CLOSE
About Elements
美しい未来のために、
社会を支えるテクノロジーを
TANAKAは、「社会価値」を生む「ものづくり」を世界へと届ける「貴⾦属」のスペシャリスト。
そして、「Elements」は、わたしたちのビジネスや価値観に沿った「テクノロジー」や「サステナビリティ」といった
情報を中⼼に提供しているWEBメディアです。
急速にパラダイムシフトが起きる現代において、よりよい「社会」そして豊かな「地球」の未来へと繋がるヒントを発信していきます。
わずか2分でバクテリアを除去する銅の表面素材
従来の銅と比べて100倍以上も速く効果的に細菌を殺す、新たな銅表面素材が開発された。増大する抗生物質耐性細菌の脅威に対抗する武器になりそうだ。
今回の新たな銅素材は、オーストラリアのRMIT大学(ロイヤルメルボルン工科大学)と、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の共同研究で生まれたものだ。研究成果は、学術誌『Biomaterials』に論文として掲載された。
銅はこれまでにも、ありふれた黄色ブドウ球菌を含め、さまざまな細菌との闘いに利用されてきた。銅の表面から放出される銅イオンが、細菌細胞に対して有害であるためだ。
しかし従来の銅を利用する場合、このイオン放出のプロセスは時間がかかる、とRMIT大学の特別栄誉教授(distinguished professor)であるマ・キアン(Ma Qian)は説明する。このプロセスを加速させるため、世界中の研究者たちが研究に取り組んできた。
走査型電子顕微鏡で12万倍に拡大した画像。黄色ブドウ球菌細胞を、a) 研磨したステンレス・スチール、b) 研磨した銅、c) d) 今回発表されたマイクロナノ銅表面に塗布した2分後の状態。
「一般的な銅表面は、4時間で約97%の黄色ブドウ球菌を死滅させます」と、キアンは言う。
「私たちが独自に設計した銅表面に黄色ブドウ球菌を塗布すると、驚くことに、わずか2分で99.99%以上の細菌が死滅しました」
「効果がより高いだけでなく、120倍も速いのです」
この結果の重要な点は、薬物の助けを一切借りずに達成されたことだと、キアンは指摘する。
「私たちが設計した銅構造は、ありふれた素材が驚異的なポテンシャルを秘めていることを裏付けました」と、彼は述べた。
研究チームは、新素材の開発がさらに進めばきわめて広範囲に応用可能だと考えている。例えば、学校や病院、家庭、公共交通機関で、ドアの取手などの接触表面を抗菌化することや、人工呼吸器や換気システム、マスクなどの抗菌フィルターにも利用できるだろう。
研究チームは現在、強化された銅の殺菌効果が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因となるSARS-CoV-2にも有効かどうかを、3Dプリンターで製作したサンプルを使って検証している。
他の既存研究によると、銅は抗ウイルス素材としても高い効果をもちうることがわかっている。米国環境保護庁(EPA)は2021年、抗ウイルス用途での銅表面素材の使用を承認した。
ユニークな構造で、銅の抗菌効果が向上
論文の筆頭著者であるジャクソン・リー・スミス(Jackson Leigh Smith)博士は、今回の銅素材のユニークな多孔構造が、細菌を迅速に死滅させる効果をもたらすと述べる。
製造プロセスにおいては、まずは、特殊な銅の鋳造工程により、銅原子とマンガン原子が特定の配列を構成する合金をつくる。
その後、「脱成分腐食」と呼ばれる化学処理によって、マンガン原子が合金から取り除かれ、純粋な銅が残る。この銅表面にはマイクロスケールおよびナノスケールの間隙が多数存在している。このプロセスは安価で、大規模化が可能だ。
「私たちが設計した銅には、マイクロスケールの間隙が櫛状に存在し、その櫛の歯のような構造のなかに、さらに小さなナノスケールの間隙があります。表面積が非常に大きいのが特徴です」とスミスは言う。
「このパターンのおかげで、表面は超親水性を持ち、付着した水は水滴にならずにフィルム状に平坦に広がります」
「親水性の効果により、細菌細胞は、銅表面のナノ構造に引っ張られて形状を維持できなくなります。さらに多孔質であるため、銅イオンの放出が促進されます」
「このような複合的効果により、細菌細胞が構造的に劣化し、有害な銅イオンに対して脆弱になることに加え、細菌細胞への銅イオンの取り込みが促進されるのです」とスミスは說明する。
「こうした複合的効果が、殺菌作用の大幅なスピードアップをもたらします」
CSIROのダニエル・リャン(Daniel Liang)博士によれば、世界の研究者たちは、抗生物質の需要を抑制し、薬剤耐性細菌の氾濫に歯止めをかけるため、新たな医療素材や医療器具の開発に力を入れている。
「薬剤耐性細菌への感染が増加する一方で、実用化される新たな抗生物質は限られているため、抗菌作用のある素材の開発は、この問題の解決策の一つとして重要な役割を果たすでしょう」と、リャンは述べる。
「今回の新たな銅素材は、スーパー細菌との闘いにおいて、安価で前途有望な選択肢をもたらすものです。CSIROは増大する抗生物質耐性細菌のリスクに対処するため、他にもさまざまな研究開発を進めています」
研究レポート:“Robust bulk micro-nano hierarchical copper structures possessing exceptional bactericidal efficacy”
この記事は、SpaceDaily.comが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。