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自らの化学的・熱的状態を監視できる市販の電池セル
バッテリー技術は、時に不安定で、変動が大きくなる場合がある。この2つの性質が、バッテリー技術の安全性と信頼性を損なっている。バッテリーセルの化学的・熱的状態の経時変化を能動的に監視することは、事故や誤作動などを引き起こす可能性のある変化を検知し、問題が生じる前に介入する機会をユーザーに与える助けとなる可能性がある。
仏高等教育機関コレージュ・ド・フランスと、香港理工大学の研究チームはこのほど、セル内に組み込まれた一連の光学センサーを通じて自らの化学的・熱的状態を監視できるナトリウム(リチウム)イオンバッテリー(二次電池)を開発した。学術誌『Nature Energy』に掲載された論文で発表されたこのユニークな自己監視型バッテリーは、従来型の電池技術に比べて、より大きな安全性と、より持続的な効率性を提供できるかもしれない。
今回の研究を行なった研究者の一人、ジャン=マリ・タラスコン(Jean-Marie Tarascon)はTechXploreの取材に対して、「今回の研究アイデアが浮かんだのは約3~4年前、学術誌『Nature Materials』に『電池開発における持続可能性と現場観測』というタイトルの見解論文を執筆した時でした」と語る。「過去の研究を精査している時に、リチウムイオン電池のコスト性能比がこの数年間で非常に大きく向上していることに気が付きました。つまり、最近開発されているリチウムイオン電池技術は本当にうまく機能し、かつ低コストだということです。コスト性能比はすでに十分満足できるレベルにあるため、今後の研究の重点を、代替となる水系や非水系のバッテリー化学の開発ではなく、バッテリーの信頼性と安全性の向上への取り組みに置くことに決めました」
タラスコンは、これまでの研究の一部を行っているあいだに、検知機能と自己修復機能を持つ「インテリジェントな」バッテリー開発の可能性について検討し始めた。従来のバッテリー技術の設計から離れ、電池内部にセンシング技術のコンポーネントを導入することにより、最終的には電池の寿命を伸ばしたり、第二の「命」を与えたりして、バッテリー技術全体の炭素排出量を減少させることができるという仮説を、タラスコンは立てた。
円筒型電池(18650規格)に、直径約150ミクロンの光ファイバーセンサーを差し込む。電池の中心部に光ファイバーを直接挿入することで、センサーによって内部の温度と圧力を、これまでにない高精度で監視できる。提供:コレージュ・ド・フランス:ベンジャミン・カンプシュ、フランス電気化学エネルギーデバイス研究ネットワーク
このようなバッテリーを開発するために、タラスコンと共同研究者らは、市販の18650型ナトリウム(リチウム)イオン電池に、FBGセンサーを組み込んだ。
FBG(Fiber Bragg Grating:光ファイバー・ブラッグ回折格子)センサーとは基本的に、波長選択的な反射鏡として機能し、反射される波長のピークをデータとして収集する。このピークの位置は、センサー周囲の温度や圧力の変動によってリアルタイムに変化する。
研究チームが導入したユニークなバッテリー設計は、電池内部で起きている化学的および熱的事象のリアルタイムな追跡を可能にしている。タラスコンと共同研究者らはさらに、電池内で生成される熱量を、微小熱量測定法を用いるのではなく、代わりに一連のセンサーを通じて測定することに初めて成功した。
「ここで真に新しい点は、微細構造光ファイバーと通常の光ファイバーの組み合わせによる、温度信号と圧力信号を切り離すための新たなアプローチです」と、タラスコンは指摘する。「このアプローチの重要な利点としては、電池の化学的および熱的事象を高い信頼性と精度で解析できる可能性があることが挙げられます」
共同研究論文の第一執筆者と第二執筆者である、コレージュ・ド・フランスのフアン・ジアチアン(Jiaqiang HUANG)博士(右)と、ローラ・アルベロ・ブランケール(Laura Albero BLANQUER)博士。提供:コレージュ・ド・フランス:ベンジャミン・カンプシュ、フランス電気化学エネルギーデバイス研究ネットワーク
タラスコンと共同研究者らは、バッテリー内部で発生している発熱量や熱伝達量を極めて高い精度で測定できる可能性があることを実証した。この2つは、効率性と信頼性の高い冷却・加熱システムの開発にとって重要なパラメーターだ。したがってタラスコンらの研究は、電池を過熱から、より効率的に保護するような、より高度なバッテリー管理システム(BMS)の開発に道を開く可能性がある。
さらにこの設計により、電池内部から、極めて重要な化学的情報を取得することが可能になる。この情報は、固体電解質相間界面(SEI)の形成と組成など、バッテリー技術の機能に影響を及ぼす寄生反応に関する現在の理解を深める可能性がある。
「こうした界面は、最終的にバッテリー寿命を決定付けます」と、タラスコンは説明する。「界面を形成させる手順は、製造業者のあいだで厳重に守られている企業秘密です。そのため、FBGセンサーによって界面の形成をシンプルにモニタリングする我々の方法は、まったく新しいだけでなく、バッテリー業界にとって極めて重要な資産となります。SEIの形成は、バッテリーの市場投入に先立つ、不可欠で費用のかかる段階だからです」
(左から)香港理工大学(PolyU)電気工学科のスティーブン・ボールズ(Steven BOLES)博士、香港理工大学光通信学特別招聘教授で電気工学科長の譚華耀(Hwa-yaw TAM)教授、香港理工大学博士課程修了研究者のジュリアン・ボーンファチーノ(Julien BONEFACINO)博士。提供:香港理工大学
今回の研究は、産学両方の側面において、バッテリー開発の分野内に心躍る空前の機会を開くものだ。将来、タラスコンらによる設計が世界各地の他の研究チームにとっての見本となり、より安全で信頼性の高いバッテリーの開発につながるかもしれない。
「我々は現在、バッテリーの別の化学的性質の研究にFBGセンサーの使用を実装する作業を進めています。さまざまな温度と充電状態におけるSEI形成に関与する寄生反応を解析・同定するためのものです」と、タラスコンは説明する。「応用に関しては、我々は製造上の制約の面で、FBGセンサーを対象のバッテリー環境に適合させることにも取り組んでいます。また、高度なバッテリー管理システムを開発できるよう、セルで読み出される検知情報を賢く利用するための適切な伝達関数とモデリングツールを同定することとにも取り組んでいます」
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詳細情報:Jiaqiang Huang et al. Operando decoding of chemical and thermal events in commercial Na(Li)-ion cells via optical sensors (市販のナトリウム(リチウム)イオン電池中の化学的・熱的事象の光センサーによるオペランド解析) Nature Energy (2020) DOI: 10.1038/s41560-020-0665-y
C. P. Grey et al. Sustainability and in situ monitoring in battery development(電池開発における持続可能性と現場観測) Nature Materials (2016) DOI: 10.1038/nmat4777
© 2020 Science X Network
原文:Commercial battery cells that can monitor their own chemical and thermal state(2020年9月28日発行、同日にhttps://techxplore.com/news/2020-09-commercial-battery-cells-chemical-thermal.htmlより取得)
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