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量子コンピュータとは?その定義や事実、用途について
量子コンピューティングは、次世代のテクノロジーだ。量子コンピューターのなかには、現在の最も高度なスーパーコンピューターと比べて1億5800万倍のスピードで動作するものもある。これまでのスーパーコンピューターだと1万年かかる計算も、このコンピューターなら4分で済むことになる。
現行のコンピューターは、基盤となる設計が何十年も変わっていない。米航空宇宙局(NASA)の巨大なコンピューターも、私たちが使用するノートパソコンも、突き詰めると、どちらも豪華な計算機にすぎず、1度に1つのことしかできない。
現行のコンピューターすべてに共通する動作原理は、「ビット」と呼ばれる2進法の数値からなる情報を格納して処理することだ。ビットは、1と0という2つの値しかとることができない。コンピューターにタスクを実行させるには、この0と1からなるバイナリコード(2進コード)をコンピューターに読ませる必要がある(書籍『Fundamentals of Computers』より)。
量子コンピューティングとは
学術誌『Documenta Mathematica』によると、物理学のうち、原子と、原子内のもっと小さい構成要素の世界を扱うものを量子論という。その微小な世界に降りていくと、物理学の法則は、私たちが目にするものと大きく異なってくる。例えば、量子は同時に複数の状態で存在することができる。これは「重ね合わせ(superposition)」として知られている。
量子コンピューターでは、ビットの代わりに「量子ビット(キュービット)」を用いる。従来のビットが、0か1のどちらかで情報を表すのに対して、量子ビットは、0と1のほか、「0と1を重ね合わせた状態」も表すことができる(2018年の「IEEE International Conference on Big Data」の発表論文より)。
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このため量子コンピューターでは、次の処理を開始するために今の処理が終わるのを待つ必要がなく、両方を同時に処理できる。
たくさんのドアが並んでいるなかで、1つのドアだけに鍵がかかっており、鍵がかかっていないドアを見つける必要があるとしよう。従来のコンピューターだと、鍵がかかっていないドアが見つかるまでドアを一つひとつ試していくことになる。かかる時間はドアの数次第であり、5分という場合もあれば、100万年という場合もある。これに対して量子コンピューターでは、すべてのドアを1度に試すことができる。だから、はるかに高速なのだ。
重ね合わせのほかに、量子が示す奇妙な振る舞いがもうひとつある。「量子もつれ(entanglement)」と呼ばれるもので、量子コンピューティングが画期的と期待されている理由の一つだ。もつれた状態にある2つの量子は、距離にかかわらず互いにつながりを形成している。この場合、一方を変更すると、もう一方も同じように反応する。たとえ何千マイルも離れていてもだ。学術誌『Nature』によると、アインシュタインは量子のこの性質を、「離れた場所のあいだで起こる奇妙な相互作用」(spooky action at a distance)と呼んだ。
設計上の限界
量子コンピューターは、スピードに加えてサイズの面でも、従来のコンピューターを上回っている。コンピューターの性能は、ムーアの法則に従って2年ごとに約2倍になっている(学術誌『IEEE Annals of the History of Computing』より)。しかし、これを実現し続けるためには、エンジニアは、回路基板に集積するトランジスタの数を増やし続ける必要がある。トランジスタは、オンとオフのいずれかが可能な、非常に小さい電灯用スイッチのようなものだ。コンピューターは、このようなスイッチによって、バイナリコードの0と1を処理する。
より複雑な問題を解くためには、必要なトランジスタの数がより大きくなる。しかし、トランジスタをどれだけ小型化したとしても、回路基板に集積できる数には限界がある。これはつまり、従来型のコンピューターは、遅かれ早かれ、性能の限界に到達するということだ(学術誌『Young Scientists Journal』より)。ここで状況を変えうるのが、量子コンピューターだ。
量子コンピューターをつくり出そうとする試みは、今や世界的な競争となっている。いくつかの大手企業や各国政府も、この技術のさらなる推進を競っており、金融市場では量子コンピューティング株が注目を集めている。
例えば、カナダを拠点とする企業D-Waveが開発する量子コンピューターを見てみよう。プレスリリースによるとD-Waveは、ビジネス向けに設計された初めての、そして唯一の量子コンピューターとされる「Advantage」システムを開発した。
D-WaveによるとAdvantageは、5000を超える量子ビットと、15ウェイの量子ビット接続を備える新しいプロセッサーアーキテクチャで設計されており、規模や複雑さが極めて大きいビジネス課題を解決できるという。
D-WaveはAdvantageについて、実際の量子アプリケーションをクラウドで大規模に開発・実行できる、初めての、そして唯一の量子コンピューターだと主張している。Advantageは、同社の前世代システムに比べて30倍高速であり、最大64%の時間で、同等かそれ以上のソリューションを得られるという。
ただし、量子コンピューターの理論上の計算能力が極めて高いといっても、これまでのノートパソコンは、まだ廃棄しなくていい。新しい時代になったとしても、従来のコンピューターにはまだ役割がある。Quantum Computing Inc.(QCI)によると、スプレッドシート、メール、文書処理といった日常のタスクには、従来のコンピューターのほうがはるかに適しているという。
量子コンピューティングで実際に根本的な変化が起きるかもしれない分野は、予測分析だ。量子コンピューターを使うと、分析や予測が非常に短時間で可能になる。天候パターンの予測や交通のモデル化など、絶えず変わる変数が、数十億とはいかなくても数百万あるような計算が、量子コンピューターだと可能になるのだ。
なぜ量子コンピューティングが必要なのか
通常のコンピューターは、人間から適切なプログラムを与えられれば、指示されたことをしっかり実行できる。しかし、予測はそこまでうまくできない。天気予報が必ずしも正確でないのはこのためだ。変数が多く、あまりにも多くの条件がすぐに変わるため、従来のコンピューターはついていけない。
従来のコンピューターには限界があるため、これらのコンピューターには決して解けないような、あるいは文字通り10億年かかってしまうような計算が存在する。予測や分析がすぐに必要なときには、従来のコンピューターには適さないのだ。
それに対して、量子コンピューターは非常に高速で、計り知れないスピードがある。Rigetti Computingの調査によると、量子コンピューターは、情報の変化に迅速に対応し、無数の結果と変更を同時に確認できる。
さらに量子コンピューターは、従来のコンピューターのようにトランジスタに依存していないため、相対的にサイズが小さい。さらに消費電力も比較的少なく、理論的には環境により優しい。
追加資料
量子コンピューティングの始め方については、『Nature』のこの記事が参考になる。量子コンピューティングの今後についてさらに学びたければ、博士課程の大学院生であるジェイソン・ボール(Jason Ball)氏によるTED講演が参考になる。
参考文献
- V. Rajaraman、Neeharika Adabala「Fundamentals of Computers」 2014年、PHI Learning Pvt. Ltd
- 「Quantum Computing」 1998年、Documenta Mathematica
- 「Implementing Grover’s Algorithm on the IBM Quantum Computers」 2018年のIEEE International Conference on Big Dataで発表。
- 「Testing the speed of ‘spooky action at a distance’」 2008年、Nature
- 「Establishing Moore’s Law」 2006年、IEEE Annals of the History of Computing
- 「Synthetic weather radar using hybrid quantum-classical machine learning」 2021年、Rigetti Computing
この記事は、Live ScienceのMark Smithが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。