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NASAの宇宙生物学者はリュウグウの小惑星の塵を調査する準備をしています

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Greenbelt MD (SPX) Dec 09, 2020

日本の宇宙探査機「はやぶさ2」が日本時間の12月6日(米国時間12月5日)に分離したカプセルは、地表の上空約200キロで大気圏に再突入し、オーストラリア内陸部にある荒野の地面に着陸した。

カプセルの中には、太陽系で最も貴重な荷物が入っている。はやぶさ2が2020年、小惑星「リュウグウ」の表面から採取した砂だ。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2021年末までに、リュウグウの試料を世界各地の6つの科学者チームに振り分ける予定だ。研究チームは、リュウグウから採取した太古の粒子に刺激や熱を加えながら詳細に調査し、粒子の起源について、より多くの知識を得ることを目指す。

リュウグウ調査チームのひとつが、メリーランド州グリーンベルトにある米航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙飛行センターの宇宙生物学分析研究所(Astrobiology Analytical Laboratory)の科学者たちだ。同チームが使用する最新鋭の分析機器は、犯罪を解決するために法医学研究所で使われているのと同タイプのものだ。しかしNASAゴダード宇宙センターの科学者らは、犯罪を解決するのではなく、原始太陽系の歴史を解読する助けとなる可能性のある分子的証拠を得るために、小惑星の調査を行うわけだ。

宇宙生物学分析研究所のディレクターを務めるジェイソン・P・ドーキン(Jason P. Dworkin)は、「私たちが行おうとしているのは、どのようにして地球が現在の姿に進化したかについての理解を深めることです」と話す。「形成期の太陽を取り巻いていたガスと塵(ちり)の円盤から、地球や、おそらく別の天体でも発生した生命にまで、どのようにして到達したのでしょうか」

ドーキンが国際副責任者を務める国際研究チームは、地球の生命の前駆物質となる有機化合物を探すために、リュウグウの試料を詳細に調べる予定だ。

リュウグウは、太陽系を生み出したガスと塵の雲の中で太古に形成された、より大型の小惑星の破片だ。リュウグウは、生命にとって不可欠な元素である炭素の含有量が多い、興味をそそられるタイプの小惑星だ。

ドーキンと研究チームは、割り当て分のリュウグウ試料を2021年夏に受け取り、有機化合物や炭素系化合物を探す予定だ。これらの化合物がどのようにして最初に形成され、太陽系全体に拡散したか、理解を深めることを目的としている。

宇宙生物学者にとって興味深い有機化合物としては、アミノ酸分子が挙げられる。アミノ酸は、新しいDNAの合成など、生命の最も重要な機能の一部を動かすのに関与する、多くの種類のタンパク質を構成する素材だ。宇宙の岩石の中に保存されているアミノ酸の種類と量の違いを調べることで、科学者らは、これらの分子がどのようにして形成されたかに関する記録を構築することができる。

現在は地球から1500万キロの距離にあるリュウグウから採取された砂粒は、科学者らがこれまでに入手した中で最も完璧な状態で保存されている宇宙物質のひとつであることは間違いない。小惑星の試料が宇宙空間で採取され、地球に持ち帰られたのは、今回でまだ2回目だ。

JAXAは前回の2010年、史上初の小惑星試料採取ミッションの一環として、小惑星「イトカワ」から微量の試料を持ち帰った。これに先立つ2006年には、NASAが「スターダスト」ミッションの一環として、ヴィルト第2彗星から少量の試料を採取した。

次回は2023年、NASAの探査機「OSIRIS-REx(オシリス・レックス)」が、小惑星「ベンヌ」の試料を少なくとも数百グラム持ち帰る見込みだ。ベンヌは、数十億年間にわたってほとんど変化せずに宇宙空間を移動している。

「最終目標は、地球外環境で有機化合物がどのようにして形成されたかを解明することです」と、九州大学の奈良岡浩教授(地球化学)は話す。奈良岡教授が率いるはやぶさ2の国際チームは、リュウグウの有機組成分析を実施する予定だ。「アミノ酸、硫黄化合物、窒素化合物を含む多数の有機化合物を分析し、小惑星内で起こる有機合成の種類に関する説明を組み立てたいと考えています」

リュウグウの組成分析が完了すれば、ベンヌとの比較が可能になる。10月20日にベンヌの表面に短時間着陸したOSIRIS-RExは、試料採取に大成功を収めた。

ドーキンは、「リュウグウとベンヌは形状が似ていますが、ベンヌの方が、過去の水や有機化合物の痕跡がより多く残っているように思われます」と指摘する。ドーキンの研究室には、ベンヌの試料も数グラム配分される予定だ。「2つの天体が、小惑星帯の異なる母天体から生じ、異なる過程を経ていることを考えると、2つのあいだにどのような類似点や相違点があるかを知るのはとても興味深いものです」

小惑星の粒子の分析には十分な訓練が必要

リュウグウの砂粒の分析は、ゴダードの宇宙化学者らがこれまでに取り組んだなかでも最大級に困難なプロジェクトになる。分析作業は極めて微量の試料で行わなければならない。

はやぶさ2がリュウグウから採取した砂粒の量はわずか数グラムと予想されている。コーヒー豆6粒分くらいだが、これでも、物質の量はイトカワから持ち帰られたものよりはるかに多い。

この極めてわずかな量を、大勢の科学者のあいだで配分する。そのためドーキンの研究チームは、元の試料のごく一部、標準的な雪片1個よりほんの少し多いくらいしか入手できない。

「今回取り扱う予定の試料の割り当て量は、隕石を分析する際に通常扱うのに比べてはるかに少ないものです」と、ゴダードの宇宙化学者で、ドーキンの共同研究者であるエリック・T・パーカー(Eric T. Parker)は話す。

パーカーによれば、ゴダードの研究チームは海外の共同研究者らとともに、微量の試料を取り扱う訓練を1年以上続けているという。例えば、マーチソンと呼ばれる炭素に富む隕石の微粒子の分析を行ってきた。次に、同じ分析技術を用いて、地球外物質がまったく含まれない試料を分析した。2種類の試料の違いを見分けられることを確認するためだ。

ゴダードの研究チームは、リュウグウの砂粒を受け取ると、まずは試料の粒子をガラス管内の水溶液中に浮遊させる。次に、水に溶ける有機化合物を抽出するために、水溶液を水が沸騰する温度(100度)まで24時間加熱する。

その後、水溶液を強力な分析装置にかけ、水溶液中の分子を形状と質量で分離し、それぞれの種類を特定する予定だ。

ゴダードの研究者で、ドーキンのリュウグウ分析チームの一員であるハンナ・L・マクレーン(Hannah L. McLain)は「当然のことですが、リュウグウのように本当に貴重な試料を手にしたら、『どうかこの試験管が割れないでくれ』や『どうかこの反応が正しく進んでくれ』と思うでしょう」と話す。「ですが今では私たちは、失敗がないように自分たちの技術を完全に確立させています。本物の試料を分析できることに皆、興奮しています」

動画: Hayabusa2 Touch Down

 

この記事は、SpaceDaily.comが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。