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銅の真実:8,000年前から人類に利用されてきた赤色金属
赤く輝く銅は、人類が初めて利用した金属であり、現在も産業に不可欠な金属だ。
中東で発見された最古の金属製品も銅でできている。紀元前5100年の小さな錐(きり)だ。米国の1セント硬貨もかつては純銅製だった(現在は97.5%が亜鉛、表面が銅メッキ)。
米地質調査所(USGS)によれば、銅は鉄、アルミニウムに次ぎ世界で3番目に多く消費されている産業用金属で、全体の約4分の3が電線、通信ケーブル、電子機器に使われている。
金を除くと周期表で唯一、自然の色が灰色または銀色でない金属だ。
銅の化学的性質
Image credit: Andrei Marincas Shutterstock
- 原子番号(原子核に含まれる陽子の数):29
- 原子記号(周期表の記号):Cu
- 原子量(原子の平均質量):63.55
- 密度:1立方センチあたり8.92グラム
- 室温相:固体
- 融点:華氏:1,984.32度(摂氏:1,084.62度)
- 沸点:華氏:5,301度(摂氏:2,927度)
- 同位体(原子番号は同じだが、中性子数が異なる原子)の数:35。安定同位体は2種
- 最も一般的な同位体:Cu-63(天然銅の69.15%)、Cu-65(同30.85%)
銅の歴史
銅の大部分は鉱石中に存在する。使用するには鉱石から取り出して純度を高めなければならない。ただし化学データベースサイトChemicoolによれば、自然界で化学反応が起こり自然銅が得られることもあるという。
人類は少なくとも8000年前から銅で物品をつくっており、紀元前約4500年までには精錬方法を発見していた。次の技術的飛躍は銅にスズを加えた合金で、それぞれの金属よりも硬い青銅が生み出された。これは青銅器時代の到来を告げる技術開発だった。「ヒストリーチャンネル」によれば、銅器時代は紀元前3300〜1200年頃で、青銅製の道具や武器の使用を特徴とする。
銅の遺物は、歴史的記録のあちこちに登場する。紀元前5100年頃には古代イスラエルの村で、小さな錐が中年の女性とともに埋葬された。この錐は、中東で発見された最古の金属製品だ。PLOS ONEに発表された2014年の論文によれば、この錐に使用された銅はおそらく、コーカサス地域からもたらされたものだという。コーカサスは、ロシア南東部、アルメニア、アゼルバイジャン、ジョージアを含む地域で、錐が発見された場所から600マイル(1000キロ)以上離れている。古代エジプトでは、銅合金を使いトウリング(つま先につける指輪)などの宝飾品がつくられていた。またイスラエルでは、紀元前10世紀からの巨大な銅鉱山も発見されている。さらに、銅は約7000年前に人類が排出した最初の汚染物質だった可能性もある。
USGSによれば、地球上の銅の約3分の2は火成岩(火山岩)、約4分の1は堆積岩に存在する。展延性が高く、熱や電気をよく通すため、電子機器や配線に広く使用されている。
銅が緑色になるのは酸化反応、つまり水や空気にさらされたとき、物質が電子を失う反応によるものだ。銅メッキを施した自由の女神像がオレンジ色ではなく緑色なのは、この酸化反応のためである。銅開発協会によれば、自由の女神像を覆う酸化銅の風化層は厚さわずか0.005インチ(0.127ミリ)だが、その重さは約80米トン(73トン)にもなる。ニューヨーク歴史協会によれば、銅色から緑色への変化は徐々に起こり、像の寄贈、除幕から34年後の1920年までには完全な緑色になっていたという。
銅の豆知識
銅に関する興味深い事実を下記に紹介する:
- オランダの歴史学者ピーター・バン・デル・クロート(Peter van der Krogt)によれば、「銅(copper)」の語源は諸説あるが、その多くがラテン語のcuprumに由来。cuprumの語源は「キプロスの金属」を意味するCyprium aesで、これは当時のキプロスで採掘された銅が大部分を占めていたことが原因だ。
- USGSによれば、平均的な自動車の銅配線をすべてつなげて伸ばすと、その距離は0.9マイル(1.5キロ)。
- ジェファーソン研究所によれば、銅の電気伝導度(電気の流れやすさ)は、銀に次いで2番目に高い。
- 米国の1セント硬貨は、1783〜1837年のあいだは純銅製だった。それから1857年までは青銅製(95%が銅、残り5%がスズと亜鉛)に。1857年には銅の割合が88%まで減少したが(残り12%はニッケル)、1864年に元のレシピに戻った。1962年には、銅95%、亜鉛5%に変更。1982年には亜鉛97.5%、銅2.5%に変わり、現在までこの比率で維持されている。
- 人は食事で銅を摂取する必要がある。米国立医学図書館によれば、銅は赤血球の生成に不可欠な必須微量元素だという。穀物や豆、イモ、葉物野菜などさまざまな食品に銅が含まれている。
- 一方で銅の取り過ぎは体に良くない。銅の過剰摂取は短期的に、腹痛、嘔吐、黄疸(皮膚や白目が黄色くなることで、肝臓が正常に機能していないことを示唆する)を引き起こす可能性も。過剰摂取が長く続くと、貧血、けいれん、出血を伴う下痢、場合によっては青色の下痢などの症状が出る。
- 古い銅管が原因で、水道水に含まれる銅の濃度が上昇することもある。シアトル・タイムズ紙によれば、ミシガン州デトロイトでは2018年4月、水道水から高濃度の銅と鉄が検出され、公立学校で飲料水の供給をすべて停止する措置が取られた。
- 学術誌Applied and Environmental Microbiologyに発表された2011年の論文によれば、銅には抗菌性があり、接触した細菌やウイルス、酵母を不活性化するという。この特性により、銅を布に織り込み真菌の繁殖を防ぐ靴下などの抗菌性衣類が開発されている。
- メイヨー・クリニックによれば、銅はある種の子宮内避妊器具(IUD)にも使用されている。銅のワイヤーが精子と卵子の両方に有害な炎症反応を引き起こし、妊娠を回避する仕組みだ。ただしどのような医療処置であっても副作用のリスクはある(Medical Science Monitorに発表された2017年の論文によれば、銅の毒性が副作用の原因になることはなさそうだ)。
最新の研究
銅の抗菌性は医療の世界でも重宝されている。複数の病院がベッドの手すりや呼び出しボタンなどの頻繁に触れる面を銅や銅合金で被覆し、院内感染を防ぐ実験を行っている。サウスカロライナ医科大学の感染症学教授で、病院疫学を専門とするカサンドラ・サルガド(Cassandra Salgado)によれば、銅は微生物の細胞膜の電荷に干渉することで、その命を奪うという。
サルガド率いる研究チームは2013年、3病院の集中治療室(ICU)を対象に、多くの手が触れる6つの一般的な物体を銅で被覆した部屋と、何もしていない部屋を比較した。その結果、(銅で被覆していない)従来の病室では、12.3%の患者がメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)などの薬剤耐性菌に感染した。一方、銅で被覆した病室では、これらの重篤な感染症になった患者はわずか7.1%だった。
サルガドはLive Scienceの取材に対し、「病室に銅を採用すれば、微生物の影響が減ることはわかっています」と述べた。「何度も繰り返し観察されてきた現象だと思いますが、私たちの研究によって初めて、これが臨床的に有効であることが示されました」
研究チームはICUの環境のうち、銅以外のものは変えなかった。医師や看護師は手洗いを継続し、清掃も通常通りに行った。チームは2013年、研究成果を学術誌Infection Control and Hospital Epidemiologyに発表した。American Journal of Infection Controlに発表された2017年の論文によれば、サルガドらは聴診器の実験も行い、聴診器を銅で被覆すると、細菌の数が著しく減ることを発見した。実際、細菌が全く検出されない聴診器も66%あった。現在サルガドらはさらに研究を進め、ICUと比べて患者の移動が多い病棟においても、銅メッキのアイデアを検証している。銅の導入にかかる費用と、治療費が高い感染症を防ぐことによるコスト削減を比較する費用対効果の分析も必要だとサルガドは述べている。
2020年に行われた二重盲検ランダム化比較試験では、帝王切開の傷に銅入りの包帯を巻くと、従来の包帯に比べて、腹腔内の感染リスクを80%低減できることが明らかになった。この研究結果はEuropean Journal of Obstetrics, Gynecology, and Reproductive Biologyに発表された。
銅は、電子機器の分野でも大きな役割を果たしている。その豊富さと価格の安さから、研究者たちは、銅を積極的に最新機器に組み込んでいる。
オーストラリア、モナシュ大学の化学工学教授ウェンロン・チェン(Wenlong Cheng)は、銅は電子ペーパーやウェアラブルバイオセンサーといった「柔らかい」エレクトロニクスの開発に役立つ可能性があると期待している。チェンらは銅のナノワイヤーを使い、「エアロゲルモノリス」の開発に取り組んでいる。これは、乾いた台所用スポンジのような見た目の素材だが、多孔質で非常に軽く、自立できる強度を備えている。エアロゲルモノリスはこれまで、金や銀でつくられてきたが、銅を使えばコストを下げることができる。
チェンらは、銅ナノワイヤーに少量のポリビニルアルコールを混ぜ、電気を通すゴムのようなエアロゲルモノリスを作りだした。ゴムのような質感を持っており、薄切りしたり成形したりできる。この研究成果は2014年、学術誌ACS Nanoに発表された。チェンはLive Scienceの取材に対し、最終的には軟らかい体のロボットや、曲線的な皮膚にぴったりくっつく医療用センサーなどが実現するかもしれないと話している。チェンのチームは現在、銅のエアロゲルモノリスから、血圧や体温を測定できるセンサーをつくろうと取り組んでいる。やはり、銅は人の健康に役立つようだ。
物理学者たちも、銅の実験を行っている。2014年のある実験では、銅の塊を6ミリケルビン(絶対零度=0ケルビンの1000分の6度)まで冷やすことに成功し、地球上で最も冷たい1立方メートル(35.3立方フィート)の物質を作り出すことできた。この質量と体積を持つ物質が、絶対零度(0ケルビン)にこれほど近づいた例はない。
イタリア国立核物理学研究所の研究チームはこの実験で、880ポンド(400キログラム)の銅の立方体をクライオスタットと呼ばれる容器に入れた。物体を極低温に保つよう特別に設計されており、物質を絶対零度に近づけることができる世界初のクライオスタットだった。銅を可能な限り冷やすこの実験は、ニュートリノと呼ばれる素粒子について調べ、宇宙には反物質より物質がはるかに多く存在する理由を解明する研究プロジェクトの一環として行われた。
関連記事:
—Why did this man have copper-colored rings in his corneas?
—The Periodic Table of Elements
さらに銅は農業科学者の関心も引いている。コーネル大学のチームは農作物、なかでも小麦における銅欠乏の影響を研究してきた。小麦は世界で最も重要な主食の一つであり、銅の欠乏は収量と稔性の低下につながる。
同チームは、植物がどのように銅を吸収し処理するかを研究している。米農務省によれば、チームは研究成果として、AtCITF1、AtSPL7という2つのタンパク質を発見した。小麦が銅を取り込み、生殖器官まで運ぶのに不可欠なタンパク質だ。
初期の実験では、銅などの栄養素に富んだ土壌をつくり、それを小麦に吸収させると、収量が7倍まで増えるという結果が出ている。銅をはじめとするミネラルの知識が、作物の健康や生育に役立つことは知られているが、なぜどのように役立つかはよくわかっていない。銅がなぜ有益なのか、植物の成長や繁殖においてどのように機能するかがわかれば、米、大麦、オーツ麦などの作物に応用できる。銅などのミネラルが豊富な肥料を使えば、農業に適さない土壌にも、これらの作物を導入できるようになるだろう。
この記事は3月9日、Live Scienceの寄稿者ステファニー・パパス(Stephanie Pappas)によって更新された。Live Scienceの寄稿者レイチェル・ロス(Rachel Ross)による追加レポートも含まれている。
追加情報
- 米国がん協会は銅に関する研究を分析し、がんの予防や治療に役立つ可能性があると主張。
- 米環境保護庁は、高濃度の銅にさらされることや家庭用の銅管の腐食がもたらす影響について情報を提供。
- トーマス・ジェファーソン米国立加速器施設(ジェファーソン研究所)は、銅の歴史と用途を探求。
参考文献
「Copper: Element information, properties, and uses」、英王立化学会。2022年3月9日にアクセス。
「Health Benefits and Risks of Copper」。MedicalNewsToday。2017年10月更新。
「Copper」。米国立医学図書館。2022年3月9日にアクセス。
この記事は、Live ScienceのStephanie Pappasが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。