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オーストラリアのスタートアップ企業、樹木を模倣することで、より安価なグリーン水素を製造

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オーストラリアのスタートアップ企業、樹木を模倣することで、より安価なグリーン水素を製造

「製造工程でCO2を排出しない水素」を気候問題の解決策として普及させるには、その価格を大幅に安くする必要がある。オーストラリアのスタートアップ企業は、そのための手段があると主張している。

シドニーの南に位置するウロンゴンに本拠を置くハイサタ(Hysata)は2024年5月、電気で水素を作り出す同社技術の規模を拡大するため、投資家から1億1100万米ドル(約175億円)を調達したと発表した。ハイサタの強みは、同社の電解槽(水から水素を分離する機器)のエネルギー効率にある。

現在の「グリーン水素」(再生可能エネルギーを利用して水から作られる水素)は、汚染の原因となる化石燃料から作られる水素と比べてかなり高価であり、採用の妨げとなっている。しかしながら、その差を埋めようとする努力に対する投資は増えており、世界の複数の政府が、生産を奨励するために手厚い補助金を出している。ブルームバーグNEF(BloombergNEF)によると、2023年、電解槽に費やされた金額はこれまでの3倍を超え、87億ドル(約1兆3685億円)になったという。

アンモニアの製造や石油の精製における主要原料である水素は、現在はほとんどが化石燃料で作られている。国際エネルギー機関(IEA)によると、その結果として生じる二酸化炭素排出量は、2022年に9億トンに及んだとされている。燃焼の際に水しか出さない水素の生産に再生可能エネルギーを使用することで、水素をさらに「気候に優しい」ものにすることができる。こうした、いわゆるグリーン水素は、鉄鋼生産や運輸、電力貯蔵など、排出量が多く、排出を少なくするための代替手段がほとんどない工程において、天然ガスや石炭を置き換える可能性がある。

ハイサタの技術を理解するには、電解槽の内部に目を向けることが助けになる。電解槽は、水に電気を通すことで、水を、その構成要素である水素と酸素に分解する。少量の水素を作り出す電解槽であれば、家庭でも非常に簡単に作ることができる。必要になるのは、2種類の固体金属、少しばかりの電線、塩水、そして電源だけだ。

優れた電解槽を作るうえで難しいのが、できるだけ多くの電気を、水素を作ることに充てることだ。なぜなら、水素の価格は、主にそれを作るために使われた電気のコストによって決まるからだ。つまり、効率が高いほどコストは安くなる。

現在の最新式の商用電解槽では、電気の約75%が水素を作ることに充てられる。エネルギー損失が起きる大きな理由のひとつは泡だ。泡は、水の分解において重要な、金属と水との接触が失われる原因となる。

電解槽が、液体の水を水素に変換する以上、泡は避けられないと考える人もいるかもしれない。しかしハイサタは、それを防ぐための突破口を見つけたと述べている。同社の技術は、ハイサタの共同創業者であり、ウロンゴン大学の主任教授を務めるゲリー・スウィーガーズ(Gerry Swiegers)と、同氏がオーストラリアで率いる研究チームの10年にわたる努力の賜物だ。

スウィーガーズの研究者チームは、泡を作らないようにするために、ゴアテックスをはじめとするさまざまな材料を試した後、水の一風変わった特性を利用することに行きついた。その特性とは毛細管現象で、細い空間にある水は、重力に反して上昇するという現象だ。これは、樹木が地面から水を吸い上げて、最上部にある葉まで届けるときに使われる力のひとつだ。

結果として生まれた電解槽には、中央に薄い層になったスポンジがあり、それが毛細管現象によって水を上に吸い上げる。スポンジの両側には、ニッケルを含む多孔質の金属板があり、それが水の薄い層と接触する。この電解槽に電気を通すと、水が水素と酸素に分解される。これらはまず液体に溶け込んでから、多孔質電極を通して、泡を作ることなく外に運ばれる。結果的に得られる効率は95%になると、スウィーガーズは話している。

「現実だとは信じられませんでした」とスウィーガーズは言う。「我々の実験に誤りがあったのかもしれないと思いました。そこで、最も優秀なメンバーに実験を繰り返し再現してもらいました。そして、これらの良い結果が引き続き得られたのです」

ハイサタの推定によると、この発見は「2桁」のコスト節約をもたらすという。その一部は、水素を作るために必要とされるエネルギーが少ないことによるものだが、他の種類の電解槽で冷却や高圧ポンプの管理に使われている装置が不要になることにもよる。

スウィーガーズは2021年、最高経営責任者(CEO)のポール・バレット(Paul Barrett)と、最高製品責任者(CPO)のトム・キャンペイ(Tom Campey)とともにハイサタを設立した。同社は、今回調達した資金を使って、この技術を商用化するために従業員を増やし、製造能力を拡大することを目指している。

ハイサタの投資家のなかには、英国の石油大手BPや、風力タービンメーカーのべスタス(Vestas Wind Systems A/S)、韓国の鉄鋼メーカーであるポスコ(POSCO)、ドイツ銀行の元バンカーであるクリフ・チャン(Cliff Zhang)が共同設立者を務める投資グループのテンプルウォーター(Templewater)など、複数のベンチャー部門が含まれている。

95%の効率で水素を作る方法を見つけたと主張している企業はハイサタだけではない。イスラエルに本拠を置くH2プロ(H2Pro)は、グリーン水素を製造する同社の2段階工程でも、この数字を達成できると述べている。熱と電気を使ってグリーン水素を作ることで、水素製造の全体的な価格を下げられると主張している企業も複数ある。

ハイサタのバレットCEOは、同社による商用規模の設備が、早ければ2025年にも配備されることを期待していると述べている。設立から3年のスタートアップ企業としては、急速なターンアラウンド(収益を上げられるようになる転換)だ。ブルームバーグNEFの水素部門長を務めるマーティン・テングラー(Martin Tengler)は、「私が知るかぎり、効率で突破口を開いたと主張するスタートアップ企業のうち、製造規模を拡大したところは、まだひとつもありません」と述べている。

一方で、電解槽の潜在市場は急速に拡大しつつある。ブルームバーグNEFによると、世界のグリーン水素の生産は、今年の約40万トンから増加し、2030年までに960万トンになると見込まれているという。これはかなりの増加になるが、それでも、世界各国の政府がそれぞれ示している気候対策への意欲を満たすために必要な量には、まだ遠く及ばない。

この記事は、BloombergのWill Mathis and Akshat Rathiが執筆し、Industry DiveのDiveMarketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。