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アフターコロナには、AIが「ニューノーマル」の中心となる可能性

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2008年の金融危機を抜け出した際には、クラウド・コンピューティングが急拡大し、広く普及して世界を一変させる技術になり始めた。現在の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)危機では、人工知能(AI)応用技術に同様の転換点をもたらす可能性がある。

AIが社会に及ぼす影響をめぐる議論は国際的に続いているものの、世界規模の健康危機とそれに伴う景気後退が急速に発生したことにより、今後はAIのインパクトを加速することになるだろう。

危機の時代は、急速な変化をもたらす。ワクチンや治療薬などの新しい医療技術を発見する際にAI技術を活用する取り組みが、すでに本格的に始まっている。スタートアップ各社はソリューションを見つけようと競争しているし、既存各社は治療法を見つけるために学界とパートナーシップを築いている。さらに、応用の可能性を求めて既存の薬剤を調査する企業もある。AIは、可能性のある薬剤候補を特定するのに必要な時間を飛躍的に短縮する可能性があることが判明している。AIによって、数年分の研究時間を節約できる可能性があるわけだ。

AIの活用がすでに始まっている例としては、COVID-19症状のスクリーニング、CTスキャンの診断支援、病院業務の自動化などがある。診断から体温観察までのさまざまな医療機能を、ロボットが実行し始めている。

現在の危機が収まったあとの「ニュー・ノーマル」がどのようなものになろうと、医療関連に限らず今後のテクノロジー分野でAIが占める割合がより一層拡大することは明らかだ。

自動化の拡大

米シンクタンクのブルッキングス研究所(Brookings Institute)が2020年3月に発表した見解によると、今後は景気後退が、人間の労働を代替する自動化の急増をもたらし、それに伴って、雇用主が非熟練労働者を削減する可能性が高いという。不況のあいだに自動化が急拡大し、労働力人口に長期的な構造改革がもたらされると同研究所は主張している。また、この主張に同調する記事の中で、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(London School of Economics)のミルコ・ドラカ(Mirko Draca)教授は、景気後退とともにAIと自動化の波が到来すると述べている。

不況の影響は、経済の広範囲に及ぶだろう。従業員たちが病気になった結果、工場の閉鎖を余儀なくされた企業経営者の話が最近報道された。もしこの工場でロボットたちが働いていたならば、この種の問題が生じなかったことは明らかだ。結果としてこの企業は、今後数年間でAIと機械学習の導入を加速させることを計画している。

コールセンター業務も同様の影響を受けており、自動化ソフトウェアへの関心の高まりにつながっている。『ウォール・ストリート・ジャーナル』の報道によると、コールセンター各社は運営体制を激変させており、臨時雇用者を探すとともに、自動化されたボットを採用している。電話をかけてきた顧客を、人間が応対する必要がある人と、デジタル処理で対応可能な人に選別する助けとなるボットだ。

韓国の現代自動車(ヒュンダイ)は現在、自動化生産への移行ペースをさらに速めている可能性がある。

倉庫、食料雑貨店、配送などの労働者たちは、賃上げと、特に職場環境の向上を求めてストライキ行なっている。一方、こうした動きと時を同じくして、この種の職務が自動化の対象となることが増えており、自動化を推進させるためのAI製品が高度化し続けている。ストライキが発生する現状は理解できるものの、ストライキなどの行動が、自動化を導入する取り組みにさらなる拍車をかける可能性もある。完全に準備が整うまでには数年がかかるだろうが、倉庫から、食料雑貨店や飲食店、家庭まで、完全に自動化された小売サプライチェーンが次第に視野に入りつつある。

技術進歩に伴い、顧客側における自動化の受け入れも進んでいる。2020年3月に発表された、小売自動化をテーマにしたレポート「Automated Retail Tracker」によると、「食品や電子機器を購入する際のアメリカ人たちは、他の人間の助けがない方が、より快適に感じるようになっている」という。

コンサルティング企業のマーサー(Mercer)が発表したレポート『2020年マーサーグローバル人材動向調査(2020 Global Talent Trends Study)』は、従業員の34%が、3年以内に自身の職務が自動化に取って代わられると予想していることを明らかにした。そして、影響を受けるのはブルーカラーの仕事だけではない。調査会社ガートナー(Gartner)は、経営管理業務の70%が、バーチャル・パーソナル・アシスタント(VPA)やチャットボットなどの新興技術に取って代わられることにより、これらの職務が全面的に見直されると予測している。

監視技術の利用増加

危機的な時期には、政府が広範な権限を掌握する可能性がある。これが明白になったのは、2001年9月11日に起きた同時多発テロ事件後、情報収集活動を拡充させる米国愛国者法(USA PATRIOT Act)が短期間で議会を通過した時だ。条項の多くは10年以上前に失効することになっていたが、この取り組みはいまだに実施されている

現在の危機も、性質が大きく異なるとはいえ、監視活動を増大させる同様の推進力を与えている。世界各国の政府は、ウイルス感染可能性のある人々の最近の行動を追跡して感染経路を明らかにする目的で、監視カメラの映像、スマートフォンの位置情報、クレジットカードの購買記録などを利用している。

表向きは熱探知カメラで発熱を検知するという目的で、AI技術が拡張現実(AR)メガネに組み込まれている。同様に、タッチベースのセンサーに依存する技術の代替手段として、顔認識システムが採用されている。こうした顔認識の情報は、携帯電話の位置などの他のデータと統合される可能性がある。人々に関する情報を蓄積し、許容される移動や行動を判定するためだ。しかし顔認識技術は、識別精度と倫理的な利用に関する課題を抱えているため、政府による規制拡大を求める声が上がっている。

ウイルスとの総力戦という状況下では、有効な薬剤候補の探索と同様に、あらゆる局面でAI技術を利用することが求められている。世界保健機関(WHO)の緊急事態対応を統括するマイケル・ライアン(Michael Ryan)博士によると、監視技術は、ワクチンのない世界で生活を正常に戻すために必要となるもののひとつだという。しかし人権擁護の専門家は、このようなデジタル技術による権力行使に対して、差し迫った脅威が過ぎ去った時点で一般市民が異を唱える上で頼みとなるものがほとんどないと警告している

ヒューマン・ライツ・ウォッチ(Human Rights Watch)やアムネスティ・インターナショナル(Amnesty International)、そして、ニューヨーク大学の倫理と人工知能を扱う研究所「AI Now」など104の組織・団体で構成されるグループは各国政府に対し、人々を追跡・監視するためのデジタル技術を使用する際に人権を尊重することを求め、パンデミックへの対処においてリーダーシップを示すよう強く要請した。このグループは共同声明の中で、新型コロナウイルスを利用するかたちで、侵襲的なデジタル監視システムが大きく拡張された新時代を迎え入れるようなことがあってはならないと述べている。

ジレンマ

現在の危機に社会として直面しているわれわれは、健康を守るのと同時に、プライバシーと自由を確保するという、相互に矛盾する価値観の問題を解決しなければならない。さらに、ビジネスの存続可能性や、人々が生計を立てていける能力を保護することとのバランスも見出す必要がある。

われわれはニュー・ノーマルに向かって進んでいるのであり、もう後戻りはできない。利用可能な最善の手段を用いて危機をコントロールすることに、速やかに重点を移す必要がある。十分な集団免疫、治療法、有効なワクチンなどが確立されるまでの期間は12~24か月に及ぶ可能性がある。この間、政府は、少なくともビジネスの再開が可能になり、雇用水準が危機以前のレベルに近づくまで、社会的セーフティネットを提供するためにできる限りのことをすべて実行する必要がある。同時に人々は、自動化される可能性が高い分野の従業員は特に、ニュー・ノーマルには新しいルールが存在することを理解するべきだ。

人々はこの期間を、システムの分析と評価、問題解決、アイデア創造、リーダーシップなどの新しいスキルを身に付けるために利用するべきだ。エネルギー大手シェル(Shell)からアマゾン(Amazon)までの多くの企業が、従業員の大部分を再教育する計画を発表している。今後はさらに多くの企業が、再教育を実施する必要に迫られるだろう。

プライバシーと自由を守ることは、おそらくさらに困難になるだろう。差し迫った危機に対応してひとたび監視技術が使用されれば、元に戻すのは困難だ。監視を自分たちの「明白な運命」とする必要はない。欧州の専門家グループは、収集されたデータの保存期間を14日間のみに制限する提案を発表した。14日間とは、ウイルスが他者に感染する可能性のある期間に相当する。プライバシーを合理的に保護する唯一の方法は、危機のあいだに認められる監視権限が、危機終了時には失効することを必須条件とすることだ。

Gary Grossmanは、コンサルティング企業エデルマン(Edelman)のテクノロジープラクティス担当シニアバイスプレジデントで、Edelman AI Center of Excellenceのグローバルリードを務めている。

 

この記事は、VentureBeatで、EdelmanのGary Grossmanが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。