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自然界から着想を得た触媒による新しい水処理技術は、火星の有人探査にも役立つか
米カリフォルニア大学リバーサイド校の技術者らが率いる研究チームが、地球上の水から危険な化学物質を除去するための触媒を開発した。この触媒を使えば、火星の土壌を農業に適したより安全な状態にしたり、火星有人探査で使用する酸素の生産を助けたりするのも可能になるかもしれない。
過塩素酸塩は、塩素原子1個に酸素原子4個が結合した陰イオンで、地球上の一部の土壌で自然に発生し、火星の土壌にも特に豊富に含まれている。また、強力な酸化剤として工業的に製造され、固体ロケット燃料、花火、弾薬等の軍需品、車のエアバッグ用ガス発生剤、マッチ、信号炎管などに使用されている。ある種の殺菌剤や除草剤の副生成物でもある。
土壌と工業製品の両方に広く含有されるため、一般的な水質汚染物質の一つとなっており、特定の甲状腺疾患を引き起こす。過塩素酸塩は植物組織に生物濃縮するため、火星の土壌に含まれる大量の過塩素酸塩のせいで、そこで栽培される作物が食用には危険となり、人類の火星移住の可能性が制限されるかもしれない。火星の塵(ちり)に含まれる過塩素酸塩が、火星探査員らに害を及ぼす恐れもある。
水から過塩素酸塩を除去する現行の方法は、塩素の酸化状態を下げて、無害な塩化物イオンにするというものだが、この際に、過酷な反応条件や、多段階の酵素処理過程が必要になる。
カリフォルニア大リバーサイド校マーラン・アンド・ローズマリー・ボーンズ工学部(Marlan and Rosemary Bourns College of Engineering)の博士課程学生レン・チャンシュー(Changxu Ren)とアシスタント・プロフェッサー(化学環境工学)のリュー・ジンヨン(Jinyong Liu)は、水に含まれる過塩素酸塩を、常温常圧下の簡単な手順で還元する着想を自然界から得た。
レンとリューの研究チームは、酸素欠乏環境で一部の嫌気性細菌が、体内の酵素に含まれるモリブデンを用いて過塩素酸塩を還元し、エネルギーを得ていることに着目した。
「過塩素酸塩を還元するためのモリブデン化学触媒の開発は、これまでの取り組みでは成功には至っていません」と、リューは話す。「他の金属触媒の多くは、過酷な反応条件が必要か、水と相性が悪いのです」
研究チームは、細菌による過塩素酸塩の複雑な還元過程を、簡単な手法で再現しようと試みた。一般的な肥料であるモリブデン酸ナトリウムと、モリブデンに結合する一般的な有機配位子であるビピリジン、一般的な水素活性化触媒であるパラジウム炭素を混合すると強力な触媒が生成されることを、研究チームは発見した。この触媒を利用すれば、水素ガスを用いて、室温で燃焼を伴わずに、水中の過塩素酸塩を速やかに効率良く分解できる。
「この触媒は、これまで報告されている他のどの化学触媒よりもはるかに活性が高く、元の過塩素酸塩濃度に関係なく、過塩素酸塩の99.99%以上を塩化物に還元します」と、レンは説明した。
この最新の触媒は、1リットル中1ミリグラム未満から10グラムまでの幅広い濃度域で、過塩素酸塩を還元する。そのため、汚染された地下水の浄化、爆発物の製造で発生する高度汚染廃水の処理、火星の居住可能化など、さまざまな状況での利用に適している。
「この触媒を他の処理過程と組み合わせると、使いやすい触媒還元システムが生み出され、火星土壌から流出する過塩素酸塩から気体酸素を得る助けになる可能性もあります」と、リューは述べた。
研究レポート:A bioinspired molybdenum catalyst for aqueous perchlorate reduction
この記事は、SpaceDaily.comが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。