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量子コンピュータが気候変動に対処する方法

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テクノロジーが人類を気候変動から救うわけではないが、役立つ見込みがあるのは間違いない。そして、量子コンピューティングによる演算能力の飛躍的な向上は、変わりゆく世界についての我々の理解を向上させると期待されている。さらには、CO2排出量の削減方法を発見し、実世界に変化をもたらすイノベーションを創出することにも貢献する可能性がある。

量子物理学を基礎とするこの技術はまだ揺籃期にあるが、最近になっていくつかの重要なマイルストーンを超えた。例えば2020年、グーグルが「量子スプレマシー(量子超越性)」の達成を宣言した。これは、従来のコンピューターが現実的な時間内に解決できない問題を、量子コンピューターで解けるようになったことを意味する。

こうした研究努力の見返りは大きいと語るのは、マッキンゼーでイノベーション実践を専門とするシニアエキスパートを務めるフィリップ・エルンスト(Philipp Ernst)と、マッキンゼー・デュッセルドルフのパートナーであるニコ・モール(Niko Mohr)だ。彼らは、量子コンピューティングを気候変動対策に実践利用する5つの方法を提案した。量子コンピューターが可能にするこうした5つのソリューションは、2035年までに7ギガトンものCO2排出量を削減し、地球の平均気温の上昇を破局的災害の回避に不可欠な「プラス摂氏1.5度未満」に抑えることに貢献するという。

現在の量子コンピューターはどれくらい使えるのか?

量子コンピューターはすでに存在するが、まだ小規模で、エラー訂正に必要な量子ビットの方が多い。しかし近年の進歩は著しい。「過去10年を振り返ると、最初は2、4、5、10量子ビットのシステムから始まりました」と、エルンストは言う。「今では100量子ビットの近傍にいて、1000を目標としています。今まさに進化しているのです」

「非常に大雑把なコンセンサス推定では、真のブレイクスルーが可能になるのは、エラー訂正と耐障害性が確立された量子コンピューティングが実現したときとされています」と、エルンストは説明する。「その実現にはおそらく100万量子ビット程度が必要とされており、現状とはまさに桁の違う話になります」

現時点では、システムにノイズがあるため、既存の量子コンピューターシステムは約50のゲートを走らせることしかできない。ここでいうゲートとは、従来のコンピューターでいう論理ゲートに相当するものと考えていい。既存のコンピューターにできないことを達成するには、10億量子ゲートは必要だ。

エルンストの予測によれば、これが達成されるのは今世紀後半であり、ハードウェアの進歩と、ハードウェア上で稼働するアルゴリズムの改善が鍵となる。ただし彼によれば、専門家のあいだには意見の相違があり、一部の企業は、実用性があり商用利用できる量子コンピューターをもっと早く完成させることができるとうたっている。

量子コンピューターは、気候変動といかに戦うか?

量子コンピューティングの最大の強みの一つは、モデリングとシミュレーションだ。グリーンエネルギーから産業界の炭素排出削減まで、さまざまなトピックに関して研究者たちのブレイクスルーを後押しする可能性がある。

マッキンゼーの試算によれば、以下の分野に量子コンピューティングを導入して排出削減を加速させることで、世界を2050年までにネットゼロ達成のペースに乗せることができる可能性があるという。その内訳は、大型トラックと送電網のための高密度蓄電池の開発(CO2排出1.4ギガトン分)、セメントの脱炭素化(1.5ギガトン)、牛用のメタン排出抑制ワクチンの開発(1.1ギガトン)などだ。

1. ソーラーパネルの再設計

ソーラーパネルを考えてみよう。量子コンピューターの助けがなくても、ソーラーパネルの成功は明白だ。過去10年でコストを82%削減し、最も安価なエネルギー源の一つとなった。しかし、既存パネルの発電効率は約20%であり、エネルギーの大部分が失われている。この部分を改善できれば、ソーラーパネルは国家の発電量のさらに大きな部分を占めることができるだろう。このことは、とりわけ日照量の少ない高緯度の国々で重要となる。

一つの解決策として、ペロブスカイト構造と呼ばれる結晶構造が注目されてきた。しかし、分子の配置と材料の組み合わせには無数の選択肢があり、その開発は試行錯誤のなかで進められている。「ペロブスカイト構造は、種類の異なる原子を収納し、異なる物理特性を実現する構造の一つにすぎません」と、エルンストは言う。「より収率の高い新たな化合物の合成の取り組みが行われていますが、耐久性や毒性の点で問題があります。こうした課題のすべてを解決するには途方もない時間がかかるのです」

そのため進捗は遅々としたもので、研究は漸進的にしか進んでいない。だが、量子コンピューターはこうした困難を軽減してくれるはずだ。「高効率を実現する特定の化合物が発見されれば、発電効率を現在の20~25%から理論的上限である40%まで引き上げることができるはずです」と、エルンストは説明する。素材は太陽電池として大規模に生産・加工できるものでなければならないが、実現した際には、発電の世界が劇的に変わるだろう。

2. グリーン水素とグリーンアンモニアの生産

マッキンゼーは他にも、量子コンピューターが現実世界に成果をもたらすことが期待できる分野を挙げている。例えばグリーン水素は、(燃料費が暴騰するまでは)天然ガスより60%高価だった。グリーン水素の生産方法(電気分解)を最適化することで、生産プロセスが大幅に効率化されれば、温室効果ガスを排出する天然ガスよりも安価になるかもしれない。マッキンゼーによれば、同じことがグリーンアンモニアにも当てはまり、船舶輸送業界における脱炭素化への貢献が期待されている。

3. 蓄電池容量の増大

今はまだ存在しない詳細なモデリングは、蓄電池に関しても同様の進歩を促し、化学的ブレイクスルーによってエネルギー密度を高めることにつながるかもしれない。大型トラックの動力源として導入されれば交通セクターの排出量を削減できるほか、再生可能エネルギーの送電網配備にも貢献するはずだ。

4. 排出削減セメントの開発

素材組成シミュレーションによる新たな減炭素セメントの開発は、この知られざる巨大な排出源における問題解決につながる。また、試行錯誤ではない正確なモデリングによって、ついに炭素捕捉技術を確立できるかもしれない。

5. メタン排出の削減

牛は、主要な排出源の一つだ。研究によれば、牛からのメタン排出はワクチンによって削減できる可能性があるが、現在ワクチン開発は試行錯誤が続いている。量子コンピューターはこうした作業負担を軽減し、風変わりだが重要なこの任務にぴったりの分子を研究者が見つけ出す助けになるだろう。

量子コンピューターエコシステムの整備

こうした取り組みすべてをできるだけ速く進めるためには、量子ハードウェアだけでなく、ハードウェアを構成するすべてのコンポーネントや、システムを操作するソフトウェア、研究者がアプリ操作やモデリングを行うためのプラットフォームも必要だ。「結局のところ、課題はコンポーネントから始まって、テックスタック、そして最上層のサービスまで、完成されたエコシステムを整備することです」と、モールは述べる。

こうしたエコシステムが完成するまでは、従来型コンピューターと量子演算能力を組み合わせて、従来型コンピューターが扱える程度に問題を分割して処理するハイブリッドシステムを利用することになるだろう。こうしたサービスの多くは、量子クラウドを介してアクセスされるようになるかもしれない。だが、システムが稼働し始めたとして、社会が直面する最も深刻な課題の解決に適切に使われるようにするにはどうすればいいのだろうか?場合によっては市場に任せることが最適だと、エルンストは言う。例えば、ソーラーパネルの発電効率を大幅に向上させた人物は誰であれ、多数の顧客を獲得するだろう。しかし、その発展には支援が必要なアイデアも存在する。「経済的な面で最も魅力的とは言えないものの、気候変動対策に巨大なインパクトをもたらすことが期待されるようないくつかのユースケースを実現するためには、結局のところ、政府の支援や篤志家の支援、それに先見性ある人物の組み合わせが不可欠だと考えています」と、エルンストは言う。

量子コンピューターのインパクトは前途有望に思える。とはいえ社会は、テクノロジーが人類を救うのをただ待つわけにはいかない。「当然ながら、他の対策も続ける必要があります」とエルンストは述べる。「我々のモデルによれば、量子コンピューティングの効果は極めて重要ですが、あくまでも、他の対策があってのものです。問題の深刻さを考えれば、できることはすべてやる必要があります」

この記事は、IT ProのNicole Kobieが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。