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量子コンピューティングの新時代に向けてビジネスを準備する

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コンサルティング企業EY(アーンスト・アンド・ヤング)の調査によると、英国ではビジネスリーダーの多数(81%)が、量子コンピューティングによって2030年までに産業界が大きく変貌すると見ている。確立されたビジネスケースがまだ存在しない技術だけに、これは思い切った主張ではある。それでも英国は、量子コンピューティングの応用が近い将来さまざまな産業に広がると見込んでいるようだ。

2021年には、英国国立量子コンピューティングセンター(NQCC)も設立された。NQCCでイノベーション部門の副ディレクターを務めるサイモン・プラント(Simon Plant)博士はこう語る。「量子コンピューティングは、特定のタスク解決までの期間を大幅に短縮することが期待されています。現状で従来のデジタル技術では手に負えないようなコンピューティング問題に対処できると期待されているのです。そのため開発ペースは加速しており、量子コンピューティングの産業利用については、できるかどうかではなく、いつ、どのようにできるようになるのかの問題になってきています」

量子がもたらす革命的な変化

まず必要なことは、量子コンピューティングは画期的だという主張を定量化し、ビジネスプロセスの文脈で記述することだ。例えば、製薬、金融、自動車といった部門は、いち早く量子コンピューティングを採用する可能性が高い。例えば、新薬の開発においては従来型のコンピューティング・アーキテクチャーから移行することで、これまで10年かかっていた開発サイクルが劇的に短縮され、新薬の市場投入まで平均20億ドル(約2975億円)かかっていた費用が大幅に削減されるなど、大きく変化する可能性がある。

量子優位性(quantum advantage:量子デバイスが、従来型のコンピューターよりも速く問題を解決できること)は、あらゆるビジネスで急速に実現に近づいてきていると語るのは、英国とアイルランドでアクセンチュア・テクノロジー(Accenture Technology)のマネージングディレクターを務めるメイナード・ウィリアムズ(Maynard Williams)氏だ。「この新世代マシンが生み出すパワーは、こうした中心的課題を達成可能なものに変え始めるようになり、量子は次世代の問題解決の頂点になるでしょう。コンピューティングにとって最大の分岐点になるのは、まさに、文字通り手に負えないと見なされていた問題を量子コンピューターが解いて、不可能を可能にする時です」と同氏は語る。

量子コンピューターを使いこなす上で大切なのは、それを文脈の中に置き、バイナリーコンピューターと並行して利用することだ。規模にかかわらずあらゆる企業が、「次なる技術の波」をしっかりと商業的に活用できるようなコンピューティングの世界においては、実は従来型のコンピューターにも持ち場があるのだ。

IBMのディスティングイッシュト・エンジニア(技術理事)で、英国工学技術学会(IET)のフェローを務めるリチャード・ホプキンズ(Richard Hopkins)氏は、「細部までにわたる量子戦略が、研究開発に加えて、産業スキルも重視するようになることを期待しています」と話す。ホプキンズ氏が勤めるIBMは、D-Waveやグーグルのような企業とともに、量子超越性(Quantum supremacy:どの従来型コンピューターであっても実用的な時間では解決できない問題を、量子デバイスが解決できること)を達成しようと努力する多くの企業のうちの一つだ。「量子コンピューティングを現実世界の産業的問題にいち早く適応することで、英国は大きな価値を得られますが、それには関連スキルへの投資が必要です」とホプキンズ氏は語る。

量子のビジネスケース

量子コンピューティングの将来性が非常に支持されていることは、富士通とteknowlogy Groupによる調査でも判明している。量子コンピューティングを、多様なビジネス環境にどのように応用できるのかを分析したこの調査では、製造、生命科学、小売、運輸、公共事業といった分野のビジネスリーダーの81%が、ビジネスプロセスの最適化がデジタルトランスフォーメーションの課題への取り組みに役立つと答えている。また、そうすることで、変化の激しい市場で競争力を維持できると述べている。

この調査によると、量子コンピューティングの議論は、理論から応用方法へと大きく移行している。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが峠を越えた今、企業も迅速さを高めてスピーディーにイノベーションを実現しなければならない。量子コンピューティングのような、かつては見かけ倒しとされた新興技術の採用戦略を策定するのはその一つだ。コンピューティングにおけるこの新しいフロンティアを、ビジネスリーダーは今や、イノベーションを加速するための道具の一つと見なしており、BASFやフォルクスワーゲンのように、すでに量子アルゴリズムをビジネスに活用しているところもある。

メガバンクのHSBCは2022年3月、「IBM Quantum Accelerator」プログラムに参加する意向を明らかにした。HSBCはこのプログラムで、IBMの127量子ビットのプロセッサー「Eagle」を利用できるようになる。HSBC BankとHSBC Europeの最高経営責任者(CEO)を務めるコリン・ベル(Colin Bell)氏は発表の中で、「この技術には、従来型のコンピューターだけでは決して解決できないであろう課題に対処することで、銀行分野の経営を一変させる可能性がある」とコメントしている。

アクセンチュアのウィリアムズ氏も、各社は量子的未来に向けた戦略立案を始めるべきだとアドバイスする。「ビジネスリーダーが、量子への備えに向けて取り得る対応においてできる最も迅速な動きは、こうした技術で自社のビジネスがどのように形を変えていくのかについて評価を始めることです」とウィリアムズ氏は述べる。「そうすることで、知識と運用のギャップを突き止めて、手遅れになる前にギャップを埋め始めることができます」

量子優位性の追求

量子コンピューティングは、その投資費用から、これまでもっぱら大きな企業に限定されてきた。しかし、これからは中小企業やスタートアップも、量子コンピューティングに秘められた力を利用したいと考えるだろう。そうしたところにも、量子のドアは開かれるのだろうか。

技術へのアクセスは、常にビジネスケースを形成してきた。現在の市場では、「サービスとしての量子(quantum as a service:QaaS)」プラットフォームを大手クラウドサービスプロバイダーが開発している。高いレベルのコンピューティング能力を、可能な限り広範なオーディエンスに提供しようとするものだ。以前からIBMがクラウドを通じて量子コンピューターを提供しているほか、AWSも、競合する量子クラウドサービス「Amazon Braket」を提供している。マイクロソフトは、「Azure」を通じて「Pasqal」マシンを提供している。

富士通が生み出した「デジタル・アニーラ(Digital Annealer)」は、量子現象に着想を得た新たな技術アーキテクチャーであり、現在のコンピューター能力を超えた複雑な「組み合わせ最適化問題」を解決できるように作られた。量子コンピューティングを実際に展開しているものではないが、多くの企業が自社において次なる10年の発展の一部と受け止められるような、量子的未来への道筋を示している。

比較的小規模企業が多いセクター、特に金融サービスとフィンテックにおいて、量子コンピューティングはビジネスの差別化要因になる可能性があり、商業上の優位性をもたらし得る技術であることは間違いないと見られている。ただしマッキンゼーによると、近年の進展を踏まえても、量子コンピューティングの現実世界における応用は、2030年まで始まらないという。それまでは引き続き、量子に着想を得たアルゴリズムが開発され、HPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)モデルとあわせて展開される見込みだ。

すべてのビジネスに、量子的未来が待っているのだろうか。デロイトで新興技術の全米調査ディレクターと、政府サービスおよび公共サービス担当CTOを務めるスコット・バックホルツ(Scott Buchholz)氏はIT Proに対し、「この技術の特性における格差を考えると、各社は今すぐ『友人に電話』して、量子戦略の策定や初期調査を開始したいと考えたくなるでしょう」と語る。「適切なパートナーと取り組むことで時間が節約でき、学習プロセスのスピードアップにもつながります」

ボストン・コンサルティング・グループのリード・データサイエンティストであるジャン・ベイナー(Jan Beitner)氏も、各社は今すぐ実際に行動を起こすべきだとアドバイスする。「自社のバリューチェーンを検討して、最も適切な用途を突き止めることから始めるべきです。さらに、それを定量化して、コンピューターがいつ計算できるようになるのかを、専門家の協力を得て割り出す必要があります。各社はその出発点からロードマップを策定できます。技術の向上によって、その可能性が解き放たれていく量子を活用・統合できるようにするためのロードマップです」

COVID-19のパンデミックを受けて、各社は、デジタルトランスフォーメーションのロードマップを作成し直そうとしているが、そこには量子コンピューティングが組み入れられるべきだ。量子コンピューターの開発は続いており、ブレイクスルーはそう遠くない。もしかすると、それ自体は主流にならないかもしれないが、あらゆるビジネスがアクセスできるトランスフォーマティブな技術になるだろう。大切なのは、量子コンピューティングの他にはない特質を使いこなせるように、明確な展開戦略とビジネスケースを持っておくことだ。

この記事は、IT ProのDavid Howellが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。