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世界中の「くるくる回るもの」をIoT化するMITの発明
回転機構にセンサーを組み込むことで、「いつドアが開けられたかが分かるスマート蝶番」や「回転速度を整備士に伝えるモーター歯車」などの製作が、技術的に可能になる。米マサチューセッツ工科大学(MIT)の技術者チームは、3Dプリンティングを利用し、回転機構にセンサーを容易に組み込む方法を開発した。
3Dプリンティングの進歩によって回転機構の迅速な製作が可能になっているにもかかわらず、その設計へのセンサーの組み込みはいまだに難しいことで知られている。回転部品は複雑なため、センサーの組み込みは通常、機器の製造が完了してから手作業で行われるからだ。
だが、手作業によるセンサーの組み込みは、決して容易なことではない。センサーを機器の内部に埋め込むと、配線が回転部品に絡まり回転の妨げになるかもしれない一方で、外部センサーを取り付けると、メカニズムのサイズが大きくなって動きが制限される恐れがある。
MITの研究チームが開発した最新システム「MechSense」を使うと、製造業者は伝導性の3Dプリンティング・フィラメントを用いて、回転機構の可動部品にセンサーを直接3Dプリントすることができる。これにより、機器の角度位置や回転速度、回転方向などを検知する機能が機器に付加される。
MechSenseシステムを利用する製造業者は、複数の材料を同時に使って機器を製作する「多材料3Dプリンター(multi-material 3D printer)」による1工程だけで、組み込みセンサーを備えた回転機構を製造することができる。
製造業者が、3Dプリンターの1工程だけでセンサーを回転機構に直接組み込むことを可能にするシステムを、MITの研究チームが開発。これにより、モーター内部の歯車などの回転機構に角度位置や回転速度、回転方向などを検知する機能を付加できる
研究チームは、製作工程を簡略化するため、3次元CADソフト「SolidWorks」用のプラグインを作成し、回転機構のモデルにセンサーを自動的に組み込むようにした。このモデルが3Dプリンターに直接送信され、製造が行われる。
MechSenseシステムを技術者が利用すれば、タービンやモーターのように回転部のある機器にセンサーを直接組み込みながら、機器の試作を迅速に行うことが可能になるかもしれない。この技術は、拡張現実(AR)環境向けのタンジブル(触知型)・ユーザーインターフェースを開発する上で、特に役立つ可能性がある。AR環境では、ユーザーの動きや物体との相互作用を追跡するためにセンサーが不可欠だからだ。
MechSenseに関する研究論文の筆頭執筆者で、MIT機械工学部大学院生のマルワ・アルアラウィ(Marwa AlAlawi)氏は、次のように話す。「私たちの研究室で行われている多くの研究は、工場や専門施設で開発される製造方法を取り上げ、それを人々が利用しやすいようにすることに関係しています。3Dプリンティングは、多くの人々が家庭で利用できる道具の一つとなっています。こうしたインタラクティブなメカニズムの開発に必要なツールを、どうすれば平均的メーカーに対して提供することができるでしょうか。突き詰めると、今回の研究はすべて、この目標を中心に展開しています」
アルアラウィ氏の共同執筆者には、MITコンピューター科学・人工知能研究所(CSAIL)の元博士課程修了研究者で、現在はデンマーク・オーフス大学のアシスタントプロフェッサーを務めるマイケル・ウェセリー(Michael Wessely)氏のほか、MIT電気工学・コンピューター科学・機械工学学部准教授で、CSAILに所属する主執筆者のステファニー・ミュラー(Stefanie Mueller)氏、MITに所属するその他の研究者、アクセンチュア研究所の共同研究者などが名を連ねている。研究結果は、計算機械学会(ACM)が主催して2023年4月に開催された「CHI(人と情報システムの相互作用に関する国際会議)」で発表された。
組み込みセンサー
機器の動きを妨げないかたちでセンサーを回転機構に組み込むために、研究チームは静電容量センシング(capacitive sensing)技術を活用した。
コンデンサは導電体の板2枚と、そのあいだに挟まれた絶縁体とで構成される。導電板が重なり合う面積やそれらの間隔が、機構が回転することによって変化すれば、その結果として生じる導電板間の電界の変化を静電容量センサーで検出できる。この情報を用いれば、速度などを計算できるわけだ。
「静電容量センシングで、特定のセンサーの変化を測定するためには、必ずしも向かい合う2枚の導電板間の接触を必要とするわけではありません。今回はこの点を、センサーの設計に利用しました」と、アルアラウィ氏は説明する。
平面上にある固定軸の上で回転する歯車が典型的だが、回転機構とは通常、固定部の上下や横に回転部が位置することで構成される(回る歯車が回転部で、その下の平面が固定部)。
MechSenseセンサーでは、固定板に、導電体でできた3つの区画がプリントされている。それぞれの区画は、非導電材料によって隣の区画と隔てられている。4番目の導電体区画は、他の3つの区画と同じ面積を持ち、回転板に印刷されている。
回転板上にある「浮動コンデンサ(floating capacitor)」と呼ばれるこの区画は、機器の回転に伴って固定板上の各区画と順々に重なり合う。回転する区画と、各固定区画とのあいだの重なり合いが(完全に覆われた状態から半分覆われた状態を経て、全く覆われていない状態へと)変化すると、その結果として生じる静電容量の変化が各区画で個別に検出される。
浮動コンデンサは回路に接続されないため、配線が回転部と絡まることはない。
一方で、固定区画は電子機器に有線接続されている。そして、研究チームが開発したソフトウェアを使用して、生のセンサーデータを角度位置、回転方向、回転速度の推定値に変換する。
迅速な試作品の製作が可能
研究チームは、製造業者がセンサー組み込み工程を簡略化できるよう、SolidWorksの拡張機能を作成した。製造業者が、機構の回転部品と固定部品および回転の中心を指定すると、SolidWorksによってセンサーの区画がモデルに自動的に追加される。
「設計は全く変更しません。機器の一部を異なる材料、今回の場合は導電体に置き換えるだけです」とアルアラウィ氏は話す。
研究チームはSolidWorksシステムを用いて、機器をいくつか試作している。その一つが、スマート電気スタンドだ。ユーザーがスタンドの底部や中央部を回転させる程度に応じて、光の色と明るさが変化する。また、ロボットアームに使われているような遊星歯車装置や、表面を転がるあいだに距離を測定する車輪なども製作した。
試作品を製作するなかで、研究チームはセンサー設計を微調整するための技術的実験も実施した。その結果、センサー区画のサイズを縮小するにつれて、センサーデータに含まれるエラーの量が増加することが明らかになった。
「電子廃棄物をほとんど出さない電子機器を作り出すために、機器の設置面積をより小さくしても十分な性能を発揮できるようにしたいと考えています。同じアプローチで、使用する材料や製造工程を変えればおそらく、同じ配置を用いてサイズを縮小すると同時に、蓄積されるエラーを減らすことができると考えています」と、アルアラウィ氏は述べている。
アルアラウィ氏と研究チームは、さまざまな材料を用いた試験に加えて、外部ノイズに対するセンサー設計のロバスト性(耐性)を向上させる手法の調査や、別タイプの運動機構向けのプリント可能なセンサーの開発などを計画している。
この記事は、SpaceDaily.comが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。