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「REシリーズ」で実現する、貴金属の循環型経済
田中貴金属グループの製造事業を担当する田中貴金属工業は2022年5月、鉱山由来の地金などを使用せず、100%リサイクル材のみを利用した再生貴金属材「RE(アールイー) シリーズ」を発表した。REシリーズは地球環境への悪影響を低減し、資源の枯渇を克服し、貴金属を多様な用途で使用する企業への安定的供給に貢献し、さらに循環型経済の実現に寄与する製品だ。
どのような経緯で「RE シリーズ」が生まれたのか、これまでのリサイクルされた貴金属と何が違うのかについて営業管理統括部開発営業部 部長の原範明、およびチーフマネージャーの蛭間健太郎に話を聞いた。
サステナブルな貴金属利用を促進する「REシリーズ」
日本国内では2001年に家電リサイクル法が施行された。また、国外では、欧州連合において2015年に「CE パッケージ」(CE=Circular Economy〈サーキュラー・エコノミー〉)が採択され、地域内で循環資源を利用する方針が定められた。隣国の中国でも、リサイクルを政策として推進するほか、産業モデルの転換が急速に進んでいる。
原「社会における需要・供給のバランスを考えたときに、もちろん鉱山からの天然資源の採掘は欠かせません。一方で、地球環境保護の観点から天然資源の消費を減らし、限られた資源をサステナブルに使うために、貴金属のリサイクルは非常に重要です」
▲ [写真右]田中貴金属工業(株) 営業管理統括部 開発営業部 部長 原範明
新たな貴金属の採掘を抑えることで、環境への負荷軽減と持続可能で効率的な利用を実現するために田中貴金属グループが新たに開発した「REシリーズ」製品。鉱物資源による環境負荷を低減すべく、同社ではこれまでも貴金属のリサイクルを進めてきたが、今回発表する「REシリーズ」は100%リサイクルによる再生貴金属である点が特徴だ。REシリーズを製品製造に用いることで、企業は地球環境への負荷を低減でき、循環型経済の実現に貢献することができる。まさに地球と社会にとっての「ウェルビーイング」をリサイクル貴金属から実現できることが「REシリーズ」の真価なのだ。
専用の製造・管理ラインを構築し、リサイクル貴金属を提供
▲ 田中貴金属工業(株) 営業管理統括部 開発営業部 チーフマネージャー蛭間健太郎
金や銀、プラチナなどの貴金属は電子デバイス製品の製造には欠かせない。田中貴金属工業では、廃棄された製品等からこれらの貴金属を取り出し(都市鉱山)、リサイクルすることで採掘量を減らし、環境負荷を低減する試みを進めてきた。
「REシリーズ」の供給は、田中貴金属工業が創業以来、供給先企業と構築してきた、リサイクルフローをベースとしている。従来はリサイクル材からなる精製された貴金属とインゴットやコインなどからなる貴金属の新材を製品生産工程で製品化し、それを企業に供給していた。企業ではそれらを活用し、製品を市場へと供給する。そうして生まれた製品が廃棄されるとき、田中貴金属工業で回収・精製を行い、再び製品に加工していた。「REシリーズ」は、このリサイクルフローを使いながら、100%リサイクル貴金属の製造フローを独自構築したことが特徴だ。
▲ リサイクル材による製品生産フロー
蛭間「田中貴金属工業は、創業以来、貴金属リサイクル事業を行ってきました。REシリーズでは、製造ラインを拡充することにより、100%リサイクル貴金属材のみを用いた製品提供を行います」
田中貴金属工業は、廃棄された製品に含まれる貴金属によって構成される都市鉱山を、供給先企業とともに、社会で有効に活用するためのフローを構築してきた。つまり、田中貴金属工業は創業以来ずっと、貴金属による循環型経済を企業とともに実践してきた。『REシリーズ』はその集大成とも言えるリサイクルの形なのだ。
第一弾は半導体業界で最もニーズが高いめっき用金化合物(PGC-RE)を展開
▲ ロゴのコンセプトは「無限に織りなす」。循環、無限性、継続の象徴として∞(インフィニティ) をモチーフに、「さまざまなものを組み合わせて新たなものを創り出す」という同シリーズへの想いを込めた
今回発表された「REシリーズ」はどのような経緯で開発されたのだろうか。
蛭間「近年、世界的に大きな流れとして、循環型社会の形成やカーボンニュートラル、SDGs・ESGなどへの対応が企業に求められています。貴金属市場においても同様で、お客様のニーズや産業用事業に携わる企業の責任として、REシリーズの供給を開始いたしました」
「REシリーズ」の第一弾は、半導体や電子デバイスに使用され、消費財メーカーからもニーズの高かった「めっき用金化合物(PGC-RE)」が選ばれ、続いて「Auボンディングワイヤ」の製造と受注も開始した。現状では、顧客からの要求ベースでリサイクル貴金属活用の個別提案をしているが、今後は各業界別に汎用性のあるスキームや製品を展開する予定だ。より具体的には、医療、宝飾品の業界が挙げられるという。
▲ [写真左から]Auボンディングワイヤと、めっき用金化合物
※撮影時は空容器を使用。製品は厳重な管理を徹底している
REシリーズが実現する循環型経済
今後リサイクル貴金属の供給量が増えていけば、循環型資源としての認知が高まると同時に社会の中でより当たり前にリサイクル貴金属が使われるようになる。同社としてはどのように未来を見据えているのだろうか。
蛭間「私たちは1885年の創業当時から、貴金属のリサイクルを実践してきました。『REシリーズ』は、独立したリサイクル貴金属のみの生産・管理ラインでつくられています。これにより、お客様のもとに100%リサイクルの貴金属材を届けられるようになりました。『REシリーズ』を使っていただくことで環境負荷を低減し、企業の社会的価値をさらに高めていただけると同時に、リサイクル貴金属の社会認知を広め、循環型経済の構築に貢献できると考えています」
現在日本国内の金と白金族のリサイクル率は30%であり、田中貴金属工業は、これを50%程度まで引き上げることを長期的な数値目標としている。
REシリーズのような「完全にリサイクル貴金属のみで作った素材」が、当たり前のように使われていく社会こそが、田中貴金属が実現したいと考えている、貴金属から実現する循環型経済だ。今後のREシリーズの拡大によって、環境負荷が少なく、次世代の地球を持続可能にするための循環型経済の実現へのさらなる貢献が模索される。
ワンストップで回収・精製・納入できる、貴金属リサイクルのプラットフォーム
リサイクル貴金属を企業が効果的に活用するためには、単に環境負荷の低減だけではなく、ビジネスとしてのメリットが必要になる。田中貴金属工業では、社内で回収・精製をワンストップで行うフローを構築し、それをビジネスの強みに転換してきた。新たな商品やサービスを企業へと展開する際、環境負荷ばかりでなく、コスト削減を同時に行うことのできる提案として、リサイクルを打ち出していったのだ。
原「1990年代初頭までは、エンドユーザー様が、貴金属が含まれている廃棄物をそのまま処分してしまうケースは珍しくありませんでした。これは資源的にもコスト的にも勿体ないので、当社がお客様に説明をした上で、エンドユーザー様より引き取りを行い、さらにそのお客様の製品の材料にリサイクルするということも進めていました。先陣たちがこのスキームを作ることによって、当社のリサイクルビジネスは飛躍的に伸びていきました」
蛭間「お客様とお取引をさせていただく際、お客様の製造工程で出た廃材を回収させていただきそこから当社のフローでリサイクル貴金属を作り、お客様から次の注文を頂いたときに必要な貴金属材料に補填するという提案をしてきました。これにより、環境の負荷を低減することができますし、ご購入コストを削減することも可能です」
さらに田中貴金属工業のリサイクル貴金属を利用することで、廃材から貴金属をリサイクルし、取引市場で売買する際に生じる「価格変動リスク」を回避することも可能だ。
蛭間「回収業者を介して廃材から貴金属を回収精製し、売却することで現金化、さらに製品の注文は別の企業に依頼されているお客様は、貴金属を売買する際、価格変動リスクの大きさに頭を抱えておられます。貴金属製品販売はもちろん、回収から精製のすべてをワンストップで行える当社では、廃材から回収精製したものと同じ重量の貴金属を、ご注文製品に補填することで変動価格リスクをヘッジ(回避)できます。お客様としては必要な貴金属の全てを新規購入することなく、購買コストを大幅に削減できるというメリットがあるのです」
リサイクル率が高くなるほど社会的には環境負荷が抑えられ、また、顧客企業としてはコストの削減につながるという、Win-Winの関係の中で循環型経済を実現しているのだ。
産業には、もはやリサイクル貴金属は欠かせない
貴金属リサイクル事業における代表的な取り組みが、田中貴金属工業、DOWAメタルマインおよび小坂製錬の3社によるジョイントベンチャーとして1991年に事業を開始した日本ピージーエムだ。同社では白金族の貴金属リサイクルを推進している。
原「1970年代頃は、酸性雨が環境問題として注目されていました。主に車から排出される有毒ガスが上空へと運ばれ雨となって落ちてくると、森林を破壊したり大理石の像を溶かしたりする酸性雨となります。この対策として、自動車の排気ガスを浄化するための触媒に白金族の貴金属であるプラチナ、パラジウム、ロジウムの3つが採用されました。これにより、有毒ガスが発生しなくなり、酸性雨の問題が世界規模で解決したのです。これらの触媒は車の大きさにもよりますが、車一台につき3〜5グラム程度しか使いません。しかし、世界中で作られる車の台数を考えれば白金で年間100トン程度に達します。これらの白金族の貴金属リサイクルを行っているのが日本ピージーエムなのです」
現在世界中で毎年100トンの白金が排ガス浄化触媒で利用されているが、そのうち約半分にあたる50トンがリサイクルによって生み出されているという。もしもリサイクル貴金属がなく、毎年現在より50トン多く鉱山から採掘しなければならないとすれば、環境への悪影響のみならず価格の高騰や産業の停滞は必至だ。リサイクル貴金属は産業においてもはや欠かせない材料と言えるだろう。
蛭間「リサイクル貴金属のような循環型資源を活用しようという価値観は日本だけでなく全世界で共通のものになってきます。当社のリサイクル工場は日本各地にあるほか、回収車は全国を走り回り、回収のネットワークを構築しています。中国や台湾でも展開をしており、2016年にはスイスの現地企業と提携するなど、グローバルな回収精製ネットワークを構築しています」
また田中貴金属工業は、他社に先駆けて、世界の金・銀市場において最も権威のあるロンドン金市場の登録認定機関「ロンドン地金市場協会」(LBMA: The London Bullion Market Association)および、「ロンドン・プラチナ・パラジウム・マーケット」(LPPM:London Platinum & Palladium Market)のレスポンシブル認証を受けている。世界で流通する貴金属の提供業者として認められた日本初の企業であるだけでなく、現在は日本で唯一の公認審査会社として、貴金属の世界標準を創る立場にもあるのだ。これにより、鉱山採掘に関わる児童労働や強制労働、環境破壊、紛争に加担することのない責任ある原材料調達を実現。リサイクルにおいても調達先を審査して、マネーロンダリング、不正取引に関わる調達を行うことはない。
蛭間「出自の確かなリサイクル材を再生利用することは、お客様の付加価値を最大化するとともに、貴金属が抱える国際的な問題の解決にもつながっています」
リサイクル貴金属は、さまざまな産業を支え、ポジティブな影響を与えるとともに、国際的な課題を解決する。これからの産業、そしてサステナブルな地球環境にとって、必要不可欠なソリューションだと言えるだろう。
■関連情報
https://tanaka-preciousmetals.com/jp/sustainable/
https://tanaka-preciousmetals.com/jp/about/feature/feature03/