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水素経済の鍵となるか? 光で水素燃料をつくる触媒、開発される

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米国テキサス州にあるライス大学の研究チームが、水素経済にとって重要な光活性ナノ材料を開発した。ライス大のナノフォトニクス研究所と、スタートアップのシズィジー・プラズモニクス(Syzygy Plasmonics)社、米プリンストン大学アンドリンガー・エネルギー環境センターの研究チームは、アンモニアから、燃焼によるCO2排出のない水素燃料を光のエネルギーだけで生成する拡張性の高い触媒を、安価な原料のみを使って作製することに成功した。

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ヒューストンのシズィジー・プラズモニクス(Syzygy Plasmonics)で行われた、アンモニアから水素を生成するための銅-鉄プラズモン光触媒のテストに使用された反応セル(左)と光触媒プラットフォーム(右)。触媒の反応エネルギーはすべて、波長470ナノメートルの光を発生するLEDから得ている

この研究は、炭素を含まず、地球温暖化の原因にならない液体アンモニア燃料のインフラと市場の構築を目的とする、政府と業界からの出資を受けている。液体アンモニアは輸送が容易でエネルギー密度が高い。アンモニア分子1個は、窒素原子1個と水素原子3個で構成される。今回の新しい触媒は、アンモニア分子を分解して、燃焼によるCO2排出のない燃料となる水素ガスと、地球大気に最も多く含まれる窒素ガスに変換する。従来型の触媒とは異なり熱を必要とせず、日光や低エネルギーのLED光からエネルギーを取り入れる。

化学反応の速度は通常、温度とともに上昇するため、化学メーカーは100年以上にわたり、工業規模で熱を加えることでこの性質を利用してきた。しかし、化石燃料の燃焼によって大型反応槽の温度を数百〜数千度に加熱することは、大量の炭素排出を引き起こす。さらに、化学メーカーは毎年数十億ドル(数千億円)を熱触媒に費やしている。熱触媒は、それ自体は反応せず、高熱下で反応をさらに促進する物質だ。

研究チームの一人である、ライス大のナオミ・ハラス(Naomi Halas)教授は、「鉄などの遷移金属は通常、熱触媒としての有効性は高くありません」と説明する。「今回の研究は、こうした遷移金属が効率的なプラズモン光触媒となる可能性を示しています。また、光触媒が安価なLED光子源で効率的に機能できることを実証しています」

研究チームの一人で、同じくライス大のピーター・ノードランダー(Peter Nordlander)教授はこう語る。「今回の発見によって、持続可能な、低コストの水素を得る道が開かれます。この水素は、大規模な集中型プラントではなく現地での生産が可能になるかもしれません」

最高性能の熱触媒は、プラチナやパラジウム、ロジウム、ルテニウムといった白金族の貴金属を原料とするものだ。ハラスとノードランダーは数年がかりで、光によって活性化されるプラズモン金属ナノ粒子を開発した。これも、最高性能のものは通常、銀や金などの貴金属でできている。

二人は2011年に、短寿命の高エネルギー電子「ホットキャリア」を発するプラズモニック粒子を発見した後、2016年には、この光捕集プラズモニックナノ粒子を「アンテナ」として従来の触媒粒子を「リアクター」として組み合わせた、ハイブリッドな「アンテナリアクター」を生成できることを発見した。このアンテナリアクターは、一部が光からエネルギーを取り入れ、他の部分が、そのエネルギーを使って極めて高い精度で化学反応を促進させる。

ハラスとノードランダー、そしてその指導学生と同僚のチームは以前から、アンテナリアクターのエネルギーを集める部分と化学反応を促進する部分の、両方を代替する非貴金属を探求する研究を続けてきており、今回の研究結果はその取り組みの成果となる。ハラスとノードランダー、そしてライス大を卒業した研究者ホセイン・ロバタジャジ(Hossein Robatjazi)、プリンストン大の技術者で物理化学者のエミリー・カーター(Emily Carter)教授などの研究チームは今回の研究で、銅と鉄でできたアンテナリアクター粒子が、非常に効率的にアンモニアを変換することを明らかにした。アンテナリアクター粒子のエネルギーを集める部分となる銅が、可視光からエネルギーを捕集する。

ハラス研究室の博士修了生であり、現在はヒューストンに本拠を置くシズィジー社の主任研究員を務めているロバタジャジは、こう説明する。「光がない場合、銅-鉄触媒が示す活性は、銅-ルテニウム触媒の約300分の1でした。ルテニウムが、この反応に対するより優れた熱触媒であることを考えると、この結果は驚くには当たりません。一方で光を照射した場合、銅-鉄は、銅-ルテニウムに近いか、同程度の効率と反応性を示しました」

シズィジー社は、ライス大のアンテナリアクター技術のライセンスを受けている。今回の研究では、市販されている同社のLED光源式リアクターで、触媒のスケールアップ試験を実施した。ライス大における実験室試験では、銅-鉄触媒にレーザーを照射していた。シズィジー社での試験では、触媒がLED照射下で、実験室装置の500倍の規模でも効率を維持することが明らかになった。

「LEDによる光触媒反応によって、アンモニアからグラム規模の量の水素ガスを生成できることを科学文献で報告したのは、今回が初めてです」と、ハラスは指摘する。「これにより、プラズモニック光触媒反応で、貴金属の完全な置換が可能になります」

プリンストン大のカーターは、「プラズモニック・アンテナリアクター光触媒は、化学部門の炭素排出量を大幅に削減する可能性を秘めており、さらに研究を重ねる価値があります」と補足説明した。「今回の研究結果は、大きなモチベーションをもたらします。自然界に豊富に存在する金属の別の組み合わせを、多種多様な化学反応に対して、コスト効率が高い触媒として利用できる可能性を示唆しています」

ハラスは、ライス大学のスタンリー・C・ムーア特別教授(電気・計算機工学)で、化学、生体工学、物理・天文学、材料科学・ナノ工学の教授を兼任している。ノードランダーは、ライス大学のウィス特別教授(物理・天文学)で、電気・計算機工学、材料科学・ナノ工学の教授を兼任する。カーターは、プリンストン大学アンドリンガー・エネルギー環境センターのジェラルド・R・アンドリンガー特別教授(エネルギー・環境)で、プリンストン・プラズマ物理研究所(PPPL)の持続可能性科学の上級戦略アドバイザーを務めており、機械・航空宇宙工学と応用計算数学の教授を兼任する。ロバタジャジは、ライス大学の非常勤教授(化学)も務めている。

ハラスとノードランダーは、シズィジー社の共同創設者であり、同社の株式を保有している。

今回の研究は、学術誌『Science』オンライン版に論文として掲載されている。

研究論文:Earth-abundant photocatalyst for H2 generation from NH3 with light-emitting diode illumination

この記事は、SpaceDaily.comが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。