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“折り紙にヒントを得た”折り畳める電極が、脳手術の負担を軽減するかもしれない

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“折り紙にヒントを得た”折り畳める電極が、脳手術の負担を軽減するかもしれない

オックスフォード大学とケンブリッジ大学が率いる研究チームは、本来の大きさの数分の1に折り畳むことができる、「折り紙にヒントを得た」新しい脳電極を作った。これにより、てんかんなどの疾患の治療や、ブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)の設置に必要な外科手術の程度を大幅に減らせる可能性がある。

てんかんなどの疾患を正確に診断し治療するには、脳における電気的活動の測定が不可欠だ。一方で、その測定には、開頭術を施し、頭蓋骨に大きな穴を開け、脳の表面に直接電極を配置するために、外科医が必要になることが多い。これは、極めて侵襲的な方法であり、通常は治癒に長い時間がかかる上、重大な感染リスクを伴う。

「Nature Communications」に2024年7月26日付で発表された研究は、折り畳めるデザインを採用した脳電極を使うことで、機能に影響を与えることなく、必要となる切開面積を5分の1程度に減らせる可能性があることを示したものだ。論文のタイトルは、「Origami-inspired soft fluidic actuation for minimally invasive large-area electrocorticography(最小限の侵襲性での大面積皮質脳波検査に向けた、折り紙にヒントを得た柔軟な流体アクチュエーション)」だ。

論文の上席筆者である、オックスフォード大学基礎工学科のクリストファー・プロクター(Christopher Proctor)准教授は、次のように述べている。「この研究は、鍵穴手術に似た外科手術によって、脳の大きな面積と直接情報をやりとりするための新しい方法を示しています。この研究の潜在的な意義は2つあります。第1に、てんかん患者にとって侵襲性の低い診断ツールになることが期待できます。第2に、最小限の侵襲性という性質により、ブレイン・マシン・インターフェースにおける新しい用途が可能になると我々は期待しています」

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折り紙にヒントを得た電極アレイが、最小限の侵襲性外科手術による移植後に、脳の表面で広がる様子のイラスト。画像提供:マッシモ・マリエロ(オックスフォード大学)

この装置は、完全に広げると、平らな長方形のシリコンウェハーのような外観になり、32個の電極が埋め込まれ、ケーブルにつながれている。厚さ約70ミクロン(人間の髪の毛の幅と同じくらい)のこのウェハーを、アコーディオンのように折り畳むと、直径わずか6mmの穴を通るようになる。脳表面の適切な位置に置かれると、ウェハー内の加圧流体で満たされたチャンバー(小室)が膨張し、装置が広がって、5倍の大きさ、最大600平方ミリメートルの面積を覆うようになる。

比較として、折り畳むことができない同じ大きさの装置を使う場合は、通常は頭蓋骨から、少なくとも600平方ミリメートルの面積を切り取る必要がある。

研究チームでは、ケンブリッジ大学とボローニャ大学の施設で、麻酔をかけたブタを使って実験を行い、この装置の機能を確認した。この実験により、折り畳まれた状態から広げられた電極が、脳活動を正確に検知して記録できることが示された。

研究チームによるとこの装置は、数年以内に人間の患者の治療に使われ始める可能性があるという。世界中で5000万人近くの人々がてんかんを患っているが、てんかんによる早死の危険は、一般の人々と比べて最大で3倍高い(世界保健機関による)。

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より安全で侵襲性が低いてんかんの外科手術マッピングのために設計された、薄膜の柔軟なロボット電極アレイ。画像提供:ローレンス・コールズ(ケンブリッジ大学)

筆頭筆者である、ケンブリッジ大学工学部のローレンス・コールズ(Lawrence Coles)博士は、次のように述べている。「我々は現在、複数の臨床パートナーと協力して、2年以内に人間の患者で試験を開始することを目標に、装置の設計改良を進めています。この取り組みは、てんかん以外にも、特定の脳腫瘍のような、脳発作につながるその他の疾患の診断や治療に利用できます」

研究チームによると、折り畳む設計により、ブレイン・コンピューター・インターフェースの設置に必要な外科手術の程度を減らすこともできるため、障害のある人々にとって有益であるだけでなく、人間とコンピューターの対話を最適なものにする可能性があるという。

「ブレイン・コンピューター・インターフェースという開発分野は、非常に動きが速く、将来性があるものです」と、コールズ博士は付け加える。「とりわけ興味深い分野は、発話を直接デコーディングする技術です。これは、脳の表面自体から出る信号を、電極が直接測定し、その人が何を言おうとしているかを翻訳します」

てんかん学会の医療ディレクターを務め、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)で神経学を研究するレイ・サンダー(Ley Sander)教授(今回の研究には参加していない)は、以下のように述べている。「今回の研究は、脳外科手術における刺激的な新しい取り組みですが、まだ極めて初期の段階です。脳外科手術の侵襲性や感染の危険を減らす技術は、どのようなものであれ歓迎されるべきです。それが回復期間を短縮する見込みがある場合は、特にそうです」

「脳外科手術は、発作が起きる脳の領域を正確に特定できる人々に対してしか行うことができません。しかしこれらの患者において、脳外科手術は、発作フリー(発作のない状態)という現実的な希望を与えてくれるものです」

※メイン写真:折り紙にヒントを得た柔らかいロボット電極アレイ。侵襲性外科手術を行う神経マッピングを最小限にするために、脳の表面に配置するものだ。画像提供:ローレンス・コールズ(ケンブリッジ大学)

この記事は、Medical Xpressが執筆し、Industry DiveのDiveMarketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。