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「ビタミン電池」で紐解く、AIが新材料開発を爆速化する方法
アラン・アスプル=グージック(Alán Aspuru-Guzi)教授が率いる、トロント大学のアクセラレーション・コンソーシアムには壮大な計画がある。最新の自動化アプローチによって、素材科学の学問的探求から実用化までにかかる時間を劇的に短縮するというものだ。アクセラレーション・コンソーシアムは、トロント大学の組織戦略イニシアチブであり、AI(人工知能)とロボティクスを利用して、先端素材開発のタイムラインを抜本的につくり変え、コストを大幅に削減する新技術「自律運営ラボ」の設計と構築を行う機関だ。従来ならば20年の研究期間と1億ドルの研究費が必要な発見のプロセスが、わずか1年の研究期間と100万ドルの研究費にまで合理化できるかもしれない。
目標達成を支える要素の一つは、従来の科学の発見プロセスを逆転させる自律運営ラボの能力だ。研究者たちが試行錯誤の実験に途方もない時間を費やす代わりに、自律運営ラボのテクノロジーにおいては、研究者が新素材に求める特性を事前に定義すれば、あとはラボが自律的に探索を行う。まずは、コンピューターモデルを駆使して、どの分子の組み合わせが特定の用途に最適であるかを予測する。続いてロボティックラボが、予測に基づいて自動的に物質の合成を行い、求める特性が実際に備わっているか検証する。実験結果のデータはAIシステムにフィードバックされ、結果をもとに改良版が生み出される。こうして予測・合成・検証のプロセスを繰り返すことで、ベストな新素材が誕生するのだ。
トロント大学では多くの研究イニシアチブで、こうした自律運営ラボのアプローチが採用されている。今ある問題を解決し、将来の問題にも先回りして対処するような、待ち望まれているテクノロジーの進化を加速させることが狙いだ。なかでも、さまざまな先端素材を生み出すであろう2つのプロジェクトは、産業界にも消費者にも、革命的な恩恵をもたらすことが期待されている。
次世代の耐久素材
AIを使って、腐食に耐久性のある革新的な合金素材の組み合わせを発見する「ビルト・トゥ・ラスト(Built-to-Last)」プロジェクトを率いるジェイソン・ハットリック=シンパーズ(Jason Hattrick-Simpers)教授は、「腐食は普遍的な現象です。その緩和と修復に、カナダの納税者は毎年380億ドルを費やしています」と語る。「腐食の人的コストはさらに高いです。ミシガン州フリントの水質汚染問題には、鉛を含む水道管の腐食が絡んでいます。また、マイアミのサーフサイド・コンドミニアム崩落事故にも、ほぼ確実に腐食が関わっているのです」
同プロジェクトは、新たな「高エントロピー素材」、すなわち多くの物質からなる合金を探求している。比較のために例を挙げると、史上初の合金である青銅は、銅とスズという、たった2つの物質で構成されている。複数の金属や物質がとりうる組み合わせを考えれば、未発見の合金は数十億種にのぼるかもしれない。これらの組み合わせを一つ一つ検証して特性を記述し、どれに実用化の望みがあり、どれにないかを判断することは不可能だ。このような取り組みに必要な膨大な作業時間を確保することはできない。だが、発見プロセスをAIによって強化することで、道が開けるのだ。
「私は、グリーン経済を推進する素材に関心があります」と、ハットリック=シンパーズ教授は言う。「腐食耐性合金の用途の一つとして、長持ちする電気接点材料が考えられます。携帯電話やノートパソコン、電気自動車は毎晩充電する必要がありますが、そうした電気接点は、いつも理想的な環境に置かれているわけではなく、丁寧に扱われているともいえません」と、彼は説明する。「私たちは、一日の終わりに、塩や泥にまみれた電気自動車のプラグを、湿気のこもったガレージのコネクターに接続しておきながら、バッテリーが購入当初と同じくらい効率よく充電されることを期待します。残念ながら、プラグを接続すること自体も、電気接点を劣化させます。風力発電タービンの電気接点が、どれだけ脅威にさらされるかを考えてみてください。しかも、それが海沿いにあったらどうでしょう」
物質ラボ
トロント大学の物質ラボ(Matter Lab)に所属する研究者たちは、アクセラレーション・コンソーシアムと共同で、エネルギーを貯蔵する新たな有機素材の研究を加速し深化させようとしている。物質ラボのヤン・カオ(Yang Cao)教授は、リチウムなど従来の金属イオンではなく、ビタミンをベースとした有機化合物を使う、新たな電池素材の開発に関心をもっている。
このような有機電池は、現在流通しているものよりも、安価で環境負荷が低いものになるだろう。「日中にソーラーパネルで生み出した電力を蓄え、夜間の電力消費を支えるような分子を発見したいと考えています。こうした技術は、電力グリッドの安定化を促し、化石燃料への依存度を大幅に下げることに貢献するでしょう」と、プロジェクトリーダーのカオは言う。
新種の合金の探索と同じように、適切な分子の発見には膨大な労力が必要であり、AIの力を借りることで初めて可能になった。「自律運営ラボは、人間においては避けることができないバイアスやエラーを排除し、結果の信頼性を高めることに役立っています」と、カオは言う。「さらに、無休で稼働し瞬時に判断を下すため、研究者たちは反復的作業から解放され、新たな分子や素材の開発に集中できます。また、自律運営ラボのおかげで、先行研究の結果をすぐに追認し、未来の分子をつくるための予測の精度を高めることができるのです」
同じく物質ラボで、新たな有機半導体素材の研究を行っているのがハン・ハオ(Han Hao)博士だ。半導体とは、電気伝導性の尺度のなかで、金属と、ガラスなどの絶縁素材の間に位置する物質のことだ。有機半導体素材は次世代レーザーの開発に不可欠であり、携帯電話のスクリーン、ソーラーパネル、ウェアラブルデバイスなど、多様なテクノロジーへの応用が期待されている。
「自律運営ラボを利用することで、1カ月に200種以上のレーザー分子の候補を検証することができました」と、ハオは言う。これに対して、自律運営ラボの助力なしに研究してきた分野の先駆者が論文化できた候補分子は、5年の間に10種に満たなかったという。
「我々はまた、複雑な有機レーザー分子合成の成功率を、150%以上も高めることができました」と、ハオは述べる。
トップ研究者の獲得にも貢献
こうした先進的な研究成果に加えて、研究者に関しても好循環が生まれつつある。技術の進歩が画期的なものになれば、トロント大学アクセラレーション・コンソーシアムは、優れた研究者と潤沢な資金をより集められるようになる、とアスプル=グージック教授は語る。「何より素晴らしいことは、我々が急速に成長していることです。科学研究の話と思うかもしれませんが、要するに我々は、ここでムーブメントを生み出しているのです」
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この記事は、The GuardianのAlfredo Carpinetiが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。