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AIは持続可能性の促進剤だが、万能の解決策ではない

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AIは持続可能性の促進剤だが、“万能の解決策”ではない
  • AI(人工知能)は、持続可能性への取り組みを大幅に強化する可能性を秘めている。
  • だが、AIを万能の解決策と見なすべきではない。AIには欠点もある。
  • これらの欠点をコントロールし、AI技術への投資から適切な恩恵を確保することが重要だ。

国際社会は重大な岐路に立っている。2023年に世界の平均気温が史上最高を記録したことで、産業革命前からの気温上昇幅を摂氏1.5度未満に抑えるという重要な目標が破られようとしているのだ。気候危機は深刻化しており、迅速かつ断固とした行動を起こさなければ、取り返しのつかない転換点を迎える恐れがある。

企業は、変化の重要な推進役として、さらに取り組みを強化しなければならない。例えば、AIと持続可能性の融合は、気候変動対策を加速させるためのユニークな機会を提供している。

しかし、AIが気候変動への「万能の解決策」として称賛されることが多い一方で、その真の可能性と限界を理解することが重要だ。AIは、持続可能性への取り組みを拡大・促進するのに役立つが、慎重に管理しなければ、そのエネルギー需要の大きさによって、利点が損なわれる可能性がある。こうした弱点はまるで、スーパーマンの弱点として知られる架空の物質「クリプトナイト」のようなものだ。

果たしてAIは、私たちを前進させてくれるのだろうか。それとも、そのコストは私たちの重荷となるのだろうか。

万能の解決策:促進剤としてのAI

AIだけで気候危機が解決することはないが、AIは、持続可能性への取り組みを劇的に加速し、その規模を拡大する可能性を秘めている。AIの強みは、グローバルなサプライチェーンや電力網、気候といった複雑なシステムに対処し、コントロールできることだ。これらのシステムは互いに深く結びついており、ある箇所で発生したわずかな変化が広範囲に影響を及ぼす可能性がある。AIはさまざまな分野から大量のデータを取得して分析する能力を備えているため、従来の自動化では見逃されていたような隠れたパターンや関連性、非効率性を見つけ出すことができる。

企業は、AIの高度な機能を利用することによって、これまでであれば考えられなかった方法で、変化を追跡し、結果を予測し、システムの動作を強化することができる。例えば、材料特性に関する広範なデータセットでトレーニングされたAIを考えてみよう。このようなシステムがあれば、数十億もの可能性を素早く分析して、持続可能な製品を作るのに最適な材料を特定できる。しかもこのプロセスを、従来の方法と比べてはるかに速く完了できるのだ。同様に、AI主導の精密農業では、衛星画像や天気予報、土壌センサーなどから得たデータを分析することで、農家が水、肥料、農薬の使用を最適化できるよう支援する。これにより、農作物の収穫量を増やせるだけでなく、資源浪費や化学薬品の過剰使用を最小限に抑えて、環境への影響を軽減できる。

エネルギー分野では、AIが仮想発電所のような持続可能なイノベーションを通じて、分散型エネルギーシステムに革命をもたらしている。仮想発電所とは、家庭に設置されたバッテリーが、電力を自律的に電力網に返す仕組みのことだ。AIはこのプロセスを最適化することで、従来の発電所にかかる負担を軽減し、エネルギー効率を高めることができる。また、物流でもAIは役立っている。SAPのAI支援ソリューションは、最も効率的なルートとスケジュールを算出することで、物流における燃料消費と排出量を削減し、走行時間と燃料消費の両方を最小化する。

欠点:エネルギー消費と投資対効果(ROI)のジレンマ

とはいえ、AIが持続可能性へのフリーパスとなるわけではない。AIシステムやAIを支えるデータセンターは、従来のITソリューションやクラウドソリューションと比べて、はるかに多くのエネルギーを消費する。このパラドックスは、投資対効果(ROI)に関するおなじみの議論を呼び起こす。例えば、旧式の機械よりも30%高価な機械があるとしよう。コスト面だけを見れば、この機械は投資に値しないように思える。しかし、この新しい機械が生産効率を45%高めるなら、ROIによって、この初期コストは正当化される。

同様に、AIは炭素排出量が多いものの、サプライチェーンの最適化、エネルギー消費の管理、エネルギー貯蔵の実現といった持続可能性の用途においては、全体的な排出量を大幅に削減する。ここで重要な問題は、AIが持続可能性にもたらす利点が、AI自体のエネルギー需要を上回るかどうかということだ。再生可能エネルギーを電力網に組み込むにあたっては、AIでエネルギー貯蔵を最適化し、エネルギー転換を促進することによって、脱炭素化を加速化できるのかが重要な要素のひとつとなる。

さらに、AI自体のエネルギー消費の最適化も進んでいる。データセンターのエネルギー効率やクラウドサービスの最適化における進歩が、AIによる炭素排出量の削減に役立っているのだ。

さまざまな業界で、AIを活用して大量のデータセットを処理したり意思決定を自動化したりするケースが増えるにつれて、このようなシステムの効率化が、ジレンマの解消に欠かせないものとなるだろう。

企業がAIを利用して環境に配慮する方法

SAPの顧客企業が行う商取引は、世界の商取引の約84%を占めている。その中から2つの主要な事例を取り上げよう。どちらも、AIの導入によって持続可能性への影響を加速し、コストを上回る利点を得られることを示した事例だ。

アンビパー(Ambipar)の取り組み:環境影響データの分析

環境ソリューションのグローバルリーダーとして40カ国で事業を展開するアンビパーは、エンドツーエンドの炭素管理と環境管理の新たな基準を打ち立てている。同社は、基幹系情報システム(ERP)を中心としたAIベースの持続可能性ソリューションを使用して、世界各地での業務に共通のデータ基盤を確立・監視しながら、将来の成長機会に備えている。また、高度なクラウドソリューションで財務データと持続可能性データを統合し、環境イニシアチブがビジネスに対して、リスクと付加価値のどちらをもたらすのかを総合的に判断している。アンビパーでは、環境影響データの整理と分析においてAIが重要な役割を果たしており、このことが、ターゲットを絞った効果的な持続可能性の取り組みを可能にしている。収集したデータでAIモデルをトレーニングし、他の環境指標と相互参照することで、同社は、持続可能性の成果を複数セクターにまたがって予測し、業界の他企業のためのベンチマークを設定している。

msgグローバル・ソリューションズ(msg global solutions)の取り組み:持続可能性の体系的な追求

msgグローバルが持続可能性管理テクノロジーを導入したのは、場当たり的な持続可能性アプローチから、明確な報告や目標の設定などを含む体系的なアプローチに移行するためだった。コアビジネスプロセス全体に組み込まれた、信頼性の高いデータの可視性が高まったことで、同社は、持続可能性戦略の進捗状況を監視し、リアルタイムのインサイトを利用して、情報に基づく意思決定をロール(役割)ベースで下せるようになった。データの透明性と実用的なインサイトは、msgグローバルが、ステークホルダーと信頼関係を築きながら、持続可能性の目標に向けて全体的な方向性を定めるのに役立っている。

AIを活用して、持続可能な未来に貢献するための連携

AIだけで気候危機を解決することはできないが、アンビパーやmsgグローバルを含む多くの企業の例で見られるように、AIは、持続可能性への取り組みを拡大・促進するための強力なツールとなる。複雑なサプライチェーンの管理から、エネルギー供給網の最適化まで、企業はAIの利用によって、これまでは不可能だった方法で、環境への影響を測定・予測・最適化できるようになった。

ただし、AIの潜在能力を最大限に引き出し、その欠点を最小限に抑えるには、政府と業界、そして市民社会の連携が欠かせない。持続可能性におけるイノベーションを促進し、現実世界に影響をもたらすには、AI研究とデータ共有への投資が必要だ。同時に、AIに伴うエネルギー消費の問題にも取り組まなければならない。データセンターの最適化と、AIの効率化に重点的に取り組むことで、我々は、AIの環境負荷を上回る持続可能性への利点を確実にもたらせるようになるだろう。

AIは、2030年までに世界の排出量を半減させるという目標の実現を加速させる手段を提供する。この課題は困難だが、達成不可能ではない。AIを、スケーラブルで有意義な変化の触媒として活用することで、企業は、経済成長と環境保護を両立させることができる。

持続可能性と収益性が両立する未来を創り出すためには、今こそ行動を起こし、AIの力を活用するべきだ。

この記事は、World Economic ForumのSophia Mendelsohnが執筆し、Industry DiveのDiveMarketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。