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大気から水を作り出す技術が、未来の脱炭素化に貢献する

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大気から水を作り出す技術が、未来の脱炭素化に貢献する

国際連合児童基金(UNICEF)と世界保健機関(WHO)の調査によると、給水設備のない家に住んでいる人は、世界中で18億人いると推定される。水を汲みに行くのは、日々の生活において、不可欠な仕事である。そのような家庭の70%で、女性や少女たちが行うことになっているが、長くて危険な行程を伴うことも多く、それによって教育や仕事、自由な時間が奪われている。この問題は、気候変動と戦争によってさらに悪化する。国連の持続可能な開発目標の6番目である「安全な水を世界中に」を2030年までに達成するには、水不足に取り組む努力を大幅に加速する必要がある、と専門家は警告している。

しかし、もし太陽のエネルギーを利用して、大気から、きれいで安全な飲料水を作り出す方法があったとしたらどうだろう? 手品のように聞こえるかもしれないが、それこそが、英ノーザンブリア大学機械建築工学部准教授のムハンマド・ワキル・シャザド博士(Dr Muhammad Wakil Shahzad)が、自分の研究チームとともに考案したものだ。彼らが考案した、携帯可能なシステム「Solar2Water」は、太陽エネルギーを利用して、空気から水分を抽出して水に変えるもので、装置のサイズに応じて最大で1日500リットルの水を得ることができる。この装置は、難民キャンプで暮らす、住む場所を失ったコミュニティや被災地、その他の遠隔地などにとって大変革をもたらすと考えられている。その主な理由は、空気中の湿度に関係なく、一定量の水を作ることができるからだ。

ノーザンブリア大学は工学研究に優れていることで高く評価されており、英国北東部でエネルギー材料およびシステムに関する研究を活発に行う体制の一部を担っている。ノーザン・アクセラレータ―(Northern Accelerator)プログラムのようなコラボレーションを通じて、商業的な可能性が評価されており、Solar2Waterのような革新的なアイデアが、民間のスピンアウト事業になっている。

シャザドのチームは、大学から資金を得て研究室でプロトタイプを開発したのち、ノーザン・アクセラレータ―とICUReに紹介された。ICUReは、イノベートUK(Innovate UK)プログラムの専門組織であり、概念実証製品を開発し、その商業化の可能性を探ることを目的としている。Solar2Waterはすでに関心を集めており、「社会的インパクトのための技術」に関する賞を受賞し、メキシコやカメルーン、南アフリカから受注している。

シャザドは、以前にシンガポールとサウジアラビアで、太陽光を使った大規模な脱塩技術(海水から塩を取り除いて安全な飲料水を作る技術)を開発したことがある研究者だ。同氏は次のように述べている。「私の心の中には常に、遠隔地のコミュニティを助けるために何かしたいという思いがありました。ノーザンブリア大学は、当初から十分に支援してくれました。概念を理解し、我々がやろうとしていることは非常に良いことだと考えてくれました」

世界は、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにするという、前例のない難題に直面している。しかし、シャザドのアイデアのような革新的な技術は、再生可能エネルギーが本格的に稼働したときに何が可能になるかを示す上で役に立っている。地球が1時間に受ける太陽光の量は、世界の1年間の電力需要を満たすのに十分だと推定されている。つまり、太陽エネルギーだけでも膨大な潜在能力があるということだ。ノーザンブリア大学でエネルギー革新を専門とするニール・ビーティー(Neil Beattie)教授は、「英国は過去10年間で、自国のエネルギー供給の脱炭素化において素晴らしい仕事を成し遂げてきました」と語る。「しかし重要なのは、我々がその栄光に甘んじないことです。研究の点では、取り組むべき多くの分野があり、ノーザンブリア大学はその最前線にいます」

ビーティー自身の研究も、太陽エネルギーを利用する新しい方法を見つけることが中心だ。ビーティーは、100万ポンド(約2億600万円)を超える資金提供を受けて、窓やバルコニーのような構築環境にあるさまざまな製品に、光起電材料をどのように統合できるかをテーマとするチームの一員だが、他にも潜在的な用途は存在する。ひとつには、この技術をEV(電気自動車)の屋根に埋め込むことで、自身で作り出した太陽光エネルギーを利用できるようにすることが挙げられる。「我々の取り組みは、従来のソーラーパネルと競合するものではありません」とビーティーは述べる。「一方で、我々がさらに魅力的な統合を達成し、それをより広い面積に導入できたとしたら、まだ発電を行っていない地域で、切望されている容量が追加されることになります。これは、現地で発電される電気のための、変革的な解決策になる可能性があります。増え続ける需要を満たし、エネルギー的な安全をより一層もたらすものです」

ビーティーには、再生可能エネルギーの新しいチャンスを作ると同時に、新世代の人材を育てるという重要な役割がある。彼は、再生可能エネルギー北東部大学連合(ReNU)の責任者を務めている。ReNUは、ノーザンブリア大学、ダラム大学、ニューカッスル大学の間で結ばれたパートナーシップであり、これら3大学が、英国工学物理科学研究会議(EPSRC)から520万ポンド(約10億7000万円)の資金提供を受けた後に立ち上げられた。「我々は、エネルギー材料とシステムに関して我々が持っている優れた研究成果をすべてひとつに集め、即戦力のある博士レベルの卒業生を生み出すシステムを作ることに、大きな利益があることを認識しました」とビーティーは言う。「我々が共に取り組むことで、再生可能エネルギーや持続可能な分散型エネルギーの技術を開発・商業化する、高い技術を持つリーダーたちを生み出します」

ReNUの学生たちは、従来の博士課程プログラムに加えて、イノベーション研修を受講し、Mini-MBA(学位は取得できないがMBA的な内容が含まれている授業)に参加し、業界の現地視察に訪れる。視察のなかには、近くにある、100mを超える風力タービンブレードの試験を行っているオフショア・リニューアブル・エナジー・カタパルト(Offshore Renewable Energy Catapult)への、グループ単位での訪問も含まれている。「この追加研修は、学生たちに対して、再生可能エネルギーに関する全体像を示します。これによって彼らは、それぞれの技術にとどまらず、本当に幅広くエネルギーについて考えることができます。例えば、ソーラーパネルに使用するバッテリー・カソードや新しい電解液、新しい種類の材料などについてです」とビーティーは述べる。

ReNUとともに取り組む業界パートナーのひとつが、化学技術と持続可能な技術を提供する企業であるジョンソン・マッセイ(Johnson Matthey)だ。マーティン・ヘイズ博士(Dr Martin Hayes)は、同社のライフサイエンス技術のグローバル・テクノロジー・マネジャーであり、ReNUの諮問機関の一員でもある。ジョンソン・マッセイは、ReNUの博士課程で学ぶ一人の学生に資金を提供している。この学生は、生体のバイオニックリーフの開発に取り組んでいる。太陽光を取り込むことで、二酸化炭素と水から、太陽燃料や化学物質を作り出す装置だ。「このプロジェクトを見たとき、ああ、これは実に興味深いと思いました」とヘイズは振り返る。「太陽光だけを使って二酸化炭素を燃料にアップグレードできるプロセスをひねり出すことができれば、素晴らしい結果になります。仮にそれができなかったとしても、我々は、この業界で必要とされる技術の多くを身に着けた、非常に専門性の高い博士課程修了者の教育を支援したことになります」

ノーザンブリアのような大学が行っている研究は、ジョンソン・マッセイのような業界パートナーにとって非常に貴重だ、とヘイズは指摘する。当該部門に対する多種多様な将来の人材プールを構築するのに役立つだけでなく、大きく変化する技術を取り巻く初期段階のプロジェクトの多くから、リスクを取り除くことができるからだ。「テストに成功すれば、大学と協力して、その技術を商業化することができます。業界は、ReNUのようなパートナーと協力することで、利害関係者たちにとって魅力的で実行可能な方法で、最先端の技術を探ることができます」

ReNUの成功は、追加の1100万ポンド(約22億6600万円)の資金提供につながった。これは、プログラムを拡大し、失業中や障害のある人々、介護をしている人、退役軍人など従来とは異なる学歴をもつ人々や、その他の過小評価されている団体などに、博士レベルの研修の利用を広げるためのものだ。さらに各大学は、地方自治体や業界、慈善団体といった、枠を超えたパートナーと協力して、体験セッションを実施して人々が再生可能エネルギーに関わりやすくしたり、コース自体には登録していない人々に向けて、研修プログラム内の短いモジュールを提供したりしている。

ビーティーは、「もしあなたが企業の経営者で、カーボン・アカウンティング(炭素会計)について知りたいと思ったときは、我々の研修プログラムに1週間参加して、専門的能力を身につけることができます」と説明する。「排出実質ゼロに到達したいと思うなら、すべての人々を巻き込む必要があります。我々には、その実現のために見つけることができる、あらゆる見通しと人材が必要です。これは非常に大きな難題であり、責任です。全員で取り組まなければなりません」

この記事は、The GuardianのEmma Sheppardが執筆し、Industry DiveのDiveMarketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。