まずは、可鍛性(malleability)と柔らかさ(softness)を区別することが重要だ。可鍛性とは、物質を壊すことなく、衝撃や圧力を加えて変形できる度合いを示す指標だ。他の金属材料は一定以上の衝撃が加わると破壊されるが、1オンス(約28g)の金は、叩き伸ばすとおよそ16.4フィート(約5m)四方の薄板を作ることができる。また、金箔として知られる金の膜は、髪の毛の約400分の1に相当する0.000127mmという薄さにまで加工できると、バージニア州ニューポート・ニューズにあるジェファーソン研究所は説明している。
一方、硬さや柔らかさは、物質の強度をテストする方法に応じて、複数の定義が存在する。ギネス・ワールド・レコーズ(Guinness World Records)によれば、物質の傷つきにくさを示すモース硬度を基準とした場合、最も柔らかい金属はセシウムで、バターナイフで切断できるほど柔らかいという。また、文字通りの意味で最も柔らかい金属といえば、水銀だろう。「(水銀は)室温では液体となり、金より容易に変形します。私の推定では、金よりも柔らかいはずです」と、化学コンサルタントで米国化学会のフェローでもあるマーク・ジョーンズは、Live Scienceの取材に対して述べている。
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何が金に可鍛性をもたらしているのか?
リサイクルされた金地金(インゴット)の拡大写真(Image Credit:Patrick Aventurier/Getty Images)
金の可鍛性はおそらく、原子の構造と結合の仕方によってもたらされている。そう指摘するのは、電気光学技術者でイスラエルのバルイラン大学ナノテクノロジー先端材料研究所の所長を務めるドロール・フィクスラーだ。
フィクスラーによると、金の結晶構造は、いわゆる面心立方格子構造と呼ばれるものだ。「この構造では、各原子が12個の近接する原子に囲まれています。面心立方格子の原子配列のおかげで、全体の構造を壊すことなく容易に変形できるのです」と、フィクスラーは述べている。
加えて、金は金属である。つまり、原子が金属結合によって結合されており、各原子の最も外側にある電子が、物質の構造内を自由に動き回っている。「このように非局在化した、電子ガスとも呼ばれる自由電子の状態によって、(金属結合以外の化学結合をしている物質ならヒビや割れを生じるような強い力がかかっても)原子の相互の位置がずれて変形しつつ一体性を保つことができます。このことが、金に可鍛性をもたらしています」と、フィクスラーは言う。
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だがジョーンズは、こうした要因だけで金の可鍛性を十分に説明できるのかについて、疑問を呈している。「銅と銀は同じ電子配置を持っています」と同氏は述べた上で、次のように語った。「(銅と銀は)同じように結合していますが、金ほど柔らかくありません。つまり、何か別の要因が作用しているのです」
金属は1つの大きな結晶ではなく、結晶粒(crystal grains)と呼ばれる複数の小さな結晶でできていることが多いと、ジョーンズは指摘する。リーズ大学による1977年の研究は、金が形成する結晶粒のサイズが金の可鍛性を説明するのに役立つ可能性を示唆している。
よく知られているように、金は他の元素と化学的に結合しにくい。そのため金の結晶粒は、銅や銀の結晶粒のように、表面に酸化物の層ができて輝きが失われることがないと、ジョーンズは述べる。銅や銀の結晶粒は、このような酸化物が原因となって亀裂が入りやすい。しかし、金は酸化物ができないため、他の金属より高い可鍛性を維持しているのかもしれない。
この記事は、Live ScienceのCharles Q. Choiが執筆し、Industry Diveの DiveMarketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。