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世界は「石油依存」から「重要鉱物依存」に取って代わるか?
- 前世紀での石油が「進歩への鍵」であったように、重要鉱物(クリティカル・ミネラル)は、今世紀のエネルギー転換にとって不可欠だ。
- 重要鉱物への依存の高まりは、継続的な供給に対する不安につながっている。また、重要鉱物がもたらす地政学的影響力についての懸念も存在する。
- 世界経済フォーラムの新しい白書によると、こうした懸念は誇張されている可能性があるという。
炭素排出量を大幅に削減する「エネルギー転換」に向けた前進の兆しが、今、見えつつある。もちろん、世界中のあらゆるところで朗報が生まれているわけではなく、同じ速度で前進しているわけでもない。技術革新がグローバルで足並みをそろえて起こることはないからだ。だが、変化の兆しがあることは間違いない。
エネルギー転換はいま、さまざまな重要鉱物の需要を押し上げている。例えば、銅は電線で、リチウムは電池で、希土類鉱物は自動車で使用されている。将来的に、エネルギー転換が加速し、さらに広範囲に広がれば、これらの重要鉱物の需要は急上昇すると予測されている。供給側は、そのペースに対応できるだろうか。また、供給における支配力を利用して、地政学的な影響力をふるおうとする国が出てくるだろうか。
世界経済フォーラムが招集したエネルギー転換の専門家グループは2024年4月29日、上記の問いに答えるための枠組みを示す新たな白書を発表した。この白書は、重要鉱物への依存の高まりが懸念すべきものなのかどうか、そして政府や業界はそれに対してどのような対応をとる可能性があるかに焦点を当てている。
多くの人の目には、重要鉱物への依存の高まりは大いに懸念すべきものであり、エネルギー転換を脅かす可能性のあるものと映っている。エネルギー転換は、化石燃料、特に石油への経済的・政治的依存を揺るがし始めたばかりだが、心配性の人々は「ファウスト的取引」が形をとりつつあると見ている。つまり、重要鉱物への新たな依存が、地政学的な支配力の新たな源になり得るというのだ。
これらの輸入に依存している国や企業は、供給側がその力を不正な目的で利用するのではないか、と不安に思うかもしれない。中国という国はすでに、ほとんどの重要鉱物の原材料や加工品の供給に対して並外れた支配力をもっている。重要鉱物への依存に懸念を示す人は、中国の支配力が強まり、サプライチェーンの信頼性が低下した場合に、政治的にも経済的にも影響が出る可能性があると警告している。それに加えて、重要鉱物の採取と加工から収益を得る国々の政府は、その収益を政治的悪事に利用する可能性がある。そうした「資源の災い」は、石油において脅威であり続けてきた。重要鉱物でも同様なことが起こる可能性がある、と彼らは懸念している。
エネルギー転換の未来は不透明だ。炭素排出量削減の目標だけではく、電気自動車や電池、電力設備などの新しい産業がサプライチェーンの確保に苦戦するなか、今後の投資や雇用の行方も不安定なものとなっている。
今回の新しい白書では、この「不安定な依存への懸念」に負けるべきではない理由を4つ示している。
1. 需要と供給に関する世界的な視点が必要
これらの重要鉱物はすべて世界的な商品であるため、需要と供給に関する世界的な視点が不可欠だ。さらに、これらの鉱物のほとんどは世界経済において非常に小さな役割しか果たしておらず、重要鉱物への依存に不安を示す人々の懸念の根拠となる歴史的な記録はそれほど多くない。こうした懸念は確かに急速に増大しているが、その根拠は小さいのだ。適切なインセンティブがあれば、多くのことがすぐに変化する可能性がある。
リチウムについて考えてみよう。2021年後半を起点に、世界経済が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックから回復し、バッテリーへの投資が急増するにつれ、リチウムの価格は6倍に急騰した。リチウムが新たな石油になるという警告が発せられ、リチウムのサプライチェーンをめぐるパニックも起こった。だが、市場が反応し(供給が拡大し、需要が予想より弱まった)、価格は以前の水準に戻った。
こうした世界的な視点から得られる教訓は、市場が機能できるところでは、市場を機能させる必要があるということだ。政策立案者が行える支援は、需要と供給に関するデータの透明性を高めるよう奨励することだ。また、新たな供給を促す価格シグナルを送る先物市場を奨励し、投資家がリスクをヘッジしやすくなるようにすることが必要だ。さらに政策立案者は、政策戦略が、より広範囲にわたる多様なシナリオと、最も現実的な評価に基づいていることを保証することもできる。これにより、リスクが評価され、リスクを特定するための指標も開発されるようになる。
2. 供給の拡大が鍵
これは、新しい鉱山の設置を進め、新しい鉱山や新しい採掘技術への投資を促進することを意味する。具体的には、多様な供給に投資できるよう、信頼できる政策を行うことや、新しい生産・加工施設が責任あるかたちで設置されるよう促進することなどが挙げられる。供給における多様性も重要だ。
こうした多様性は、国家主義(ナショナリズム)と混同されるべきではない。供給を増加させるための世界的な取り組みのあまりに多くが、(最も顕著な例は米国のものだが)鉱物供給に国旗を掲げることに集中している。クリーンエネルギーに対して大規模な公共政策資金を得るために必要な政治的支援を確立・維持するには、ある程度、オンショアリング(onshoring:国外に移管していた業務を自国に戻すこと)を受け入れる必要があった。だが、現在形成されつつある政治同盟は、容易に悪い結果につながる可能性がある。サプライチェーンは混乱して分裂し、世界市場における柔軟性の価値は低下するかもしれない。信頼性が揺らげば、コストは上昇するだろう。
他の重要鉱物と比べて、懸念すべき確かな理由が存在する唯一の鉱物は銅だ。1世紀以上にわたり、世界中で銅山を増設する取り組みが行われてきたが、そのペースを維持するのに苦労している状況だ。需要の急増と、残存する鉱床の質の低下により、この取り組みはさらに困難になるだろう。
3. 状況に反応しやすい需要
石油であれ鉱物であれ、心配性の人々は供給に注目しがちだ。だが、大きな驚きをもたらすのは、たいてい需要の方だ。ほとんどの重要鉱物は、大きなチャンスをもたらす。それは、需要の性質が化石燃料とは異なるからだ。石油の場合、全世界で毎日約1億バレルの石油が必要とされている。ちょっとした障害が、価格の高騰やパニックにつながる。
これに対して、ほとんどの重要鉱物は、プロジェクトの存続期間中に、一度しか使用されない。機器の構築時か設置時だ。つまり、重要鉱物の需要は、燃料市場と比べて、はるかにセンシティブ(状況に反応しやすい)と言えるだろう。需要が状況に反応しやすいということは、悪質で信頼できない可能性のある供給者をチェックできることを意味する。
我々の白書では、リサイクル分野における大きな機会と進歩についても、少し掘り下げている。リサイクル分野は、重要鉱物の大半の市場において、ほとんど可視化されていない領域だ。これは、世界中で導入されているクリーンエネルギー機器のほとんどが、まだ寿命を迎えていないことによるものだ。
4. イノベーション
クリーンエネルギー革命は、クリーン化のコストを引き下げるイノベーションと政策の産物だ。コストが下がれば、クリーンエネルギー革命の持続に必要な政治的支援者の確立と維持が容易になる。これと同じパターンが、重要鉱物の供給と使用でも起こる可能性がある──いや、間違いなく起こるだろう。こうしたイノベーションの多くは公共財であり、公益における支援が必要だ。また、例えば新しい採掘・採取技術に大きな可能性があるということにも注目すべきだ。これには、イノベーション政策が大きなリスクを負い、よく知られているアイデアだけでなく、斬新で新しいアイデアを試すことを奨励することが必要になる。
エネルギー転換により、重要鉱物への依存は高まるだろう。だが、石油業界と比較すれば、心配すべきことではなく、しっかりと取り組むべき課題であることがわかる。
政策が適切であれば、市場はより効率的に機能し、需要と供給の不均衡を是正するシグナルを発するだろう。「石油の時代」は、石油の不足で終わるわけではない。クリーンエネルギーの時代も、リチウムや銅、ニッケルの不足で行き詰まることはないのだ。
この記事は、World Economic ForumのJoisa Saraiva and David Victorが執筆し、Industry DiveのDiveMarketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。