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AIを使ってグリーン材料の開発を加速する、英スタートアップの試み

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(Bloomberg)──2022年秋にChatGPTの利用が急速に拡大して以来、各社は人工知能(AI)がさまざまな方法で人々の生活をより便利にする可能性がある、と大々的に宣伝している。例えば、超人的なバーチャルアシスタントや教師、弁護士、医師などが登場するといった内容である。

では、超人的な化学技術者はどうだろうか。

英ロンドンに本拠を置くスタートアップのオービタル・マテリアルズ(Orbital Materials)は、まさにそれを開発したいと考えている。同社はChatGPTのようなツールの背後にある技術であるジェネレーティブAIを、クリーンエネルギー技術の開発を加速させるために使う取り組みを進めている。その目的は基本的に、持続可能なジェット燃料やレアアース(希土類)鉱物を含まないバッテリーといった製品の最適な製法を特定できる、高性能なコンピューターモデルの開発だ。

オービタル・マテリアルズの共同創設者ジョナサン・ゴドウィン(Jonathan Godwin)が思い描くのは、今日のソフトウェア技術者が航空機の翼や家具などの設計をモデル化するために使っているのと同等に効果的で利用しやすいシステムをつくることだ。

「分子科学においてそうしたシステムを作成することは、これまではとにかく難しすぎたのです」とゴドウィンは言う。

ChatGPTが有効に機能するのは、テキストの予測が得意だからだ。次に来る単語や文について、筋が通るものを提案できる。同様のことをAIシステムが化学で行なえるようにするには、新しい分子について、実験室の中だけでなく現実世界でどのような振る舞いをするかを予測する必要がある。

いくつかの研究グループや企業が、新しいグリーン材料(環境負荷軽減に貢献する材料)を探求する目的でAIを導入してきた。1990年代に設立された材料開発企業シミックス・テクノロジーズ(Symyx Technologies)は、2010年に他社に売却されて事業を縮小した。より最近の企業では、石油化学代替物やプログラミング・セル(programming cells)を作製することで、勢いを増している。

それでも、地球の脱炭素化に必要な多くの材料に関して言えば、この技術はまだ目標の域には達していない。

新しい先端材料が、発見から市場へと移行するのには、数十年を要する可能性がある。排出量の急激な削減を目指し、排出量実質ゼロ目標を達成しようとする各企業や国にとって、これではあまりに時間がかかりすぎる。

オランダを拠点とする材料科学スタートアップのVSパーティクル(VSParticle)の共同創立者アイケ・ヴァン=ヴュット(Aaike van Vugt)は、「こうした技術は、今後10年以内かもっと早いうちに実現する必要があります」と話す。

AI研究者は、自分たちが支援できると考えている。ゴドウィンは、オービタル・マテリアルズを立ち上げる前には、グーグルの親会社アルファベット(Alphabet)のAI研究部門であるディープマインド(DeepMind)で、先端材料を発見する研究を3年間行なっていた。ディープマインドは、タンパク質の構造を予測するAIモデル「AlphaFold」を発表しており、AlphaFoldは新しい薬剤やワクチンの探求を加速させる可能性がある。それに加えて、ChatGPTなどのツールが一気に好調な滑り出しを見せていることで、間もなくAIが材料科学の世界を制するようになるに違いないと、ゴドウィンは確信した。

「10年はかかるだろうと思っていたことが、18カ月のうちに起きました。状況はますます良くなっています」と、ゴドウィンは話す。

ゴドウィンは、自身が開発したオービタル・マテリアルズの技法を、「DALL-E」や「Stable Diffusion」のような画像生成AIになぞらえている。これらのモデルは、膨大な数のオンライン画像を使って作成されており、ユーザーがテキストプロンプトを入力すると、写真のようにリアルな画像が生成される。同様にオービタル・マテリアルズは、材料の分子構造に関する大量のデータを使ってモデルを訓練することを計画している。希望する特性や素材、例えば「非常な高熱に耐えられる合金」などを入力すると、モデルから分子式の案が吐き出されるわけだ。

こうしたアプローチが有効なのは、理論的には、新しい分子の推測とその分子がどう機能するかの評価が可能だからだと説明するのは、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のラファエル・ゴメス=ボムバレリ(Rafael Gomez-Bombarelli)准教授だ。同氏は、オービタル・マテリアルズにアドバイスを提供している(氏によれば投資は行なっていない)。

現在のところ、多くのハイテク投資家が探し回っているのは、より環境に優しい材料の製造方法を改善しつつ利益を生み出せる企業だ。このことは特に欧州で当てはまる。欧州では、規制当局が製造業者に対し、二酸化炭素(CO2)排出量を削減しなければ多額の罰金を科す強硬措置を講じている。再生可能エネルギー、輸送、農業などの産業部門における先端材料の市場は、今後数年間で数百億ドル(数兆円)規模の成長が見込まれている。

カナダ・トロント大学研究チームなど一部の研究者は、AIシステムとロボットを組み合わせて、比類のないペースで新材料を探求する「自動運転ラボ(self-driving labs)」を立ち上げている。前述したVSパーティクルが製造する機械装置は、気体センサーやグリーン水素の構成要素を開発するために使われている。

VSパーティクルの共同創立者ヴァン=ヴュットはこの機械について、ゲノムの研究室にあるDNAシーケンサー(配列解読装置)のようなものだと思ってもらえればいいと説明する。同氏は、自身が開発した装置が、通常であれば20年に及ぶ先端材料の分析期間を1年に、最終的には「数カ月」にまで短縮するのに役立つと考えている。VSパーティクルは現在、投資資金を集めている。

一方でオービタル・マテリアルズは、AIをCO2回収で活用する計画を立てており、非公開の創業資金として、これまでに480万ドル(約7億円)を調達している。同社は現在、CO2やその他の有害化学物質を、既存の方法よりも効率的に排気ガスからふるい分けできる「分子ふるい(装置内部に搭載される微小なペレット)」を設計するアルゴリズムモデルに取り組んでいる。ゴドウィンによると、複数のAI研究者を擁する同社は、この技術に関する査読済みの研究成果を間もなく発表する予定だという。CO2回収については、特に米国では政府による多くの奨励策のおかげで、技術導入への関心が急速に高まっているものの、大規模に稼働させることは、いまだに達成されていない。

ゆくゆくは、燃料やバッテリーなどの分野にも進出したい、とゴドウィンは述べる。同氏は、合成生物学企業や創薬企業のビジネスモデルの再現を思い描いている。「知能」を開発してから、ソフトウェアや新材料を製造会社にライセンス供与するのだ。「市場に到達するのには、少しばかり時間を要します」と、ゴドウィンは話す。「ですが、ひとたび到達すれば、非常に速やかに事が運びます」

しかし、AIを正しく理解することは、戦いの半分にすぎない。バッテリーや燃料の生産のような分野で実際に先端材料を製造するには、既存の巨大企業や、面倒なサプライチェーンと連携する必要がある。これは、新薬の開発よりもはるかにコストがかかる可能性がある、とMITのゴメス=ボムバレリ准教授は指摘する。

「経済状況とリスク回避が、それをさらに困難にしています」と、同氏は言う。

オービタル・マテリアルズを支援したベンチャーキャピタル、フライング・フィッシュ・パートナーズ(Flying Fish Partners)のマネージングパートナーを務めるヘザー・レッドマン(Heather Redman)は、ジェネレーティブAIの魅力的な新規事業を追い求めているハイテク投資家の大半が、チャットボット以外の応用分野に目を向けることができていないと指摘した。レッドマンは、エネルギー産業部門の事業に参入するスタートアップにはリスクがあることを認めたが、バッテリーやCO2回収のような市場が持つ1兆ドル(約145兆円)規模の潜在力は、その投資リスクに見合うと考えている。

「我々投資家は、たとえ大きな山であっても、その頂上に巨大な市場とチャンスがある限り、それを好みます」と、レッドマンは述べる。

MITのゴメス=ボムバレリ准教授は、この山がどのくらい大きい可能性があるかを承知している。同氏は2015年、キャルキュラリオ(Calculario)という名の、オービタル・マテリアルズに似た会社の設立を支援した。同社はさまざまな新材料の発見プロセスを加速させる目的でAIと量子化学を利用したが、十分なけん引力を得られずに、OLED(有機発光ダイオード)産業に集中せざるを得なくなった。

「自分たちの主張をうまく伝えられなかったのかもしれません」と、ゴメス=ボムバレリは話す。「あるいは、市場側の準備ができていなかったのでしょう」

現在その準備ができているかどうかは、まだ分からない。だが、明るい兆候はある──コンピューター技術が確実に向上していることだ。見込み客が、AIの潜在能力を以前より容易に理解できると思われるため、新規参入企業も以前ほど苦労せずにAIを販売できるかもしれない。ゴメス=ボムバレリ准教授によれば、宣伝文句は比較的シンプルだ。「ChatGPTをご存知ですよね。わが社は、化学に関してChatGPTと同じことができます」

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©2023 Bloomberg L.P.

この記事は、BloombergのMark Bergenが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。