テネシー州にあるオークリッジ国立研究所(ORNL)が2024年3月12日に発表した声明によると、回転磁界を伴った「多相電磁結合コイル(polyphase electromagnetic coupling coil)」を使って、推定航続距離が約261マイル(約420km)であるヒョンデのEV「コナ」を、100kW、96%の効率で充電したという。
参考までに、米国運輸省によると現在、高速なEV充電コネクタの供給電力は50kW~350kWのあいだで、家庭用コンセントに接続するタイプの電力出力は1kWだという。
今回使われたプロトタイプの充電器は、直径が14インチ(約36cm)。5インチ(約13cm)の空間を挟んでEVに電力を伝送した。
市販されている優れたワイヤレス充電器のなかには、最大11kWの電力を供給できるものもあるが、今回の装置は100kWで電力を伝送できる(画像提供:Oak Ridge National Laboratory[ORNL])
今回のような研究の最終目標は、ワイヤレス充電器を、例えば道路の駐車スペースなどに組み込むことだ。そうすればドライバーたちは、扱いにくいケーブルを使って専用の充電インフラに車をつなぐ必要がなくなる。
今回の実験に参加したORNLの研究者オメール・オナー(Omer Onar)は声明のなかで、「我々はこのクラスの車両用ワイヤレス充電システムについて、世界最高の電力密度を達成しました」と話している。「我々の技術は、従来のコイル技術と比べて8~10倍高い電力密度を実現し、20分未満でバッテリーの充電状態を50%増やすことができます」
ワイヤレス充電の起源は、19世紀にニコラ・テスラ(Nikola Tesla)が磁界共振結合(magnetic resonant coupling)を実証したことだ。これは、磁界を作ることによって、送信回路と受信回路のあいだに空間があっても電気を伝送できるというものだ。この技術は、携帯電話やスマートウォッチで小規模には存在するものの、EVでのワイヤレス充電は比較的新しい。
こうした技術で市販されている製品は非常に少ない。現時点で入手できる最も優れた製品のひとつは、例えばプラグレス・パワー(Plugless Power)が製造しているものだ。同社は、駐車スペースに組み込むことができ、3.3kW~7.2kWの給電が可能なワイヤレス充電ステーションを提供している。
もうひとつのワイヤレス充電器は、ワイ・トリシティ(WiTricity)が製造しているもので、11kWで給電できる。従来のワイヤレス充電では、銅コイルの形をした大きな磁気ループアンテナを利用して、振動磁界を作り出す。これによって、受信アンテナで電流が生まれ、それぞれのコイルが同じ周波数で共振することで、電力が伝送可能になる。
今回の多相コイルシステムでは、複数の交流(AC)相を利用する。この際に、2種類以上の導電材料が使われる。それぞれの導電材料は、固定された明確な相で、異なる周波数間において、それぞれの電圧を変動させる。
つまり、この多相電磁コイル(polyphase electromagnetic coils)は、複数の相で電荷を伝送する。その結果、磁界はより均一になるため、より一定で高い電力伝送が、任意のサイズで可能になる、とORNLの科学者たちは2022年の論文で述べている。また、多相結合は効率も高いので、距離が長くなったときの電力損失が少なくなる。さらに、コイルのサイズも小さくなり、従来のコイル技術と同等の充電速度を達成できる。
今回の成果が特に注目に値するのは、このプロトタイプのワイヤレス充電装置が十分に小型であるため、実用化の可能性が高いからだとオナーは声明で述べている。
この記事は、Live ScienceのKeumars Afifi-Sabetが執筆し、Industry DiveのDiveMarketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。
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