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【インタビュー】省エネ・脱炭素戦略 – 田中貴金属工業 執行役員 古澤 剛 氏 –

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  • 田中貴金属工業は,貴金属のリーディングカンパニーとして,国内トップクラスの貴金属の取扱量を誇り,特に産業用では脱炭素や水素社会の構築に貢献する白金などの触媒で強みを持つ。省エネ・脱炭素の推進に向け,2022年から社長直轄によるプロジェクトチームを編成し,全社的に取り組む「ポラリス大作戦」を展開中。省エネや太陽光などの創エネ,さらに,水素燃料電池の導入などとともに,長年培ったリサイクル事業を生かしながら,省エネ・脱炭素では積極果敢な活動を進めている。

  • 古澤 剛 氏
    執行役員 事業管理統括部 統括部長
    古澤 剛 氏

省エネ・創エネを軸に「ポラリス大作戦」
貴金属リサイクルでカーボンニュートラルも

■省エネ・創エネを中心に

――省エネ・脱炭素戦略の全体像を教えてください。

古澤:2050年にカーボンニュートラルを達成するという国の宣言を受け,われわれとしてもどうすべきか,役員を中心に勉強会を開始し,2022年に「ポラリス大作戦」というプロジェクトを立ち上げました。北極星を意味する「ポラリス」は昔から航海や方位の道しるべとされてきましたが,カーボンニュートラルという長期の目標と重ね合わせて名付けました。そして長期の壮大な計画でもあることから「大作戦」です。全社的な社長直轄プロジェクトとして今まさに様々な活動を行っている最中です。

 温室効果ガスの排出量では中間目標として2030年に2013年比50%以上の削減を目標に掲げましたが,2023年の実績として,23%を削減できました。当社には工場や技術拠点,営業所,販売店,事務所などありますが,圧倒的にエネルギー消費が多いのは工場です。そこでの対策としては大きく二つ,省エネと創エネを柱として考えています。空調や照明の省エネをはじめ,系統毎の電力監視計の設置や,コンプレッサーのエア漏れを検知するセンサーを積極的に導入し,工場の省エネなどを行っています。一方,創エネは都心部の1カ所を除いたそれ以外の工場に太陽光発電を導入したところです。それぞれの工場では,電力消費に占める太陽光発電の比率として5%程度をまかなえている状況です。このほか,第三者の視点でチェックしてもらう省エネコンサルタントを入れて対策も講じています。また,予算の手当として生産設備の投資とは別にカーボンニュートラルに特化できる枠を設定し,省エネや創エネを重点的に進めています。加えて,再エネ100%の電力の契約も推し進めています。最近では神奈川県平塚市にある湘南工場に発電容量が国内最大級となる500kWの定置型純水素燃料電池設備を導入することとなりました。2026年の稼働を予定しています。われわれとしては水素社会への貢献や水素ビジネスを非常に重要なものと考えていますので,思い切った投資でもあります。

■息の長い活動へ

――「ポラリス大作戦」では,具体的な活動として,どのようなことを行っていますか。

古澤:2022年度からプロジェクトとして動きだしましたが,私はプロジェクトリーダーとして責任を負っています。実際の活動は工場や営業所など,職場によって活動内容は異なりますので,様々な活動の進捗報告をプロジェクトの報告会で共有し,必要があれば社内に横展開しています。さらに,2050年に向けた息の長い活動になるため,知見を高め活動が形骸化することのないよう,様々な勉強会を開き,全体の底上げを図っています。社外の専門家を招くなど,水素戦略や次世代のペロブスカイト太陽電池のほか,われわれのお客さまの業界動向として半導体や自動車など,それぞれの業界が何を目指しているかなど,情報や知識をアップデートしています。また,省エネやカーボンニュートラル関係の施設見学会も行っています。

■触媒への期待

――手掛けている貴金属が省エネや脱炭素に貢献するものも多く,ビジネスとして力を入れている部分があると思いますが。

古澤:例えば白金があります。触媒としての機能に優れた貴金属のため,カーボンニュートラルを目指す技術としては欠かせない重要な役割を担っています。これからカーボンニュートラルへシフトしていく中,水素社会の到来は報道などでも聞かない日はないと思います。白金は水素を使った燃料電池の触媒として使用されています。さらに,水素そのものを製造する水電解装置でもイリジウムの触媒が使われ,いずれも当社の得意分野です。そうした触媒の研究開発の歴史は古く,今では世界的にもトップシェアを誇るリーディングカンパニーとなっています。触媒の利用が想定される水素の活用領域は,乗用車,バス,トラック,フォークリフトなどで急速な広がりを見せており,さらには船舶,鉄道,航空機などの導入をみこして,そうした需要に応えるため,今は海外拠点で生産体制の準備を整えているところです。

また,貴金属のリサイクルは,中核事業の一つです。100%リサイクル由来の貴金属素材を使った製品シリーズをラインアップしています。これは当社が製造・販売し,そして回収して再製品化するという,一連の循環型ビジネスを手掛けているからです。そうしたビジネスモデルを今後も生かしたいと思います。例えば鉱山由来の貴金属と,いわゆる都市鉱山から回収した貴金属について,CO2排出量を比べると,貴金属の種類によりますが,30~200倍の差があると言われています。こうしたリサイクル事業は,循環型社会への貢献とともにカーボンニュートラルにつながるものです。

■サプライチェーンでCO2排出量を削減へ

――生産活動を中心としたCO2排出量の削減とともに,いわゆるスコープ3を含めたサプライチェーン全体の対策は,どのように取り組みますか。

古澤:スコープ3は暫定的な形として数字は把握しています。あらためて感じたのは,スコープ3のうち,原材料調達に係る部分が全体の8割を超え,大きな割合を占めていたことです。また,物流の部分も比較的大きなウエートがあることも分かりました。サプライチェーン全体の取り組みとして認識しています。その部分で関係する皆さんと一緒に活動していくという視点が不可欠です。来年には正確にスコープ3を公表し,取り組みを呼び掛けていきたいです。

■内外に情報発信を

――省エネ・脱炭素を進める中では,どのような企業像が目標となりますか。

古澤:カーボンニュートラルを大きな目標に掲げていますが,これは環境負荷を減らす活動だけではないと思っています。つまり,脱炭素社会の実現に貢献し,サステナブルな社会を築き上げるのが当社の使命だと考えています。そのためには,関係者への情報発信を続けることが必要です。当社が考えるカーボンニュートラルの内容をはじめ,燃料電池やリサイクル事業など,情報発信のほか,GXリーグ等イニシアチブへの参加なども必要です。さらに社内にも情報を積極的に伝え,従業員への関心を高めることも必要です。どの工場に太陽光発電が導入されたか,どの拠点が再エネ100%電気の契約をしたかなど,懸命に活動していることを漏れなく社内に知らせていく必要があります。

 また,当社は様々な製品の供給から回収までを手掛けていることが,結果としてCO2排出量の削減にも寄与していますが,実は,そうしたリサイクルという循環型のビジネスモデルは,創業期から長く続けているものです。明治時代に電球のフィラメントとして白金が利用されておりましが,その当時から既に白金を回収する仕事を行っていました。つまり,リサイクルの事業は,当社の従業員の中にDNAとして刻まれているものだと感じています。そうしたDNAを大切にしながら,われわれは特別なことではなく当然の活動としてリサイクル事業を行っていくことが結果として脱炭素社会につながっていくものだと信じています。