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3分野で貴金属の新材料を探索~半導体用プリカーサが実用化目前~

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2022年12月8日 電子デバイス産業新聞

田中貴金属工業(株)(東京都千代田区)は、「貴金属を究める」をスローガンに掲げ、様々な分野に向けた新材料の探索・開発、新規事業の創成を進めている。世の中にない新たなものを生み出す心臓部としての役割を担う執行役員 新事業開発統括部 統括部長の奥田晃彦氏に現在の取り組みを聞いた。


田中貴金属工業(株) 執行役員
新事業開発統括部 統括部長 奥田 晃彦氏

―新事業開発統括部の概要から伺います。
奥田 当社の研究開発全般を担っている。以前は新事業カンパニーという名称だったが、組織を再編して2021年4月に発足させた。これに合わせて役割を少し変更し、全社を貫く横串の機能を持たせて、新材料の探索・開発や新規事業の創成を進め、各カンパニーに落とし込む役割を担うようになった。数年後、数十年後に新カンパニーが創設できるような研究開発を手がけていくのが当部の使命だ。

―その陣容は。
奥田 開発本部としては「化学材料」「金属材料」「バイオケミカル」の3つがある。これに加え、開発の仕組みづくりや研究開発~事業化プロセスを管理する開発管理部と、マーケティング機能を備えた市場探索部があり、総勢約140人が在籍している。

本社に市場探索部、伊勢原テクニカルセンターには開発管理部と金属材料開発本部を置いている。テクニカルセンターは平塚と筑波にもあり、湘南工場にもその分室がある。

―生産と研究開発拠点が近くにあるのですね。
奥田 最近は分野の垣根を越えるような開発テーマも多く、リサイクルまで考えるなら金属と化学の両方の知見が不可欠だ。

これまでの開発の一例として、診断キット(体外診断薬、各種検査キット)が挙げられるが、これには金コロイドを用いており、化学とバイオの技術の組み合わせによって、製品化を実現した。また、電子分野の金属薄膜は、CVDやめっきなど様々なプロセスを経て製造されるため、各部で連携を取りながら開発を進めていく必要がある。将来は垣根をなくしても良いと思っている。

―最も事業化に近づいているテーマは。
奥田 化学材料開発部で開発しているプリカーサだ。ALDやCVDなどの方法で、基板上へ金属薄膜、金属配線を形成する際に用いる金属化合物で、ロジック/メモリー系の次世代半導体材料の候補となっている。20年9月に液体ルテニウムプリカーサ「TRuST」(トラスト)の開発を発表し、22年6月には、これを用いた2段階のALD成膜プロセスを確立した。

すでに複数のプリカーサを開発済みだが、量産に採用されてもいい段階にまで来ているものもあり、あとは半導体メーカーの評価次第だ。企業に限らず、大学などからも関心を持っていただいている。採用のゴーサインが出れば、いつでも量産供給できる準備をすでに整えている。

―「AuRoFUSE」(オーロフューズ)という低温接合材料も開発していますね。
奥田 金粒子を基本として、溶剤などを加えてペースト状にしたもので、通常の接着剤などと同様に使える。鉛フリーはんだと同等、もしくはより低温域で接合できるため、新たなプロセス装置を導入することなく、さらに付加価値の高いデバイスに適用できる。オーロフューズをモディファイすることで顧客の用途に合わせ込み、半導体に限らず、他の用途にも使えないか検討している。

―当面の研究開発方針について。
奥田 現業のカンパニーが全く手がけていないところをやるのが大事だ。金属材料開発部では、合金を使って新たな特性を出そうとしており、鋳造やアニール(熱処理)などの処理方法を変えて、今までなかった機能の合金を創生することなどに取り組んでいる。

バイオケミカル分野では生体センシングに関心がある。素子側と検出側の素材を一体的に開発しないとうまく機能しないと考えており、貴金属には大きなチャンスがある。

また、大きな開発テーマとして、カーボンニュートラルに寄与する材料の探索が重要になる。

―今後の抱負を。
奥田 カーボンニュートラルをはじめ、世の中に貢献できる開発を継続するのは当然として、一番大事なことは人をいかに育てていくかだ。面白い開発をやりつつ、偏らないように各部で連携を取りながら、モチベーションを高めていける組織運営を心がけたい。

(聞き手・特別編集委員 津村明宏)