技術特集:パワーエレクトロニクスの革新 ― 次世代半導体の信頼性と熱性能を支える銀接着剤

半導体
この画像はイメージです。

引用元: Power Systems Design(PSD)
日 付: 2026年2月19日
著 者: 伏見 恵典(田中貴金属工業株式会社 営業統括部 製品営業部 接合材料営業SECマネージャー)
リンク: Revolutionizing Power Electronics: Silver Adhesive Pastes for Next-Gen Semiconductor Reliability and Thermal Performance

パワーエレクトロニクス分野では、シリコンカーバイド(SiC)やガリウムナイトライド(GaN)といったワイドバンドギャップ半導体の普及に伴い、ダイボンディング技術の高度化が不可欠となっている。これらの技術は、従来のシリコンベースデバイスと比べて高いスイッチング周波数、高電力密度、さらには過酷な温度環境下での動作を可能にし、電気自動車(EV)、再生可能エネルギー、産業オートメーション、航空宇宙、電力変換技術といった幅広い分野で急速な進展を支えている。

一方で、こうした性能向上はデバイスパッケージングに対して新たな課題を突き付けている。スイッチング速度の向上と発熱密度の増加により、材料には長期にわたり信頼性を維持しながら、効率的な放熱と機械的応力の吸収が求められるようになった。しかし、高温対応の鉛系はんだや従来型の導電性銀ペーストといった従来材料は、こうした要求に十分応えられなくなりつつある。

これらの従来材料は、200℃を超える環境で動作するSiCやGaNデバイスに必要な弾性、熱伝導性、長期的な機械的安定性において限界がある。温度サイクルの繰り返しにより、クラックや層間剥離、熱疲労が顕在化し、ミッションクリティカルな用途における信頼性を損なうリスクが高まっている。

このようなデバイス性能とパッケージ耐久性のギャップを背景に、業界では高い熱負荷に耐えつつ機械的信頼性を維持できる新材料の開発が加速している。その有力な解決策として注目されているのが、銀接着剤である。

次世代ダイボンディング材料としての銀接着剤

銀接着剤は、高温・高出力用途における新たな接合材料として注目を集めている。高い熱伝導性、優れた電気特性、そして機械的な弾性を兼ね備えており、従来材料では両立が難しかった性能バランスを実現している。

これにより、従来の接合材料と比べて効率的な放熱を可能にする低抵抗の熱経路を形成すると同時に、ダイと基板間の熱膨張差に起因する機械的応力を吸収することができる。また、はんだに比べて低温(一般的に200℃以下)でプロセスが可能であり、実装時の熱ストレスを低減し、温度に敏感な半導体構造にも適用できる点が大きな利点である。

ハイブリッド焼結材料による性能向上

さらなる信頼性向上を目的として、焼結銀ネットワーク内に特殊樹脂を組み込んだハイブリッド焼結銀ペーストの開発が進められている。従来の焼結銀は非常に高い熱伝導性を有する一方で、剛性が高く、温度サイクルの繰り返しにより剥離が生じやすいという課題があった。一方、樹脂系接着材は柔軟性に優れるものの、高出力用途に必要な熱放散性能には限界がある。

ハイブリッド焼結技術は、金属銀による優れた熱伝導経路と、樹脂による弾性および応力吸収機能を融合するものである。これにより、接合強度の向上、ダイ剥離の抑制、高温環境下での層間剥離耐性の向上が実現される。結果として、温度変動や高負荷環境下での疲労破壊を大幅に低減し、SiCやGaNデバイスに最適な接合材料となる。

高温・高出力用途への適用拡大

SiCおよびGaNデバイスの普及に伴い、接合材料にはより厳しい熱的・機械的負荷への対応が求められている。銀接着剤は、こうした要求に応える材料として、各産業分野での活用が進んでいる。

電気自動車分野では、インバータやオンボードチャージャーが高温環境下での連続動作や振動、温度サイクルにさらされる。銀接着剤は熱伝導経路の強化と接合信頼性の向上に寄与し、システムの安定性向上と故障リスクの低減に貢献する。

産業オートメーション分野では、モータードライブやロボティクス機器が長時間にわたり高温・高負荷で稼働する。銀接着剤は高い接合強度と安定した熱特性を維持し、コンパクトかつ高効率な設計を可能にする。また、長期にわたる電力サイクル下でも構造的安定性を維持することで、予知保全の実現にも寄与する。

再生可能エネルギー分野においては、太陽光インバータの高温ピークや風力発電の低温・高振動環境といった特有の課題が存在する。銀接着剤は安定した電気・熱インターフェースを提供し、温度変動による性能劣化を抑制する。さらに、その高い熱伝導性と弾性により、屋外環境での信頼性向上に寄与する。

航空宇宙・防衛分野では、極端な温度変化や強い振動といった過酷な条件下での動作が求められる。銀接着剤は高温耐性と機械的強靭性を兼ね備え、厳しい熱・機械ストレス下でも接合界面の健全性を維持し、ミッションクリティカルな用途における高い信頼性を実現する。

次世代パワーデバイスを支える基盤技術

高性能半導体への需要が世界的に拡大する中で、それらを接合・封止・保護する材料にも同様の進化が求められている。特にハイブリッド焼結型を含む銀接着剤は、熱的・機械的・環境的課題を同時に解決する有力なソリューションである。

優れた熱伝導性、応力吸収性、高温耐久性、さらには鉛フリーによる環境対応性を兼ね備えた銀接着剤は、より高信頼・高効率な電力システムの実現に向けた重要な基盤となる。

材料技術の革新が加速し、ワイドバンドギャップ半導体が主流となる中で、こうした接合技術は今後の電動化と高性能パワーデバイス設計を支えるだけでなく、その実現を可能にする中核技術として位置付けられる。

本記事は、Power System Designの許可を得て、Power System Designの2026年2月19日付の記事を田中貴金属が翻訳・転載したものです。

本記事はPower System Designに掲載されたものです。詳細はこちらをご覧ください。
続きを見る (Power System Design)

関連情報

パワーデバイスへのTANAKAの取組
パワーデバイス用アルミニウム・銅ボンディングワイヤ
ダイボンド用銀接着剤
活性金属ろう材

パワー半導体パッケージング技術の最新動向、
高放熱性・高耐熱性を実現する最先端素材

スマートフォンや電子機器等の省エネ化、EV等の次世代モビリティ、基地局、
再エネの電力制御など、パワー半導体の技術開発は、ますますの高出力化や高効率化が進みます。
高放熱・高耐熱・接合信頼性の工場・小型化などの課題に対応するための最先端素材と、
パッケージングの技術動向をご紹介します。

この記事はどうでしたか

参考になった方は、シェアをお願いします。