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年間1億点以上のジュエリーを作るパンドラ、すべての商品をリサイクル金銀で製造へ
貴金属に価値があるのは、品質を一切落とさずに何度でもリサイクルできるからだ。それでも、毎年1600トンの金がジュエリー向けに採鉱され、その炭素集約的なプロセスは、作業員にとって過酷なものになることも多い。
手頃な価格のチャームブレスレットで有名なデンマークのジュエリーメーカー、パンドラ(Pandora)は、自社のサプライチェーンにおいて、金と銀の採鉱を廃止している。パンドラは、年間1億700万点以上のジュエリーを販売しており、製品の容量では世界最大のジュエリーメーカーであるため、これは大きな動きだ。数年にわたってサプライチェーンの移行に取り組んできた同社は2024年9月23日、現在販売中のすべてのジュエリーが、リサイクルされた金と銀から作られたものになったと発表した。これにより、年間5万8000トンのCO2を削減できることが期待される。これは1万1000世帯の年間電気使用量に相当する。
パンドラの北米担当プレジデントを務めるルチアーノ・ローデンブッシュ(Luciano Rodembusch)氏は、同社のサプライチェーンを変更するのに何年もかかったと話す。この取り組みは、数年前に100人を超えるパンドラ従業員のグループが、リサイクル金属から材料を調達する任務を課せられたときから始まった。現在、世界の銀供給の20%未満、世界の金の供給の25%未満が、リサイクル材料から調達されている。つまり、パンドラが利用できそうなジュエリーのサプライチェーンは、当時はまだ存在しなかった。同社は、世界各地でリサイクル金属の精錬所を探し回らなければならなかった。2023年12月までにそのような供給業者がいくつか見つかったため、それ以降は「リサイクル材料が使われていない在庫」をなくすことに取り組んできた。
ローデンブッシュ氏によると、これらの金のほとんどは、X線装置や電子機器といった工業製品から得られたものだという。「ジュエリーに使われている金や銀の量は、比較的少量です。一方で、金や銀は産業機械で大量に使われていることが多いので、当社にとって最良のリサイクル材料の供給源になります」と、同氏は述べる。
「より持続可能」な選択
従来の金や銀の採鉱は、大量の炭素を発生させる、非常に破壊的なプロセスだ。大小さまざまな規模の採鉱所が世界各地に存在するが、いずれも作業員が機械を使って地中から貴金属を掘り出している。人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチによると、世界で数百万人におよぶ人々が生活のために金や銀、ダイヤモンドの採掘に依存しており、現場の状況は非常に過酷であることが多いという。作業員(子どもも含まれる)が、作業中にケガをしたり、死亡したりすることも多い。さらに採鉱の過程では、有毒な化学物質で河川を汚染し、地域社会にも害を与える場合がある。
これに対して、金や銀のリサイクルは大きな工場内で行われ、金属を溶かして不純物を取り除く。現在、リサイクルされた銀のカーボンフットプリントは、採鉱された銀に比べて3分の1になる。リサイクルされた金は、採鉱された金と比較すると、炭素排出が1%未満になる。
しかし、リサイクルされた金や銀は、採鉱されるものよりもまだ大幅に高額であり、そのことがジュエリー業界で普及しない理由のひとつになっている。今回材料を変更した結果、パンドラには1000万ドル(約15億円)の追加コストが発生すると、ローデンブッシュ氏は言う。それでも同社は、製品の値上げをするつもりはないと明言する。
代わりにパンドラは、他の方法でコストの削減を試みている。同社は、タイに所有する2カ所の工場でジュエリーを製造しており、そこでは1万4000人が働いている。同社はこの製造工程を管理しており、より効率の高い装置を導入することでコストを節約できる。「当社では、従業員の出張を減らすことも含めて、全社を挙げて効率を高める努力をしています」と、ローデンブッシュ氏は話す。「当社はグローバル企業であり、これまでは出張も多かったのですが、(新型コロナウイルス感染症の)パンデミック以降は、これらの出張が必ずしも必要ではないと見るようになり、出費を減らすことができています」
パンドラのこうした動きは、ジュエリー業界の他社に対しても、リサイクル材料に切り替えるための道を開きつつある。パンドラが見つけた精錬所を利用することにより、小規模なジュエリーメーカーでも、これらの供給業者を特定して協力しやすくなる。ジュエリー業界全体がリサイクル材料に移行した場合、5300万トンに上る炭素の削減になる、とパンドラは見込んでいる。これは、ニューヨーク市の年間カーボンフットプリントに相当する量だ。
ただし、パンドラのビジネスのかなりの部分は、上質な素材のみを使った「ファインジュエリー」ではなく、ファッション性が高く普段使いしやすいジュエリーだ。同社では、現在販売中のハロウィーンコレクションや、「ディズニーの悪役」コレクションのような、新しいチャームのコレクションを絶え間なく宣伝し続けている。こうしたファッション性の高い製品の寿命は、よりクラシックなジュエリーに比べると短いと考えられ、その意味では本質的に持続可能性が低いことになる。ただし、チャームはかなり個人的なものであるため、顧客はそれぞれに愛着を持っており、何年も持ち続ける傾向がある、とローデンブッシュ氏は指摘する。パンドラでは、古くて不要になったジュエリーを顧客から回収してリサイクルできるようにすることも検討中だ。「これによって、完全に循環型のシステムが生まれるでしょう」と、同氏は述べている。
この記事は、Fast CompanyのElizabeth Segranが執筆し、Industry DiveのDiveMarketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。