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AIエネルギー危機を背景に、“すべてをこなす”チップへの関心高まる

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AIエネルギー危機を背景に、“すべてをこなす”チップへの関心高まる

人工知能(AI)には、なぜ大量のエネルギーが必要なのだろうか。この理由を理解するために、コンピューターチップは市立図書館の分館であり、AIアルゴリズムは蔵書を借りる研究者だと考えてみよう。アルゴリズムは、データが必要になるたび、メモリーチップと呼ばれる図書館に行き、データをみつけて、それをプロセッサと呼ばれる別のチップへと移動させ、そこで機能を実行する。

AIには大量のデータが必要なので、途方もない数の「蔵書」が、これら2つのチップのあいだを行き来することになる。そして、このプロセスが大量の電力を消費するのだ。エネルギー節約を目指す研究者たちは、少なくとも10年以上にわたって「データが保存されているその場所で処理を実行するチップ」を開発しようと試行錯誤してきた。スタンフォード大学のフィリップ・ウォン(Philip Wong)教授は、「図書館から家まで本を持ち帰るのではなく、図書館へ行って、そこで仕事を済ませるようなものです」と指摘する。メモリーチップの世界的権威であるウォン教授は、台湾積体電路製造(TSMC)の顧問も務めている。

一般に「インメモリ・コンピューティング」と呼ばれるこのプロセスは、これまで数々の技術的課題に直面してきたが、ようやく研究段階の先へと進もうとしている。AIが大量に電力を消費することが、採算性や環境への影響に関する重大な懸念を呼んでいることから、AIのエネルギー効率を高める技術の開発には大きな利益が見込まれる。こうした背景から、インメモリ・コンピューティングに寄せられる期待はますます高まっている。さらにこの問題は、半導体をめぐる地政学的緊張という大局的な構図に巻き込まれ始めてもいる。

TSMC、インテル(Intel)、サムスン電子(Samsung)などの主要半導体メーカーは、いずれもインメモリ・コンピューティングの研究に取り組んでいる。インテルの研究部門であるインテルラボ(Intel Labs)で上席主任エンジニアを務めるラム・クリシュナムルティ(Ram Krishnamurthy)は、同社はすでに研究用のチップを開発したと語る。ただし、インテルの製品ラインアップにインメモリ・コンピューティングをどう組み込むのかについては、同氏はコメントを避けた。オープンAI(OpenAI)のサム・アルトマン(Sam Altman)CEOなどの個人や、マイクロソフト(Microsoft)などの民間企業、さらには中国やサウジアラビアなどの政府系企業はどこも、この技術の開発に取り組むスタートアップに投資している。

外国投資に関連する国家安全保障上の懸念を審議する米国政府の諮問委員会は2023年11月、サウジアラビアのエネルギー企業アラムコ(Aramco)のベンチャーキャピタルファンドに対して、サンフランシスコに拠点を置くインメモリ・コンピューティング專門のスタートアップ企業、レインAI(Rain AI)の保有株を売却するよう命じた。アラムコのベンチャーキャピタルファンドは現在、米国以外でインメモリ・コンピューティングの開発に取り組む他の企業を模索しており、特に中国に注目していると、この問題に詳しい関係者は述べている(補足:この関係者は、非上場企業の話題が絡むことから、匿名を条件にして取材に応じた)。

この技術にとりわけ関心を強めているのが中国だ。投資データを分析するピッチブック(Pitchbook)によれば、PIMチップ(PIM Chip)、ヒューモAI(Houmo AI)、WITメム(WITmem)など、複数の中国発スタートアップ企業が、著名投資家からの資金調達を行っているという。プリンストン大学教授で、インメモリ・コンピューティングの技術開発を行うスタートアップ企業エンチャージ(EnCharge)の共同創業者でもあるナヴィーン・ヴァーマ(Naveen Verma)は、これまでは、中国の大学や企業から招待されて講演を行う機会が頻繁にあったと語る。「彼らは、インメモリ・コンピューティングシステムや高度なシステム全般に関して、システム構築の方法を理解したいという旺盛な意欲をもっています」と、ヴァーマは言う。なお同氏は、ここ数年は中国を訪問しておらず、またアジアでの講演のテーマは学術研究に限定しており、エンチャージの技術については明かしていないと述べた。

ただし、このチップ技術は「AIコンピューティングの未来の鍵を握る」と断言できるような段階ではない。従来のインメモリ・コンピューティングは、環境要因の影響を受けやすく、例えば温度変化によって演算にエラーが生じるといった問題があった。スタートアップ企業はさまざまなアプローチで改善に努めているが、この技術はまだ日が浅い。また、新しいタイプのチップへの切り替えはコストがかさむため、確実に大幅な改善が見込めないかぎり、顧客企業は概して切り替えに消極的だ。スタートアップ企業は顧客となる見込みのある企業に対して、リスクに見合うだけの恩恵があることを示し、納得させなくてはならない。

インメモリ・コンピューティングの開発にあたるスタートアップ企業はこれまでのところ、AIコンピューティングの最難関部分、つまり、新たなモデルの訓練に手を出すことを避けている。こうした訓練プロセスにおいては、アルゴリズムは何ペタバイトものデータを読み込んでパターンを抽出し、それをもとに独自のシステムを構築する。こうした訓練を担う最高性能のチップは、ほとんどの場合、エヌビディア(Nvidia)などひと握りの企業が設計したものだ。エヌビディアは、独自の戦略に沿ってエネルギー効率の改善を進めており、トランジスタの小型化や、チップ間の情報伝達方法の改善に努めている。

インメモリ・コンピューティングチップを開発するスタートアップ企業は、エヌビディアとの直接の競合を避け、推論(inference)に的を絞っている。推論とは、既存のモデルを使ってプロンプトを受けとり、コンテンツを生成するタスクのことだ。推論は、訓練ほど複雑ではないが、大規模に実行されるため、効率に特化して設計されたチップには最適な市場になる見込みがあると考えられている。

エヌビディアの主力商品であるGPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)と呼ばれるチップは、大量の電力を消費するため、推論に利用するには相対的に効率が悪い。シリコンバレーに拠点を置く半導体スタートアップd-Matrixの創業者兼CEOであるシド・シェス(Sid Sheth)はそう指摘する。d-Matrixは、マイクロソフトや、シンガポールの国営投資会社テマセク・ホールディングス(Temasek Holdings)などから1億6000万ドル(約250億円)を調達したことで知られるが、AIブームが始まるまで、投資家への売り込みには苦労したとシェスは語る。「2023年上半期には、誰もが理解してくれるようになりました。ChatGPTのおかげです」。d-Matrixは、2024年中に最初のチップの販売に着手し、2025年には大量生産を実現する計画を掲げている。

インメモリ・コンピューティング企業は、依然として製品のベストな用途を模索中だ。インメモリ・コンピューティングの開発を手掛けるオランダのスタートアップ、アクセレラ(Axelera)は、自動車やデータセンターに導入されているコンピュータービジョンに狙いを定めている。一方、テキサス州オースティンに拠点を置くミシック(Mythic)の支援者たちによれば、インメモリ・コンピューティングの理想的な用途として、近い将来に実装可能なものにはAI搭載セキュリティカメラなどが考えられるが、ゆくゆくは、AIモデルの訓練にも適用可能になることを期待しているという。

セミコンダクター・リサーチ・コーポレーション(Semiconductor Research Corporation:SRC)で科学主任を務めるヴィクター・ジルノフ(Victor Zhirnov)は、AIの莫大なエネルギー使用量そのものが、この技術の効率化に挑むすべての関係者に切迫感をもたらしていると述べる。「AIには、エネルギー効率化のソリューションが絶対に必要です。さもなければ、自壊する日は近いでしょう」

この記事は、BloombergのJane Lanhee Leeが執筆し、Industry DiveのDiveMarketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。

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