Libの安全性を高めるための一般的な解決策のひとつは、熱伝導中間層を使用する方法だ。熱伝導中間層は、電池モジュール間の温度を均一化し、摂氏15~45度の範囲に収めるように設計された材料を指す。大容量Libの安全性を確保するには、これらの材料が、熱伝播を防げるほど高い熱絶縁性を持ち、電池内の温度が均一に分散されるようにしなければならない。
清華大学と浙江大学の研究者は最近、この両方の基準を満たし、大容量電池の温度を効果的に調整できる、新しい熱スイッチング材料を設計した。『Nature Energy』誌で発表されたこの材料は、温度に素早く応答するため、電池がさまざまな動作条件下で放電と充電を安全に繰り返すことが可能になる。
a. 熱スイッチング材料(TSM)における熱スイッチングのメカニズム。通常の動作条件下では、この熱伝導ネットワークはフォノン輸送に最適で、1W m-1 K-1を超える熱伝導率を確保できる。熱暴走(TR:thermal runaway)条件下では、熱によってマイクロスフェア(微小球)の体積が膨張し、2次元フレークが分離するため、熱伝導率は0.1W m-1 K-1未満になる。赤い矢印の幅は、熱流束(単位面積あたりの伝熱量)の強度を表す。b. 2次元フレークとマイクロスフェア懸濁液の凍結成形(freeze-casting)により、ポリマーを浸透させて交互積層構造を形成する自己組織化プロセス。フレークとマイクロスフェアは、高速攪拌によって水中に均一に分散し、スラリーを形成する。マイクロスフェアは、ヒドロキシル基を豊富に含むため、凍結過程でグラフェン・水・マイクロスフェアのコアシェル構造が形成されやすい。そのため、グラフェンシートが互いに重なり合いながらも、熱応答性マイクロスフェア層と密接に連結する構造が形成される。凍結乾燥後に交互積層構造が得られ、その後シリコーンゴムを浸透させることで、このTSMが得られる。出典:Nature Energy (2024). DOI:10.1038/s41560-024-01535-5
ジン・ワン(Jing Wang)とシュニン・フェン(Xuning Feng)をはじめとする共著者らは論文で、「熱的安全性管理の効果は、中間層材料の熱伝導率に依存するが、既存の設計では、性能と安全性の両方に必要な応答性が不足している」と述べている。「我々はこの難問に対処するため、熱伝導状態から断熱状態への熱スイッチング率が高い熱スイッチング材料を設計した」
ワンやフェンらのチームが設計した熱スイッチング材料は、連結されたグラフェン層の間にマイクロスフェア(微小球)が埋め込まれた構造になっている。注目すべきは、温度変化に応答して、このマイクロスフェアの体積が膨張することだ。
マイクロスフェアが温度に敏感に応答して膨張することで、隣接する2次元グラフェン層が分離し、熱の輸送が妨げられる。その結果、電池内の温度が調整され、電池の爆発を回避できる。
研究者らは、設計した材料の性能を評価するため、この材料を、50AhのNCM(ニッケル・コバルト・マンガン)系Libに組み込み、電池の中間層として使用した。その結果は、非常に期待の持てるものだった。この材料がサーマルレギュレーターとして機能し、爆発につながりかねない熱伝播や連鎖反応を防ぐことが判明したのだ。