貴金属リサイクルで資源循環を支える 田中貴金属の競争力の源泉
2026年6月15日 雑誌「環境ビジネス2026年夏号(宣伝会議)」
貴金属業界は昔からサーキュラーエコノミー
1885年、東京・茅場町で両替商「田中商店」として創業した同社は、早い段階から白金、すなわちプラチナのリサイクルと工業製品の国産化に取り組んできた。現在は、主要な貴金属8元素(金、銀、白金族)を扱い、製品群は30種類以上に及ぶ。産業用事業では、半導体用ボンディングワイヤ、接点材料、めっき液、スパッタリングターゲット、ガラス溶解用の白金加工品、燃料電池用触媒、医療用材料など、幅広い分野に素材を提供している。
中でも資源循環の観点から注目されるのが、創業以来続く貴金属リサイクル事業だ。営業統括部の金光 重聡氏はこう語る。
「環境問題が騒がれるずっと前から、リサイクルは業界の絶対条件として、私たちのDNAに刻まれています。いかに限られた素材をうまく活用していくか。貴金属業界は、昔からサーキュラーエコノミーがあってこそ成り立つ業界です」
田中貴金属にとってリサイクルは、単なる「環境配慮」ではない。原料調達、技術開発、製品供給、顧客との関係構築を支えるものとして、事業の中核にある。
リサイクルは田中貴金属の事業そのもの
金、銀を含むすべての貴金属材料を取り扱うが、特に白金族、すなわちプラチナ、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウムは、同社が扱う白金族原料の約8割がリサイクル由来だという。
白金族は希少な資源である。これまで人類が採掘してきたプラチナは、推計で数千t規模にとどまるとされる。その希少金属をいかに再利用するかが、業界においては常に求められている。しかも、1tの原鉱石から採れる量はわずか数g程度とされ、採掘には大規模な掘削や輸送が必要になる。
製造統括部市川工場/袖ヶ浦工場工場長の小木曽 稔氏が「工業製品としてに白金族材料を活用するには、リサイクルすることは必須」と語るように、リサイクルは資源制約と経済合理性への現実的な解でもある。
(右)製造統括部 市川工場/袖ヶ浦工場工場長 小木曽 稔氏
集荷・前処理
まず重要になるのが「前処理」と呼ばれる工程である。スクラップが市場から集荷された後、「前処理」と呼ばれる最初の工程は、スクラップの中に貴金属がどのくらい含有されているか正確に分析するための代表サンプルを採取しやすい状態にするために実施される。スクラップは、必ずしも貴金属が均一に含まれた状態で入荷されるわけではない。そのため、スクラップの性状に応じて、焼成・粉砕・高周波熔解、時には酸溶解によりスクラップ全量を溶解するなどの前処理により、均一化しやすい状態にする。
前提として、貴金属の損失を生じさせない前処理技術を選定する必要がある。
評価
次に行われるのが「評価」。小木曽氏は「一番大事なのは評価技術」と強調する。
ここで問われるのは、持ち込まれたスクラップの中に、どんなの貴金属がどれだけ含まれているかを正確に測る技術だ。前処理されたスクラップを混合・攪拌などにより均一化した後、サンプルを取り、分析する。このサンプリング技術と分析技術が、顧客との信頼関係を左右する評価技術である。
同社の分析技術の高さを示す象徴的な実績が、LBMA※とLPPM※における「公認審査会社」としての認定だ。
※LBMAは金・銀、LPPMはプラチナ・パラジウムの国際市場を支える機関であり、流通する地金の品質を厳しく管理している
※LPPMの公認審査会社は世界でも現在6社で、日本では田中貴金属が唯一の審査会社である
分離・精製
この分離が技術的に最も難しい領域だという。工業製品には、プラチナ、パラジウム、ロジウム、イリジウムなど複数の白金族が合金として含まれ、さらに鉄、銅、ニッケル、クロムなど不純物となる元素も混ざっている。
「白金族は性質が似ているため、一つの元素だけを効率よく取り出すことが非常に難しい元素です。スクラップの中からひとつの貴金属を100%取り出すことができることは、顧客にとって大きな収益差となる。限りある資源の有効活用の側面からもこの分離技術の役割は非常に大きい」(小木曽氏)
製品化
そして最後が「製品化」だ。顧客から預かったリサイクル品は、精製して高純度の地金になった後、主に三つの経路をたどる。
田中貴金属が地金として買い取る方法。地金として顧客に返却する方法。そして、顧客が必要とする製品に加工して納入する方法である。このうち圧倒的に多いのが、製品として戻すケースだ。回収・精製した貴金属を顧客が必要とする製品として戻せるから、リサイクルの循環が成り立つ。
金光氏も「強みは、リサイクル専業でも製造専業でもないことにある」と語る。ワンストップサービスにより、工程間の連携がスムーズになり、品質の安定化と効率化を実現。顧客事業の資源循環の最適化を図るとともに、貴金属の安定供給を支えている仕組みとなっている。
製品開発とリサイクル開発がつながっている
同社にとって、独自な技術開発のメリットは、ワンストップゆえに、新しい材料を開発する段階から、将来のリサイクルを見据えられる点にある。
新たに製品を開発する際、製品開発側の技術会議にリサイクル側の技術者が参加し、将来回収が難しくなりそうな材料について、先回りして実験や検討を進めることもあるという。小木曽氏も「開発段階でサンプルをもらえるので、どこよりも先に回収精製の技術開発をスタートできる」と語る。
国内最大級の処理体制とグローバル展開
国内最大級のリサイクル処理体制を持つ同社。市川工場や袖ヶ浦工場では白金族系、湘南工場では金銀系のリサイクルを担うなど、扱う元素や工程に応じて拠点を分けている。また、DOWAメタルマイン、小坂製錬との合弁会社である日本ピージーエムでは、使用済み自動車触媒を大規模に処理する体制を構築している。
海外展開も進む。中国、台湾、マレーシア、アメリカ、スイスなどでリサイクル関連の拠点や技術連携を持ち、地域ごとに循環できる体制を整えている。背景には、バーゼル条約などによる国境を越えた資源移動の手続きの厳格化もある。貴金属を含む有価物であっても、有害物質を含む場合には簡単に輸出入できない。だからこそ、各地域でリサイクルできる「地産地消」の体制を持つことが、顧客にとっても重要になっている。
今後の課題は自動車触媒に続く新たな需要創出へ
今後に課題もある。白金族リサイクルでは、使用済み自動車触媒が大きな割合を占めている。しかしEV化が進めば、排ガス浄化触媒に使われるパラジウムやロジウムの需要は中長期的に減少する可能性がある。
小木曽氏は「自動車に代わる市場を作り出していかないといけない」と語る。特にパラジウムやロジウムは、自動車用途への依存度が高い。EVシフトによって触媒需要が減少すれば、回収される貴金属の行き先が失われ、リサイクルのスキーム全体に影響が出る。
脱炭素、医療、半導体へ広がる貴金属の可能性
では、ゆくゆく自動車に代わる市場とは何か。今後注力する分野として挙げるのが、脱炭素、メディカル、半導体である。
脱炭素分野では、燃料電池用触媒や水電解向けの貴金属触媒が量産化されていることに加え、CO2と水素からメタンやメタノールを生成する技術、アンモニアを分解して水素を取り出す技術などで、白金族触媒の可能性を探る。メディカル分野では、診断キットや医療機器向けの特殊な貴金属材料を展開している。半導体分野では、ボンディングワイヤ、接合材料、めっき液、スパッタリングターゲットなど、製造工程のさまざまな場面で貴金属材料が使われている。
小木曽氏が「貴金属が持つ可能性を引き出す。それは我々がしなければいけない使命」と語るように、今後は幅広い製造業と協業しながら、貴金属が持つ可能性をさらに開拓していく考えだ。
田中貴金属は、これまで培ってきた貴金属触媒技術と電気化学技術で、これからの発電システムに貢献する触媒開発を進めている
田中貴金属は、優れた表面処理技術で、材質の適用と寸法のばらつきを抑制、安定した接触抵抗を実現
さまざまな生産工程や燃焼装置から発生する排気ガス中のVOCや有害ガスを分解・無害化するためのハニカムおよびペレット触媒
(雑誌掲載記事の製品写真キャプションに誤表記がありました。正しくは本ページ掲載の説明の通りです。お詫びして訂正いたします。)
(担当者・株式会社宣伝会議 環境ビジネス 編集部 松井 英一)
この記事は、株式会社宣伝会議の許可を得て、2026年6月15日に雑誌「環境ビジネス」に掲載された記事を転載したものです。
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