貴金属noble metalは日常語で、科学的にその厳格な定義は明確ではない。
一般的には、容易に化学的変化を受けず常に金属光沢を保ち、産額が少なく高価であることを特徴とする、
金、銀および白金族(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金)をさすとされる。(岩波理化学辞典より)
物質の性質が基本的には構成原子の電子構造で決まることが、20世紀初頭の量子論を経て1925~26年に樹立した量子力学により確立した。
量子力学の偉大な開拓者の一人であるP.A.M. Dirac (1902-1984)は“これで化学は終わった”と宣言した。
物質の構造や反応を取り扱う化学の理論的基礎は完全に量子力学に含まれるという意味では、決して誇大ではない。
しかし、現在も化学者も物理学者も失業はしていない。量子力学に基礎をおく理論に沿いながら、物質構造、変化および性質の実験的探求と実現に努力している。
周期律表に遷移元素とよばれるグループがある。
原子としてd殻やf殻が不完全で、原子番号順にこれらの殻が満たされてゆくという元素群で 、
アルカリ金属やアルカリ土類金属などよりはるかに複雑な性質を有している。
貴金属は、第2、第3グループの遷移元素に属する。
貴金属は、単体、合金、化合物あるいは錯体として、触媒作用、磁性あるいは水素吸蔵を初めとする極めて多彩な物理学的、化学的な諸性質を有する点で、
遷移金属の中でももっとも興味深く、有益である。
「貴金属の科学」においては、貴金属の物理学的あるいは化学的な諸物性の本質を専門家でなくとも大網をつかむことができるように基本的なところから説き起こした。