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「自動運転から学んだ教訓」が切り拓くロボットの未来
ロボット工学は、指数関数的成長の段階に入ろうとしている。驚くようなものから平凡なものまでロボットの用途はますます多様化し、新たな用途も生まれている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックという文脈に限定しても、公共空間の消毒や感染源になりうる物の取り扱い、患者への医療行為などこれまでになかった領域でロボットが導入されている。
ロボット工学の応用の地平がさらに広がるなかで、この成長をさらに加速させるのが自動運転車(AV)の開発だ。なぜなら、AVが抱える課題は大部分のロボットの障壁になっている課題と同じだからだ。AV業界には人材、インフラ、資本が集中しておりこの課題に対応する準備が整っている。
自律性への挑戦
ロボットの使用は拡大しているものの、その用途はまだ限られている。これまでは、何十年間にわたって工場に設置される片腕の巨大ロボットが、スポット溶接やパイプの端にねじを切るなど、細かく決められた任務をこなす1つの目的のためにつくられていた。そうしたロボットには、さまざまな任務をこなす柔軟性や、構造化されていない環境での対応力はなかった。外科手術やドローンなど、あまり構造化されていない環境で使う場合も、ロボットは主に人の延長上で遠隔操作され、その自律性はやはり限られてきた。
一方、AVは本質的にかなりの自律性を求められる。文字通りハンドルを握る人は存在しないため、大きな危険を伴う。混沌としたサンフランシスコ市街のような構造化されていないダイナミックな環境を感知し、計画を立てて行動する能力が必要だ。ほかの運転手、歩行者、自転車や電動スケートボードに乗っている人など、周囲の人間に対応し互いに協力しながら意思決定を行う必要がある。
人々が日常的に遭遇している困難な状況を例に挙げてみよう。全方向に一時停止の標識がある交差点だ。運転手がどのように停止し、どのように曲がるべきかは法律で定められているが、現実にはほとんどの場合、人々は非言語的なコミュニケーションを使いながら交差点を通過する。互いに視線を合わせ、うなずき、手を振るのだ。AVにはこのような合図を使うことはできないが、それでもほかの運転手の意図を読み解き、自分の意図を伝えなければならない。例えばゆっくり前進して、交差点を通過する意思を伝えるといった具合だ。その間、交通規則を順守し安全第一の意思決定を行わなければならない。この動きを事前に決めておくことはできない。AVの意思決定は、自分自身を含む全関係者の現状と少し先までの予測に基づき、その場の社会的期待に応えるものでなければならない。
この課題の核心は、不確実な状況で意思決定を行うことにある。つまり、しばしば不完全な観察と、世界に関する不完全な知識に基づいて行動を選択することだ。自律型ロボットは、世界の現状を観察し(不完全な観察)それがどのように変化していくかを理解し(不完全な知識)、あらゆる状況で最善の行動を判断しなければならない。こうした認知能力は、対人関係においても不可欠だ。人のコミュニケーションは、参加者の動機や議論のテーマを理解する能力が前提となっているからだ。人と機械の相互作用が複雑化し、自動システムがより賢くなるなかで、私たちはコンピューターに人と比肩しうるコミュニケーション能力と意思決定能力を与えることを目指すようになっている。その結果としてロボットは、「人が監視する機械」から「人とコラボレートできる機械」へと進化しつつある。
「人とロボットのコラボレーション」の可能性
ロボット工学が産業として成長するとともにコストが低下し、さまざまな文脈での導入が可能になった。技術そのものはなじみのあるものだが、用途が新しいというケースもある。例えば、ドローン自体は決して新しくはないが、企業が送電線の点検や災害時などにおける保険金請求のための情報収集に活用するのは新しい試みだ。片腕の巨大ロボットがスポット溶接工ではなく、ホテルのコンシェルジュやバリスタとして採用されるケースも同様だ。
コマースも自動化の大きな恩恵を受けている。特に、商品の運搬管理は人の作業者にとって危険なこともあり、無人搬送車による自動化が待ち望まれていた。LiDAR(ライダー)やカメラなど、AVの認識システムを可能にしているセンサー類を搭載したロボットは、作業者との衝突を避けながら、荷物の積み下ろしを行うローディングドッグや工場を安全かつ迅速に移動することができる。しかしこれらのロボットは、地面の目印を頼りに移動するなど、かなり構造化された予測可能な環境に依存しており、ダイナミックな反応性を欠く。フルフィルメントセンターにおいて、そばで働く人間よりも素早く動くロボットが原因となって負傷者が出ている、という声もしばらく前から聞かれる。
ロボット工学の使用は、医療現場でも一般的になっている。インテュイティブ(Intuitive)の「ダビンチ(da Vinci)」のようなロボット支援手術システムは、従来の腹腔鏡の代わりに、前立腺全摘除術の90%に使用されている。しかしロボットは、こうした手術室だけでなく病院や介護施設の至るところで、特に新型コロナウイルス感染症のパンデミックの文脈でますますその価値を高めている。そして、介護者が患者を持ち上げる手助けなどを行うだけでなく、高齢者に社会的交流を提供している。また子供たちの間でも、単なる流行のハイテク玩具としてだけでなく、本物のSTEM教育ツールとしてロボットの使用が拡大している。さらに近年、感情を表現するロボットを使って自閉症の子供を治療する研究が盛んに行われているのだ。
AV開発が鍵を握る
市場参入者が増加し、現場への導入も増加するのに伴い、市場規模1000億ドル(約11兆円)超のロボット分野は飛躍的な成長を遂げている。IDCによれば、2021年中に3倍の規模まで成長する見通しだ。こうした急成長の大きな要因となっているのが、高級車市場を中心に、今や新車の標準となっている運転支援システムだ。しかし、完全自律型の技術を開発している企業は、自動車産業だけでなくその先までロボット工学の可能性を押し広げようとしている。
AVを開発する各社が、人とロボットのコラボレーションという難題に、市場投入に求められるレベルで取り組んでいることで、これらのソリューションを他に応用できる可能性は広がる一方だ。AVはまるでチェスのグランドマスターのように、自身と他の交通参加者の動きと反応を何通りも考え、急速に変化する騒がしい環境で安全第一の意思決定を行わなければならない。その際、交通規則、地域の規範といった文脈も考慮する必要がある。米国のヒューストンと香港を同じように走ることはできない。そして優秀なAVは、人が自然で直感的と感じる方法で、自身の目的や意図を伝えなければならない。
優れたAVに必要とされる意思決定技術を開発することで、他の用途のロボットにも複雑な「クリティカルシンキング」がもたらされるだろう。新しい用途でも以前からある用途でも、より高度な自律性を発揮し、人とロボットのコラボレーションが可能になる。状況に参加し、人と同様の行動を自律的に起こすことができる物理的なエージェントは、より安全で反応性の高いロボットの実現につながるだろう。「人が監視するロボット」から「人がコラボレートするロボット」への移行は、AV、そしてロボット分野全体が進むべき道だ。
この記事は、VentureBeatのRashed Haq および Cruiseが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。