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2つの米国立研究施設による超高圧実験で、金とプラチナの較正基準を設定

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まるで、2人のスーパーヒーローがついにタッグを組んだかのようだ。世界最強の電気パルス発生装置である米サンディア国立研究所のZマシンと、世界最高出力のレーザー光源である米ローレンス・リバモア国立研究所の国立点火施設(NIF)が、10回にわたる一連の実験で、超高圧下における金とプラチナの反応を詳細に調査した。

File image of Sandia’s Z Machine.

実験では、金とプラチナに超高圧を加えた。その超高圧は、原子構造に対して、まるで遊園地のビックリハウスの鏡に映った姿のような「歪み」を瞬間的に生じさせるほどの規模だった。

別の実験で誘発された同様の高圧変化では、金属流体のようにふるまう水素や、雨のような液滴の形態となったヘリウム、「透明な金属」になるナトリウムなどの奇妙な現象が引き起こされている。だがこれまで、この種の圧力と反応を正確に較正する方法がなかった。較正は、超高圧と反応の制御を行うための第一歩となる。

サンディア研究所の責任者で、学術誌『サイエンス』に2021年6月4日付けで発表された技術論文の執筆者のひとりであるクリス・シーグル(Chris Seagle)は、「今回の実験は、金とプラチナに生じる歪みを時間の関数として測定するように設計されています。圧縮により、圧力対密度の測定値が得られます」と話す。研究者らは、2台の大型装置で実験を行った後、超高圧に対する金とプラチナの反応をまとめた表を作成した。「この表により、将来の研究者が、同様の圧力下にある別の金属の反応を較正する助けとなる基準が得られます」と語るのは、論文執筆者の一人で、極限実験データの信頼性の高い分類に取り組んでいるサンディア研究所のリードサイエンティスト、ジャンポール・デイビス(Jean-Paul Davis)だ。

約1.2テラパスカル(1テラパスカルは10の12乗パスカル)という、核爆発に匹敵する加圧量での実験で生成されるデータは、太陽系外惑星の組成、惑星衝突の影響と結果、月形成の仕組みなどの解明の助けになる可能性がある。

工学単位のパスカルは非常に小さいため、10の3乗、6乗、9乗、12乗倍の形で目にすることが多い。超高圧の影響の大きさは、大気圧の単位を用いた方がイメージしやすいかもしれない。地球の中心は、海面の大気圧(1気圧)の約360万倍、すなわち360万気圧だ。Zマシンのデータは400万気圧、NIFは1200万気圧にそれぞれ達している。

ダイヤモンド・アンビル・セルの威力

興味深いのは、このような超高圧状態を「ダイヤモンド・アンビル・セル(diamond anvil cell)」と呼ばれるシンプルな圧縮装置を使って実験室内で生成できることだ。

しかし、「こうした超高圧領域のための基準がないのです」と、デイビスは言う。「研究者たちが興味深い事象を調査する一方で、ある研究者が1.1テラパスカルで提示していることが、別の研究者の尺度では0.9にとどまるため、調査結果の比較が妨げられているのです」

いま必要なのは、今回の実験によって作成できた数表(numerical table)のような、土台となる較正ツールだとデイビスは指摘する。較正ツールがあれば、科学者たちは、同じ基準で記録された加圧量で得られた結果について議論できるようになるという。

「ZマシンとNIFによる今回の実験は、このツールを提供するものです」と、デイビスは述べる。

ローレンス・リバモア研究所の研究者D.E.フラタンデュオノ(D. E. Fratanduono)の指揮の下で進められた今回の実験では、全体として、Zマシンの正確さを利用して、NIFの高出力を検証した。

Zマシンの正確さ、NIFの高出力

Zマシンのエネルギーは、2000万アンペアのパルス電流で数百ナノ秒間に生じる、強力な無衝撃磁場(shockless magnetic field)によって生み出される。ちなみに、1アンペアは120ワットの白熱電球1個が消費する電流だ。

研究者たちは、Zマシンの手法が備える正確さを利用して、NIFの手法を用いて得られる、より高い圧力を検証した。

NIFの圧力は、土星中心核の圧力である850ギガパスカルを上回った。だが、NIFのレーザー圧縮実験では時に、圧縮波の開始時に必要となる小型衝撃波が試料の温度を上昇させることで、基準の設定を目的とする測定の結果が歪められる恐れがある。

サンディア研究所のシーグルは、「無衝撃圧縮のポイントは、調査対象試料の温度を比較的低く保つことです」と話す。「基本的に、試料は圧縮すると熱くなりますが、テラパスカルの圧力においても、比較的低温の数百度に保たれるべきです。最初の加熱は厄介なスタートなのです」

Zマシンは、今回実施された「ショット」すなわち照射実験回数の半分と、実験データの約3分の1に寄与した。Zマシンが、400ギガパスカルまでの実験結果の基準と見なされるもう一つの理由は、試料の大きさが約10倍だからだ。NIFの試料は幅60~90ミクロン(1ミクロンは1000分の1ミリ)であるのに対し、Zマシンの試料は600~1600ミクロンとなっている。

試料が大きく、パルスが遅いほど、精度の高い測定が容易に

「Zマシンの試料は、NIFの試料に比べてサイズがより大きいため、物質の微細構造による影響を受けにくかったのです」と、デイビスは説明する。「試料が大きいほど、そしてパルスが遅いほど、相対的に高い精度での測定が容易になります。2つの研究施設の協力によって、基準に対して本当に厳密な制約を加えることができました」

ZマシンとNIFの測定データを組み合わせた結果、より高精度だがより低強度のZマシンのデータを用いて、低圧から中圧の反応を突き止めるとともに、数学的な調整を行うことで、より高圧のNIFデータにおける誤差を減らすことができた。

「今回の研究の目的は、およそ1テラパスカルまでの、極めて正確な圧力モデルの作成でしたが、その目的は成し遂げられました。つまり、2施設の連携が有利に働いたのです」と、シーグルは話した。

この記事は、SpaceDaily.comが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。