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未来の車は、「らくだの蹄」で月を駆ける
1971年、アポロ15号のミッションによって、月面に初めて月面車が持ち込まれた。これにより宇宙飛行士は、17マイル(約27km)を超える月面の範囲をカバーできるようになった。徒歩で行われていたそれまでのミッションと比べると、4倍以上の範囲だ。翌年のアポロ17号のミッションでは、22マイル(約35km)を超える距離記録が月面車で達成された。
しかし、このどちらも、2020年代の終わりに実現するかもしれない距離と比べると短いものだ。日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2029年の打ち上げで、2人から4人が乗る密閉された与圧月面車を月に送り込む計画なのだ。すべてが計画通りに進むと、最終的に6000マイル(約9650km)を超える距離を月面で移動できるようになる。
大部分はJAXAとトヨタが共同で開発しているが、走行時に宇宙飛行士と装置と巨大な車両を支えるタイヤの開発については、ブリヂストンが契約している。車重と移動距離が大幅に増える場合、技術的な解決に何年もかかる課題が生じるものだが、ブリヂストンはすでにプロトタイプモデルを用意しており、2020年の「CES 2020」で実際に披露していた。
1970年代に実用化された月面車の車輪には、車重を支えるために、亜鉛メッキされたピアノ線のメッシュシェルが使われていた。そしてそこに、チタン製のアロー形パターンのトレッド(接地部)が取り付けられた。柔らかい月面での摩擦を増やすためだ。
JAXAの月面車は、1970年代の月面車と比べて大幅に大型化する。そのためブリヂストンは、スチールウールのような素材で作ったアウターシェルをテストしている。太いロープにしてトレッドを形成させたアウターシェルだ。1つのタイヤは、2つのタイヤが合体したように見える作りだが、この2つはトレッドが逆方向に組み合わされ、シェブロン(逆V字)型を作っている。
編んだ表面の下にブリヂストンが用いているのは、トラックや乗用車の一部の商用エアレスタイヤに採用している自慢のハニカム的な構造ではない。車輪の動きに合わせてバネのように曲がる金属スラットをつなげたものを採用している。
「月は重力が小さいので、ハニカム構造は必要ない」とトリギィは語る。「さらに月面車はもともと、重量を抑制するという独特な課題を追求している」
内側も外側も金属なので軽いとはいえないが、月は、ゴムのタイヤで移動できるような場所ではない。気温変化が非常に大きいことに加えて、月面自体が敵になる。「表面の粒子は小さく、帯電していて、鋭く、タイヤを摩耗する」とトリギィは言う。「このすべてに強い素材である必要がある」
実際の月面で酷使に耐えられるように、JAXAとトヨタとブリヂストンは、月をシミュレーションした状況でタイヤを実験する予定だ。実験に使う月面のシミュレーション環境をどこが提供するのかはまだ明らかにされていないが、玄武岩を含む噴石や、砕いたガラスなどを使うことで、砂漠を走らせるよりも本物に近い月の環境を再現する、オフ・プラネット・リサーチ(Off Planet Research)といった会社がある。
打ち上げは何年も先だ。また、月面車に関しては、まだやるべき仕事が全体的にたくさん残っているため、タイヤの設計は打ち上げまでに大きく変わるかもしれない。しかし、変わらないことが1つある。パンクが起きるとしたら、考えられるなかで特に最悪な場所は月ということだ。
この記事は、Popular Scienceに掲載されました。
The concept tires use a split design to mimic a hoof that won’t dig too deeply into the sand. (Stan Horaczek /)
This is an early mockup of what the internal structure could look like. (Bridgestone/)
This early render of the rover won’t be the final design, but it shows the rough scale, which is much bigger than previous rovers. (Toyota and JAXA/)
この記事は、Popular ScienceのStan Horaczekが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。