だが、金属アレルギーとは、いったいどんな現象なのだろうか?
金属アレルギーの症状は、軽微なものから、生命の危険があるものまでさまざまだ。まれなケースだが、金属を含む医療インプラント器具の動作不良を引き起こし、重篤な症状をもたらし得る場合もある。バージニア・コモンウェルス大学のリッチモンド小児病院に籍を置くサントシュ・クマー医師は、Live Scienceの取材に応じ、Eメールでそう述べた。
ただし、2012年に医学誌『Dermatology Research and Practice(皮膚科学の研究と実践)』に掲載された総説論文によれば、金属アレルギーの最も一般的な症状は接触皮膚炎(かぶれ)だ。つまり、アレルギーを引き起こす物質との直接接触によって引き起こされる、かゆみと腫れを伴う発疹のことだ。科学的エビデンスによれば、こうした反応は、接触皮膚炎の原因となる一般的な金属(ニッケル、コバルト、クロムなど)が自由電子をもつことと関係があるようだ。
原子に含まれる電子は、原子核のまわりを周回している。原子が安定であるためには通常、原子核から最も遠い軌道(最外殻)上に8つの電子が必要だ。しかし、例えばニッケルの場合、最外殻に電子が2つしかない。これらの電子が脱落すると、ニッケルは安定し、正電荷を帯びる。このため、ネックレスやズボンのボタンに含まれるニッケルから、正電荷を帯びたニッケル原子(イオン)が放出され、これが、身につけている人の皮膚に影響を与える場合がある。
具体的に言うと、ニッケルイオンは、皮膚にある特定のタンパク質に付着する。そして、こうした金属とタンパク質の複合体は人体によって「異物」と認識されるため、免疫反応を引き起こす。医学情報サイト『StatPearls』はそう説明している。
こうしたメカニズムがあるため、金属との長期的・反復的接触があると、免疫細胞は過敏になる。だが、なぜ一部の人だけが金属に過敏になるのかについては、完全には解明されていない。米国小児科学会(AAP)は、免疫関連の遺伝的要因や、皮膚表面のバリアが関係している可能性を指摘している。アレルゲンとなり得る金属をどの程度の頻度で扱うかといった環境的要因によってもリスクは上昇し得る、とメイヨー・クリニックは述べている。
接触皮膚炎の症状は、局所的な炎症から、全身性発疹までさまざまだ。発疹の重症度は主に、問題の金属によって皮膚のバリアがどれだけ破られたか、あるいは傷ついたかに依存する。外見に関しては、金属性接触皮膚炎は「その他の発疹とほとんど見分けがつかない」と、クマー医師は述べる。湿疹やツタウルシのかぶれとよく似ている場合もあるという。
ニューヨークの皮膚科医で、米国皮膚科学会フェローであるラマン・マダン医師は、金属アレルギーによる発疹の見た目について、「赤く、鱗状で、表面が硬く、暗色」と説明する。患部はしばしばかゆみや腫れを伴い、触ると痛みが走る。接触皮膚炎の症状は、原因物質への暴露直後から出始め、治療せずにいると、発疹は12時間から1カ月にわたって持続すると、マダン医師はLiveScienceの取材に対しEメールで回答した。
上図は、皮膚色が薄い場合の接触皮膚炎の外見の一例だが、発疹の外見は、皮膚がどれだけダメージを負っているかによって異なることに注意してほしい。画像提供:Blausen Medical
(米国小児科学会は、症状は金属への暴露のわずか30分後から生じ得るとしたが、メイヨー・クリニックによれば、時には数時間から数日後に症状が現れることもある)
金属アレルギーのある人は、全身性接触皮膚炎の症状を示すこともある。これは、食品や医薬品として摂取された金属粒子が、血液を介して皮膚に到達した場合に起こるものだ。先述した2012年の総説論文によると、全身性接触皮膚炎は、広範囲に及ぶ、ピンク色から赤色の発疹、丘疹(小さく硬く盛り上がった「皮膚のぶつぶつ」)、さらには、皮膚が炎症を起こして剥がれ落ちる剥脱性皮膚炎(紅皮症)を伴うことがある。
加えて、2015年に医学誌『The Journal of Allergy and Clinical Immunology(アレルギー・臨床免疫学ジャーナル)』に掲載された総説論文では、金属アレルギーのある人は、ある種の医療インプラントにも反応することがあると指摘されている。
さまざまな心臓ペースメーカーや子宮内器具、義歯、人工関節などの医療インプラントに、金属部品が使用されている。こうしたインプラントへの反応は、埋め込んだ箇所の局所的な痛み、腫れ、かゆみに加え、手のひらや足裏の慢性的炎症につながる場合もある。患部に有害な変化が生じ、器具が不具合を起こすことさえある。
こうした反応は、ときに金属アレルギーの既往症がない患者にも起こり得ると、総説論文の著者らは指摘している。ただし、過去に金属アレルギーと診断されたことがある人に対しては、インプラントを調整して、反応リスクを最小限に抑えることが可能だ。
幸い、金属を含む医療インプラントに対するアレルギー反応は比較的まれであると、クマー医師は強調した。
※本記事の目的は情報提供であり、医学的助言を意図したものではありません。