保護や安定供給の観点からも、未利用のプリカーサーを回収してリサイクルする必要がある。当社も成膜後の使用済みプリカーサーを回収して高純度の金属Ruに戻す技術を開発している。

―今後の展望は。

原田:今のところ、Ru配線は2nm以降の先端半導体での採用が見込まれているが、本格的な普及に向けて、Ruプリカーサーの量産準備を進めている。また、Ru以外にも様々なCVD/ALD用貴金属プリカーサーを開発しており、CVD/ALD材料を将来の成長事業にしていきたい。

(聞き手・電子デバイス産業新聞 編集部 松永新吾記者)

この記事は、㈱産業タイムズ社の許可を得て、2026年5月7日に『電子デバイス産業新聞』に掲載された記事を転載したものです。

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