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電気自動車と半導体業界のブーム到来に備えて
電気自動車の増加に伴い、充電ステーションが各地に設置されていくだろう。とはいえ、バッテリー寿命を心配する人はいまだに多い。
電気自動車の増加に伴い、全米各地の都市で充電ステーションの設置が進んでいる。にもかかわらず、電気自動車の所有者やメーカーの多くがいまだに不安を抱いているのが、バッテリー寿命だ。
半導体業界でイノベーションが起きれば、電気自動車用バッテリーの寿命が延びる可能性がある。こうした技術の商業化が、電気自動車のロジスティックな面における魅力を高めるだけにとどまらない理由を、田中貴金属のボンディングワイヤ担当VP、バド・クロケットが説明する。
電気自動車(EV)が自動車産業の未来を担っていることは疑いようがない。EVの売り上げは2017年に120万台に達した。
専門家は、2018年には160万台、2019年には200万台を売り上げると予測する。
こうした成長は励みになる。EVは、ガソリン車よりもはるかに環境的に優しく、運転時に情報技術を活用するスマートさを備え、安全性も高い。たとえばコネクテッドカーは、ブレーキシステムなどのソフトウェアのアップデートを受信できる。また、つねに自動更新を行って状態を最適に保ち、乗っている人の路上での安全性を可能な限り維持する。
こうした安全性やクリーンエネルギー的なイノベーションを可能にしている主要部品がある。半導体だ。こうしたチップは、あらゆる種類の電子機器を動かすだけでなく、EVのコネクティビティと、充電式バッテリーもコントロールしている。
EV需要が高まれば、半導体需要も増える。よって、半導体メーカーや半導体サプライチェーン業界に従事する人にとっては、十分な情報を得て、半導体需要ブームに備えることが急務だ。
EVと半導体の需要増加を把握する
長年にわたってガソリン車が広く普及してきたので、1800年代はじめから中ごろにかけて自動車が初めて登場した時には、電気で走っていたと聞くと驚くかもしれない。そうした初期の電気自動車は非充電式バッテリーを使っていたし、半導体が使われていたわけではない。だが、現代の電気自動車で使われている半導体の仕組みを思わせる中継器とスイッチが搭載されていた。
アメリカ人がガソリン車に夢中になったのは、ヘンリー・フォードが「モデルT」を大量生産し始めてからだ。しかし、地球温暖化を巡る懸念が取りざたされるようになり、特に2010年代半ばにその不安が増大すると、消費者や自動車メーカーは二酸化炭素排出量を削減する方法を探りはじめ、電気自動車が再び脚光を浴びるようになった。また、安全性や自律運転技術、タッチスクリーンによる車とドライバーの双方向性を向上させるコネクティビティが車に導入されるようになった。これらの結果、半導体のリードタイムを短縮させることと、価格をよりリーズナブルにすることの必要性が増している。
半導体で動くEVをすべてのひとに
EVはある意味、いまだに富裕層にとってのステータスシンボルだと見られており、町中を走るテスラを目にすることは少ない。しかし、大衆市場向けの自動車メーカー各社は、電気自動車に搭載される半導体の新たな需要の波を生み出している。
たとえばBMWは、2025年までに、製造車両の15%から25%をEVにしたいと考えている。
ホンダは2030年までにラインナップの3分の2をEVにしたいという。またフォードは、2020年までに13種のEVモデルを新たに売り出す予定だ。
EVを大衆に広めたいという自動車業界の熱意のおかげで、半導体市場は大盛況だ。ITリサーチ企業ガートナー(Gartner)によると、2017年には、半導体のトップ10社をまとめた売り上げが30%向上した(なお、トップ10社の売り上げは、市場全体の58%を占めている)。
大手自動車メーカーはEV関連の目標達成に向けて動いており、半導体業界もそれに比例して成長を遂げていくだろう。とはいえ、スムーズな成長は望めそうにない。半導体はコバルトを含む多くの貴金属からできているが、そうした貴金属を順調に手に入れるのは難しいのだ。
半導体を容易に入手できるか否かにかかわらず、需要は殺到するだろう。では、半導体サプライチェーンに従事する側は、需要の増加に備えて何ができるのか。さしあたっては、基本的な事態の把握と調査を行うことだ。
EV業界の幅広さについて把握している人は少ない。業界関係者はリサーチを行ない、半導体供給がどのような分野に集中することになるのかを理解するとよい。EV業界は、中流層向けEVを一般消費者向けに供給することに大きな関心を寄せているが、バスや電車などの公共交通機関も電動化へと向かうだろう。膨大な数の人々を日々輸送する公共交通機関に半導体を十分に供給するには、まったく新たなサプライチェーンが必要になる。
半導体は現在、生死にかかわる判断を行うシステムを動かしている。つまり、半導体業界は政府にとって、規制を課すべき最重要分野だ。業界関係者は、ニュースに注目して政府がどう介入しようとしているか、政府の介入がサプライチェーンの働きにどんな影響を与えうるかを把握すべきだ。
たとえば、EV分野においては現在、どのようなEV規制ならびに排ガス規制を課すべきかについて、州政府と連邦政府がにらみ合っている。業界関係者はこうした状況を踏まえつつ、研修に参加し、会議に出席し(半導体関連見本市「SEMICON West」は必須だ)、定期的に業界関連の情報に目を通していかなくてはならない。
安全性が高く、スマートで、より環境に優しい交通の中心にはEVがある。そして、EVが最大限の可能性を発揮するためには、半導体を十分かつ安定して入手できることが不可欠だ。そう考えると、半導体業界内のメーカーとサプライチェーンの前に大きな困難が立ちはだかっているのは明らかだ。業界関係者は、できるだけ備えを万全にして、半導体に精通するべく学びを深め、そうした重要な社会的必要性に応えなくてはならない。
ウィリアム(バド)・クロケット・ジュニア(William [Bud] Crockett Jr.):田中貴金属インターナショナル(アメリカ)のボンディングワイヤ担当VP。20年以上にわたって世界各地のスタートアップや新進企業、急成長企業に携わり、経験分野はフロントエンドやバックエンド、新製品の市場導入(NPI)など多岐にわたる。専門とする技術分野は、ボンディングワイヤ接続に関する豊富な経験をもとにした、半導体業界における新製品のローンチ管理、原料・パッケージの適格性評価、業界イニシアティブの維持。
この記事は、田中貴金属工業のウィリアム(バド)・クロケット・ジュニア(William [Bud] Crockett Jr.)氏が執筆し、「Industry Today」で配信されました。ライセンスに関するお問い合わせはspoeton@industrytoday.comまでお願いいたします。