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レアアースを精製する遺伝子操作された「塩分を好む細菌」

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レアアースを精製する遺伝子操作された「塩分を好む細菌」
科学者たちは、コンピューターや、電気自動車(EV)のバッテリー、ハードディスクなどの製造において、重要な希土類元素(レアアース)を素早く、かつ環境に有害でないかたちで精製することを目標に、小さな細菌の遺伝子を組み換えている。

現在、レアアースを金属から分離するためには、環境に有害な手法が使われている。しかし、2023年12月6日付で学術誌「Synthetic Biology」に発表された新しい手法は、こうした有害な方法に取って代わる可能性がある、と論文を執筆した研究者たちは述べている。

希土類元素は、ジスプロシウム、テルビウム、ネオジムを含むランタノイド15元素と、スカンジウム、イットリウムから成っている(ランタノイドは周期表の第3族、第6周期に属する15元素の総称)。通常は、鉱山の鉱石から発見されるが、そのユニークな磁気、発光、電気の特性が現代技術に有用なため、需要が高まっている。

現在、これらの元素を精製するには、ある溶媒から別の溶媒に化合物を移す溶媒抽出法が使われている。しかし論文によれば、この手法には、高温と、環境汚染を引き起こす化学物質が必要になる。論文の筆頭著者である米コーネル大学生物環境工学科のアシスタントプロフェッサー、バズ・バーストウ(Buz Barstow)は声明の中で、「ランタノイドを分離する従来の熱化学的手法は、環境に最悪です」と述べている。「これらの元素は精製が難しいのです。中国をはじめとする外国にレアアースを送り、処理を依頼しているのはそのためです」

しかし今回の研究では、ビブリオ・ナトリエゲンス(V・ナトリエゲンス)という細菌に遺伝子組み換えを施し、生物吸着(biosorption)という手法でこれらの貴重な元素を抽出することで、溶媒抽出を回避した。生物吸着は、細菌などの生物学的物質を用い、吸着によって、つまり対象となる元素を細胞表面に結合させることで、混合物から特定の元素を取り出す手法だ。

研究チームは、1958年に発見された、塩分を好む海洋細菌V・ナトリエゲンスを使用した。人に対して有害でない上に、既知の生物で最も成長が速いためだ。学術誌「Essays in Biochemistry」に発表された2021年の論文によれば、成長だけでなくエネルギー消費も速いため、大腸菌の代わりとして有望だという。

今回の研究では、プラスミドと呼ばれる小さな環状のDNAが、V・ナトリエゲンスに導入された。このプラスミドは、ゲノムのなかにエラーを起こさせるものだ。

次に研究チームは、96種類の遺伝子組み換え細菌を、広く利用されているレアアースであるジスプロシウムを対象にテストした。すると、変異体のひとつが、遺伝子を組み換えていないV・ナトリエゲンスと比べて、ジスプロシウムの抽出量を210%増加させた。

これらの結果に対し、バーストウは「熱化学的手法を回避するチャンスを与えてくれるため重要だ」と述べている。特に、外国に処理を任せてきた結果、専門知識を失ってしまった米国にとっては重要になる。この手法を、他の生物学的手法より安価なものにするため、違う種類の細菌に遺伝子組み換えを施すことも可能かもしれない、と同氏は補足する。

研究チームは、生物吸着への移行を「重大な意味を持つ」と評しているが、レアアースを金属や他のレアアースから精製する実行可能なシステムを構築するには、さらなる研究が必要であるとも述べている。多くの金属が混在する試料にも対応できるように細菌を最適化すること、また、必要に応じて、特定のレアアースを他のレアースよりも吸着できるようにする必要がある。

それでも、バーストウらは今回の研究について、レアアースを精製する手法として、遺伝子組み換え細菌がいずれ溶媒抽出法に取って代わることを証明するものだと確信している。

この記事は、Live ScienceのKeumars Afifi-Sabetが執筆し、Industry Diveの DiveMarketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。