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グーグル、AIで強化した高精度の気象シミュレーターを開発

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グーグル、AIで強化した高精度の気象シミュレーターを開発

人工知能(AI)で強化された新しい気象シミュレーターは、従来の天気予報に匹敵する精度を実現できるだけでなく、気候変動によって大気がどれだけ温暖化しているのかを推測できる。開発に携わったグーグル(Google)主導の研究チームによると、このシミュレーターは、現在必要とされている計算能力に比べると、そのごく一部しか必要としない気象・気候モデリングツールの開発につながる可能性があるという。研究論文は、2024年7月22日付で『ネイチャー(Nature)』誌に発表された。

グーグルの研究員でこのプロジェクトを率いるステファン・ホイヤー(Stephan Hoyer)氏によれば、標準的な物理ベースのモデルと機械学習(ML)ツールを組み合わせたハイブリッドアプローチを用いることで、AIのみを用いた実験で見られる問題を回避した。「私たちは、ブラックボックスを解体しようと懸命に取り組んできました。純粋なAIモデルだけを使うのでなく」と同氏は言う。

気象・気候モデルは、ローカル放送局の気象予報士から、人類がどれだけ地球を暑くする可能性があるのかを研究している気候科学者に至るまで、あらゆる人にとって頼みの綱だ。今日の気候モデルは、物理現象をソフトウェアで表現したもので、地球システムの主要な構成要素である大気、海洋、陸地、氷が相互に作用するように設定されている。

こうしたモデルは、局所的な現象よりも、大規模な気候・気象システムをより確実に捉えることができる。雲や降雨、竜巻などは、非常に小さな規模で発生するため、一般的な方程式では説明できない。そこで科学者は、現実世界のデータからこれらを推定し、「パラメーター」としてモデルにプログラムするのが普通だった。

「ニューラルGCM(NeuralGCM)」と呼ばれる今回の実験的モデルは、大規模な物理現象のシミュレーションには既存の大循環モデル(General Circulation Model:GCM)を用いる一方で、小規模な現象の推定にはニューラルネットと呼ばれる機械学習アプローチを用いる。

「そのおかげで、これまでより安定性が格段に高くなるだけでなく、数年先はもちろん、数十年先までの長期にわたって実行した場合でも、はるかに信頼性の高い結果をもたらすモデルを構築できます」と、ホイヤー氏は語る。

今回の研究について、テキサスA&M大学で大気科学を研究するR・サラヴァナン(R. Saravanan)教授は、「大気モデリング及び長期気象予測における重要な進歩ですが、(より長期的な)気候予測に関しては、必ずしも大きな飛躍とは言えません」と評している(同氏は、今回の研究には関わっていない)。

ハイブリッドモデルには限界がある。計算されるのは大気中の気温上昇のみで、海洋や陸地、氷上の気温上昇は考慮されない。これに対し、従来のモデルは地球システムの主要要素をすべてシミュレートできる。また、今回の新しいアプローチでは、研究者が大気中の温室効果ガスのレベルを変化させることもまだできない(こうした機能は、現代の気候モデルの中心的機能だ)。研究チームは、大気の変化をシミュレートするために、排出量ではなく海面温度を利用している。

サラヴァナン教授によれば、この研究が特に役立つ可能性があるのは、季節レベルか、それに近いレベルでの気象予測だという。このアプローチを海洋にまで拡大できれば、「エルニーニョ」や「ラニーニャ」といった気象パターンを研究する研究者にとっても役立つ可能性があると、同教授は語った。

グーグルのホイヤー氏によると、研究チームは、ニューラルGCMで1年先のハリケーン予測を生成する機能を開発中とのこと。その有用性が証明されれば、人々が嵐に備えたり、気候変動に適応したインフラを構築したりするのに役立つ可能性がある。

機械学習を活用した大気モデルは、標準的なモデルと比べてはるかに高速なうえ、必要な計算能力が少ない。そのようなモデルのひとつで、やはりアルファベット(Alphabet)傘下のグーグルが開発した「グラフキャスト(GraphCast)」は、5417行のコードでできているが、米政府のモデルは37万6578行だ。「(ニューラルGCMなら)ノートパソコンで実行できます」と、ホイヤー氏は述べる。

それでも、ある気候科学者は、今回の新しい研究結果について、機械学習は物理シミュレーションの代わりにはならないと警告している。米航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙科学研究所で所長を務めるギャビン・シュミット(Gavin Schmidt)氏は、「現在の気候モデルなしに、気候の未来にたどり着く道はありません」と話す。

科学者は通常、温室効果ガス汚染によって生じ得る地球温暖化のレベルを「範囲」で推定する。これは、気候の混沌とした性質を反映させてのことだ。天気予報も同じで、例えば気象予報士は「40%の確率で雨が降る」といった言い方をする。物理学に基づくモデルは、その混沌に焦点を当てることができる。そして、気温上昇に対して地球がどう反応するかに制約を加えられるようにしている。だが、AIモデルは物理量を直接計算しないため、予測に特有の避けられない曖昧さを捉える手段を持たないと、シュミット氏は言う。

今回の新しいモデルで最も明確な進歩は、機械学習のみを用いた気候シミュレーションを上回る可能性があることだろう。

サラヴァナン教授は、「一見すると、ニューラルGCMは、純粋な機械学習ベースのモデリングにおける大きな進歩のように思えます」と述べる。「しかし、実際は正反対で、この論文は、純粋な機械学習ベースのアプローチの限界を浮き彫りにしているのです」

このプロジェクトは、グーグルが進めている大規模なAI展開の一部だ。論文著者らによれば、物理学とAIを組み合わせたハイブリッドアプローチは、材料科学、タンパク質の折り畳み、および工学における他の取り組みも後押しする可能性があるという。もっとも、すでにAIは、グーグルに別の影響をもたらしている。 電力を大量に消費するAIコンピューティングにより、同社の温室効果ガス排出量は、5年間で48%増加した。

この記事は、BloombergのEric Rostonが執筆し、Industry DiveのDiveMarketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。