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銀はCO2排出量の削減に役立つか? 持続可能な未来における貴金属の役割

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銀はCO2排出量の削減に役立つか? 持続可能な未来における貴金属の役割

かつて宝飾品や貨幣の製造で重宝されていた銀が、グリーン経済への移行に欠かせない物質になりつつある。

貴金属の銀は現在、ソーラーパネルや電気自動車(EV)、浄水器、水素燃料など、幅広い用途で使われるようになった。こうした変化によって、銀の有用性が再評価されており、サステナビリティーの専門家のあいだでは銀が人気を集めている。ライフスタイルや経済活動の脱炭素化が世界中で進められているなかで、銀は不可欠な存在となる可能性がある。

銀の重要性が高まっていることは、当然ながら銀の価値を高めている。最新の自動車や通信機器、そして特定の医療用途などに銀が欠かせない存在となった結果、先物価格の上昇傾向が続いている。

現在、銀の価格は10年ぶりの高値に近づきつつある。とはいえ、2011年のピーク時と比べれば、その価格はまだ4分の3程度だ。2011年は、1979年と1980年に銀不足と市場支配の失敗があった後、2回目のピークを迎えた年だった。2011年の急騰は、米国と欧州の債務危機によって引き起こされたものだ。

銀ビジネスで大きな変化が起こるのは、今回が初めてではない。原子番号47の元素である銀は、紀元前3000年頃からアナトリア(現在のトルコ)で採掘や加工が始まり、ギリシャ、北アフリカ、スペイン、ローマ帝国など、あらゆる地域の先進文明を支えてきた。銀の初期の用途としては、硬貨や銀食器などが挙げられるが、デザイナーや職人にとって、銀は装飾部材でもあった。

それから数千年後、新世界を荒らし回った探検家たちが銀の新たな産地を発見し、銀生産の中心はアメリカ大陸に移った。16世紀~18世紀にかけて、現在のメキシコ、ボリビア、ペルーは、数十億トロイオンス(約数万トン)の銀を供給し、世界の生産量の85%を占めた。今日これらの国々が世界の銀生産量に占める割合は40%超だ。例えば、太陽エネルギー市場では銀のニーズが非常に高い。ニューサウスウェールズ大学の研究者によれば、2050年までには、世界の銀埋蔵量の少なくとも85%が必要になるという。

そこで、貴金属販売企業のSDブリオン(SD Bullion)は、グリーン経済に向けた持続可能な取り組みにおいて、銀が炭素削減に果たす役割を評価するため、米国のシンクタンク「The Silver Institute」やカナダ造幣局CarbonCredits.comなどから得た情報に基づいて、銀がどのように利用されているのかについて調査した。

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Source: SD Bullion

電気部品としての利用が拡大

銀の需要は供給を上回っている状況だが、その原因は、産業用需要の高まりにあるかもしれない。マーケットパルス(MarketPulse)によると、産業用需要は、2023年から2024年で19%増加し、世界需要全体の64%に達したという。

銀は今でも、宝飾品や家庭用品の製造に広く利用されているが、他の用途も急速に拡大している。産業用需要は2033年までに46%増加すると見られており、そのひとつである電気・電子用途では、中国が55%の増加を牽引すると、The Silver Instituteは予測している。

こうした需要は、太陽光発電パネルの生産や、EV用部品(スイッチ、コネクタ、ヒューズなど)の生産が増えるという予測を織り込んだものだ。2022年には、販売された工業用銀の3分の2が電気産業と電子産業で使用されており、次の10年が終わる頃には、中国が工業生産の60%を占めるようになるだろう。太陽光発電とEVというこれら2つの産業が重要な理由は、消費者が最も目に見える形でクリーン経済に貢献できる産業だからだ。米国のバイデン大統領とハリス副大統領の政権は、インフレ抑制法などの法案を通じて、こうした製品の選択を支援してきた。

銀は、導電性と低抵抗性を備えているため、ソーラーパネルに非常に適している。ペースト状にした銀を、セル上部のシリコンに塗布すれば、太陽からのエネルギーを可能な限り効率的に吸収できるからだ。また、この同じ特性のおかげで、銀はEVにも適している。銀はバッテリーの貯蔵能力を高めるほか、「最新の自動車における、あらゆる電気的接続」を円滑にして機能を最適化できる、とThe Silver Instituteは説明している。

自動車業界では、銀の利用が増え続けるだろう。内燃機関で動くクルマと比べると、EVでは、車両自体や充電ステーションなどの関連インフラで、より多くの銀が必要となるからだ。

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Source: Canva

その他の重要な用途

銀には、あまり報道されないその他の用途もある。少なくとも、地球温暖化の影響に苦しむ人々にとっては、より有益かもしれないものだ。

水不足は、気候危機の結果のひとつだ。その原因は、環境負荷の高いエネルギー源の過剰利用によって、干ばつや洪水などの異常気象が頻発し、激化していることにある。こうした現象は停電を引き起こし、地域社会に壊滅的な被害をもたらしやすく、基本的人権である清潔な水の入手を困難にしている。だが、このような問題の解決に、銀が助けになる可能性がある。先住民の陶器では、水を濾過し、浄化する目的でこの金属が使用されている。

また、病気の発生率も増加している。ダニなどの生物の生息範囲が広がり、人間との接触が増えているからだ。この点で、銀の感染予防能力は極めて重要だ。銀は、包帯や気管チューブ、手術用器具などに使用されている。さらに、抗生物質耐性菌を防ぐ能力もあるため、今後も医療機関から頼りにされるのは間違いない。

グリーン経済はまさに野心的な取り組みであり、銀もその一役を担うことができる。水素燃料は、他の再生可能エネルギー源よりさらにクリーンで、排出されるのは水だけだ。銀は、セル内で水素と酸素の反応を促進する触媒として使用されており、白金族金属よりも生産コストを下げられる。そして、グリーン水素の用途を、大型輸送やエネルギー貯蔵にまで広げられる可能性がある。

また、エネルギーの使い過ぎや水漏れ、その他の環境問題を検知するスマートデバイスにも、銀が役立つ可能性がある。このようなツールが普及すれば、廃棄物を削減して大気の質を改善させるなど、脱炭素化に向けた小さな一歩を、大きな飛躍に変えられるようになる。

もっとも、こうした楽観的な見方には注意すべき点もある。当然のことだが、銀の採掘は、他の採掘と同様に環境負荷が大きい。地球環境問題の視点からは、石炭や石油、天然ガスの採掘量をさらに増やすより、必須金属を採掘する方がはるかに望ましいかもしれないが、やはり理想的とは言えない。

鉱山周辺の地域社会では、廃棄物も大きな懸念事項となっている。少なくとも1社は、廃棄物内に残された銀や金を分離するためにシアン化物を使用することを提案している。また、銀の採掘には大量の水が必要だ。銀の需要のほとんどが、より環境に優しい手法への大規模な転換のためだったとしても、トレードオフが発生するだろう。

それでも、こうした潜在的な問題が、銀の将来性を損なうことはほとんどない。米国では需要が急増しており、他の国々も近いうちに続くはずだ。世界で最も多くの人口を抱えるインドと中国は、世界の二大汚染国でもある。だが、両国はパリ協定の署名国でもあるため、グリーン経済への移行にあたって銀の需要は急増する可能性が高い。

この記事は、最初にSD Bullionに掲載され、Stacker Studioとの提携により制作・配信されています。

この記事は、Digital JournalでStackerが執筆し、Industry DiveのDiveMarketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。