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最先端のコンピューティング・チップはいかに人の脳を模倣したか

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近年、世界中の多くの研究チームが、深層学習アルゴリズムなど、人間の脳に着想を得た演算手法の開発を進めている。幅広い応用が有望視されている手法もあるが、旧来のハードウェアでは演算負荷に対応しきれないため、パフォーマンスが制限されてしまう場合がある。

こういった既存ハードウェアによる限界を打ち破り、脳に着想を得た演算手法から最適な結果を得ようとすれば、人間の脳の構造をより忠実に模した新しい電子部品の開発が欠かせない。ニューロインスパイアード・コンピューティングチップとは、人間や動物の脳の神経構造を模倣して、人工知能(AI)専用に設計されたチップのことだ。

Reviewing recent advancements in the development of neuro-inspired computing chips不揮発性メモリ(NVM)ベースのニューロインスパイアード・コンピューティングチップの今後のロードマップ。出典:Zhang et al.

ニューロインスパイアード・コンピューティングチップの設計について、これまでの進歩を把握し、まだ克服しなければならない課題を明らかにするため、中国の清華大学の研究チームが近年の歩みをまとめたレビュー論文を発表した。「Nature Electronics」に掲載されたこの論文では、神経に着想を得た新しい回路、素子、アルゴリズムの開発を活性化する可能性のあるコデザインに関する一連の原則についても概要を示している。

研究チームの一員であるHuaqiang Wu氏はTechXploreの取材に対して、「この論文のアイデアは、ニューロインスパイアード・コンピューティングチップを設計してきたこれまでの経験から生まれた」と述べ、「これまでの研究で、こうしたチップは、素子や回路など、個別のレベルでパフォーマンスを最適化するのが難しく、素子からアルゴリズムまで幅広い要素をカバーするコデザイン戦略による最適化が必要であることがわかりました」と説明している。

Wu氏らは今回の論文で、ニューロインスパイアード・コンピューティングチップの設計における最近の発展を詳細に調べるとともに、この分野における自分たちの取り組みから得られた教訓を振り返っている。また、こうしたチップの開発に取り組んでいるほかのチームに役立つかもしれない、ベンチマーク指標とコデザイン原則についても概説している。

Wu氏は、「われわれの論文が、専門家ではない読者がニューロインスパイアード・コンピューティングチップについての知見を広げる役に立ち、また、この研究分野のさらなる発展を促進することを期待しています」とした上で、「われわれはニューロインスパイアード・コンピューティングチップについて、アルゴリズム、スパイキングニューラルネットワーク、人工(深層)ニューラルネットワークなどに対応できる可能性を中心に検討しました」と述べている。

Reviewing recent advancements in the development of neuro-inspired computing chips
ニューロインスパイアード・コンピューティングチップのイメージ。出典:Zhang et al.

Wu氏らのチームが光をあてたのは、計算密度、エネルギー効率、計算精度、およびオンチップ学習能力という、ニューロインスパイアード・コンピューティングチップの有効性を評価する際にエンジニアが着目できる4つの指標だ。

研究チームは過去の研究を調査するなかで、ニューロインスパイアード・コンピューティングチップの独自性と従来のチップに優越する点がいちばん現れるのがこの4つの指標であり、設計と最適化にはこの4指標が特に欠かせないことに気付いた。たとえばエンジニアは、チップの単位面積あたりの効率を反映する指標である計算密度によって、チップが1度に格納できる情報の量や、大規模なニューラルネットワークを実行できるメモリがあるのかなどを最終的に判断できる。

脳に着想を得たこうしたチップを評価する重要指標の概説に加えて、Wu氏のチームは、この分野の今後の研究で基準になるかもしれない一連のコデザイン原則を紹介している。この原則は主に、同氏チームによる過去の研究成果と所見に基づいている。

Wu氏は、「提案したコデザインツールは、われわれの研究の中でいちばん重要な部分だと考えています」と述べた上で、こう語った。「ニューロインスパイアード・コンピューティングチップの実用設計では、このコデザインツールがないと、性能が高いチップの実現は難しい。たとえば、シナプスメモリに使われる可能性がある不揮発性メモリ(NVM)素子は、本質的な非理想特性を持つことが普通であり、これによりチップのパフォーマンスが低下します。この非理想特性は、素子のレベルで小さくするには多くの手間がかかり、完全には排除できません。そこで、素子のレベルだけでなく回路やシステムのレベルでもチップ性能を最適化する上で、われわれのコデザインツールが役に立ちます」

今回のレビュー論文は結果として、脳に着想を得たチップの開発に取り組むエンジニアにとって概略的なロードマップになる可能性がある。Wu氏のチームはまた、AIとニューロインスパイアード電子機器の分野における研究をスピードアップして促進するかもしれない、別のガイドラインの策定も計画している。

Wu氏は、「今後の研究では、ニューロインスパイアード・コンピューティングチップの設計を2つに分割することもできます」と述べた上で、こう語った。「素子作製と技術統合の部分では、素子のパフォーマンスを最適化し、新しいニューロインスパイアード素子を作製し、3次元ニューロインスパイアード・コンピューティングチップの可能性を模索します。一方、チップとシステムの部分では、コデザインツールを開発して、汎用的なニューロインスパイアード・コンピューティングチップ、とくにNVMベースのインメモリ・コンピューティングチップを設計します」


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Researchers discover unique material design for brain-like computations


詳細情報: Wenqiang Zhang et al. Neuro-inspired computing chips(ニューロインスパイアード・コンピューティングチップ), Nature Electronics (2020). DOI: 10.1038/s41928-020-0435-7

© 2020 Science X Network

原文: Reviewing recent advancements in the development of neuro-inspired computing chips(2020年8月20日発行、同日にhttps://techxplore.com/news/2020-08-advancements-neuro-inspired-chips.htmlより取得)

当記事は著作権対象です。個人の学習または研究を目的とした公正利用の場合を除き、明示的許可のない部分・全体複製は禁じられています。当コンテンツは情報提供のみを目的に発行されました。

この記事は、Tech Xploreが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。