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新型コロナウィルスに対抗すべく人類が生み出した、10の発明
デザイナーやエンジニアやプログラマーたちが、警告音を耳にした。以来、ここ数週間のあいだに、創意工夫の波が押し寄せている。物置小屋で日曜大工にいそしむ人々やハイテク機器メーカーが、先を争うようにして、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対抗するためのツールを開発しているのだ。
しかし、こうして生まれたイノベーションの多くは、答えと同時に新たな疑問をもたらしている。3Dプリントはついに、オープンソース化によって、医療用部品のダウンロード可能なデザインを実現したのだろうか? もしそうであれば、知的所有権は放棄されるのだろうか? それとも、利他的なハクティビストはやはり、費用のかかる訴訟に直面するのだろうか?
携帯電話の追跡は、かつてない方法で感染拡大の地図を描き出し、人々をウイルスのホットスポットから遠ざけることができるだろうか? もしそうであれば、政府はCOVID-19のパンデミックを口実に、危機が去った後、国民の監視を強化しないだろうか?
3Dプリンターでつくった人工呼吸器のバルブから、紫外線(UV)殺菌ロボットまで、新型コロナウイルスと闘うために生み出された10の発明品を紹介しよう。
通気性の良い抗ウイルス・スヌード
マンチェスター大学の生化学者たちが「ウイルス・トラップ」技術を用いたスヌードを開発した。バイオテクノロジー企業ヴァイラスタティック(Virustatic)との10年間に及ぶプロジェクトの成果として、早期の生産開始を目指している。
開発チームによれば、食道の内側を覆う細胞の糖鎖構造とよく似た構造で、布をコーティングしているという。具体的には、炭素繊維の布に糖タンパク質を付着させ、綿などの安価な素材と重ねている。
テストの結果、エンベロープがあるインフルエンザウイルスの96%を捕捉できることが示されたという。発明者のポール・ホープ(Paul Hope)によれば、従来のマスクよりも通気性と伸縮性に優れるため、患者も着用できるという。
「ウイルスを最も拡散させるのは、治療を受けている人ですが、患者は従来のマスクを着用できません」とホープは話す。「通気性の問題があるためです。もし彼らがマスクを着用できれば、病院内のウイルスは減るでしょう。私たちのスヌード・マスクは顔にぴったりフィットします。鼻と口だけでなく、顔の下半分を覆います。すべての人にフィットするのです」
英国民保険サービス(NHS)の備蓄分を確保したうえで、週100万個を製造するという目標を掲げている
発熱者を発見・通告するスマートヘルメット
中国深センのテクノロジー企業、KCウェアラブル(KC Wearable)のおかげで、「ロボコップ」のような未来への憂慮すべき一歩が刻まれた。同社が開発したのは、最大5メートル離れた場所から発熱者を発見できるスマートヘルメット。体温の高い人が近くに来ると、警告音が鳴る。
すでに深セン、成都、上海の警察で使用されているこのヘルメットには、赤外線温度センサー、拡張現実(AR)バイザーのほか、QRコードを読み取ることのできるカメラが搭載されている。顔認識技術も採用しており、発熱者の氏名、病歴がARバイザーに表示され、Wi-Fi、Bluetooth、5Gで、最寄りの病院にデータを送信できる。
開発者によれば、わずか2分で100人以上の列をスキャンすることが可能。大規模病院も、このヘルメットが10個あれば、隅々までチェックできるという。パンデミック中は安心だが、恐ろしい未来が訪れるかもしれない。
3Dプリンターでつくった人工呼吸器のバルブ
人工呼吸器に不可欠なバルブを使い果たした病院に、イタリアのある企業が助け船を出した。新型コロナウイルスが猛威を振るったイタリア北部ブレシア県にあるキアリの病院では、集中治療の必要な患者が250人に達し、ベンチュリ管が不足する事態に陥った。ベンチュリ管は人工呼吸器と患者の顔に装着したマスクをつなぐもので、患者ごとに交換する必要がある。
新しいバルブの供給が間に合わなくなり、病院は支援を要請。3Dプリンター事業のスタートアップ企業イシンノーヴァ(Isinnova)は、バルブメーカーのインターサージカル(Intersurgical)に問い合わせたが、デジタルモデルを入手できなかったため、バルブの構造そのものをリバースエンジニアリングすることにした。最初の試作品は6時間以内に完成。実用に耐えられるバルブ100個を3Dプリントし、1日以内に病院に供給した。
イシンノーヴァのクリスチャン・フラカッシ(Cristian Fracassi)CEOはBBCの取材に対し、「バルブには0.8ミリ以下のとても細い穴と管があります。これらを3Dプリントするのは容易ではありません……しかも、製品を汚染しないよう注意しなければなりません。医療用品と同じ基準で製造する必要があります」と述べている。
イシンノーヴァは、酸素マスクの不足にも対応できるよう、シュノーケリング用マスクを非侵襲性の人工呼吸器に変えるアダプターも3Dプリンターで開発した。
新型コロナウイルス検査ブース
韓国は、COVID-19の検査で先頭を走っている。毎日2万人近くが検査を受けており、人口1人当たりの検査数はどの国よりも多い。症状のある人が検査を受けられるドライブスルー・センターの先駆けであり、さらに、ソウルのある病院は、医療スタッフがプラスチックパネル越しに安全に検査できる新しい検査ブースを導入した。
電話ボックスのような小部屋は、ウイルスの流出を防ぐために陰圧になっている。患者がブースに入ると、インターホンで簡単な診察が行われ、パネルと一体化した、腕まで覆うゴム手袋を使って、患者の鼻と喉から安全に検体が採取される。所要時間は約7分。終了後には消毒と換気が行われる。
ブースを運用しているH+ヤンジ病院のキム・サンイル(Kim Sang-il)院長は、「以前は大きな陰圧室で検体を採取していました」と話す。「そのため消毒に時間がかかり、1日8~9人しか検査できませんでした。しかし、今では70~80人を検査できます」
ハンズフリーのドアオープナー
袖を引っ張って手を隠してから、ドアの取っ手に触れることに嫌気がさしていないだろうか? ベルギーの3Dプリント企業マテリアライズ(Materialise)は、ドアの取っ手に付けると、ハンズフリーでドアを開けられるようになるアタッチメントをデザインした。
売り文句は、「ウイルスを防ぐには、腕を使おう!」ドアの取っ手に2つのシンプルな部品をねじ留めすれば、手ではなく、腕や肘でドアを開けられる。デザインは無料でダウンロードできる。
フリード・バンクラン(Fried Vancraen)CEOは、「ドアの取っ手は、建物内で最も感染しやすい場所の一つです」と話す。「3Dプリンターを利用できるすべての人にこのパーツをプリントしてもらい、それぞれのコミュニティーに導入してほしいと願っています」
UV殺菌ロボット
車輪が付いたライトセーバーの束に見えるかもしれないが、これはデンマークの企業が開発した殺菌ロボットだ。化学薬品を使うことなくウイルスを殺し、病棟を消毒できる。ロボットには8つの紫外線ランプが搭載されており、移動しながら強力なUV-Cを照射することで、細菌やウイルスなど有害微生物のDNAとRNAを破壊し、増殖を阻止する。
このロボットを使うことで、過酸化水素のような消毒薬への依存を減らすことができる。消毒薬を使う際には、部屋を数時間にわたって空にする必要があるため、病院ではあまり使用できない。
このロボットは、親会社のブルー・オーシャン・ロボティクス(Blue Ocean Robotics)とオーデンセ大学病院が6年にわたって共同開発し、2019年初頭に発売されたものだ。最近の需要急増によって生産を加速させ、1台1日足らずでつくることができるようになった。
中国のYouiBot(优艾智合)も、既存のロボットに赤外線カメラとUV-Cランプを追加し、同様の装置を開発。すでに武漢の工場やオフィス、空港、病院に納入している。YouiBotのケイマン・グアン(Keyman Guan)は、「現在、空港の手荷物ホールで活躍しています。昼は人々の体温をチェックし、夜はウイルスを殺しています」と説明している。
建築がれきを使い、3Dプリンターでつくる隔離病棟
中国のウィンスン(Winsun)は、高速3Dプリント技術を建築に応用。わずか1日で、COVID-19患者の隔離病棟を15棟つくった。
もともと別荘としてデザインされたコンクリート製の小屋だが、COVID-19の流行によって病院が過密になった結果、需要に対応するため生産を増やした。
シャワーとバイオトイレも付いている。レールに乗せられたロボットアームがコンクリートの層を少しずつ重ね、建物の壁をつくる方式だ。同社によれば、建設現場のがれきを再利用しており、強度は従来のコンクリート構造物の2倍だという。
コロナ100mアプリ
コーダーたちも新型コロナウイルスとの闘いに加わり、アプリの開発を急いでいる。韓国では、最もダウンロードされているアプリ15のうち6つをウイルス追跡アプリが占めている。
現時点で最も人気を集めているのは、「コロナ100m(Corona 100m)」というアプリだ。政府の検査プログラムで収集された大量のデータを活用し、感染者が訪れた場所から100メートル以内に近づいたら警告を発する。さらに、患者の陽性が確定した日付、国籍、性別、年齢、訪問した場所を知ることもできる。このアプリは2月11日に公開され、最初の17日間で100万回ダウンロードされた。
そのほかにも、陽性が確定した患者の移動履歴がわかるウェブサイト「コロナマップ(Coronamap)」、感染者が出た地域の情報を検索できる「コロナイタ(Coronaita)」などがある。
シンガポールやイスラエルでは、当局がユーザーの接触者を追跡し、ウイルス拡大のモデルを作成できるアプリが運用されている。台湾は、隔離中のユーザーが自宅を出たら地元警察に通報される「電子フェンス」システムを導入した。
英国では、追跡アプリを巡って、プライバシーに関する議論が勃発している。「責任あるテクノロジストたち」のグループが出した公開書簡には、「新型コロナウイルスと闘うために収集されたデータが、永久あるいは不当に長く保存されること、無関係な目的に使用されること」への懸念が記されている。「現在は確かに試練のときですが、未検証の新技術は求められていません」
3Dプリンターでつくったフェイスシールド
500台以上のプリンターを所有し、世界最大の3Dプリント・ファームを自称するチェコのプルサ(Prusa)が、医療用フェイスシールドの量産を開始した。1日800個以上のペースで製造し、チェコ保健省に1万個を寄付している。
創業者のジョセフ・プルサ(Josef Průša)は、「材料費は、大量購入時の割引なしで1台1ドル以下です」と話す。「文字通り、ある午後の1日で、プラハ周辺の材料を調達しました」
チリと米国に拠点を置くコッパー3D(Copper3D)は、3DプリンターでN95マスク「ナノハック(NanoHack)」を開発した。新型コロナウイルスを含む空気中の微粒子を除去することができ、デザインはオンラインでダウンロード可能になる予定だ。
さらに、世界的な工業用3Dプリンターメーカーである米国のストラタシス(Stratasys)も、3Dプリンターでフェイスシールドとマスクを開発。ヨアブ・ゼイフ(Yoav Zeif)CEOは「どこででも、どのような形でもプリントでき、すぐに適応できるという3Dプリントの強みは、フェイスシールド、マスク、人工呼吸器などに関連した部品の不足解消に役立てることができます」と述べている。
ウイルスと闘うドローン
家から出ることを禁じられた世界で、ついにドローンがその真価を認められたようだ。ドローン製造のトップを走る中国では、人混みでの発熱者の発見から、公共空間の消毒、遠隔地への物資の供給まで、あらゆる任務に遠隔操作の小型ドローンが活用されている。
肥料散布のためにつくられた農業用ドローンも、歩道や公共広場の消毒、離島コミュニティーへの食料品配達などに転用されている。検体の運搬にドローンを利用し、大幅な時間短縮が実現しているケースもある。
フランスでは、警察がロックダウンの取り締まりにドローンを活用。人々が不要な外出をしないよう、公園などの公共空間をドローンで監視している。英国では、ノーサンプトンシャー警察がドローンの数を増やす計画を立てている。このドローンにはスピーカーが搭載されており、人々に公共情報を伝えたり、屋内に戻るよう命じたりする役割を担う。
今は、不要不急な買い物には出掛けない方がいい。ドローンがどこかで見張っているからだ。
この記事は、The GuardianのOliver Wainwrightが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。