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「循環型のエレクトロニクス産業」を推進する貿易と投資とは 〜5人の専門家に聞く
- 電子廃棄物は、世界の廃棄物のなかでも最も急速に増加しているカテゴリーであり、回収とリサイクルに依然として問題を抱えている。
- 電子廃棄物が適切にリサイクルされるようになると、社会のエネルギー転換に不可欠な資源を、エネルギー効率の良いかたちで入手できるようになる。
- 「循環型の電子機器産業」の推進に、貿易と投資がいかに建設的な役割を果たし得るかを5人の専門家に聞いた。
「デジタル」と「ネットゼロ」という2つの大転換の進展に伴い、電子機器の需要は、今後数十年で劇的に増加するとみられる。現状、電子廃棄物はすでに、世界で最も急速に増加している廃棄物カテゴリーだ。2022年の時点で、適切に回収されリサイクルされているのは全体の17%に過ぎず、また地域格差も大きい。電子廃棄物の大半は、埋立地に行き着くか、十分に対策されないかたちで焼却され、環境汚染や、人々の健康被害、気候変動の直接の原因となる。不適切な解体、焼却、埋立地への蓄積により、二酸化炭素やメタン、その他の有害な温室効果ガスが排出されるためだ。
一方、適切にリサイクルされた電子廃棄物からは、銅、リチウム、ニッケル、金などが、エネルギー効率の良いかたちで得られる。これらは、いまやエネルギー転換になくてはならない資源だ。同様に、電子機器を修理、再利用、再製造することは、未使用資源の採掘量を減らし、生産過程の温室効果ガス排出量を削減することにつながる。グローバルな協調に基づく取り組みを通じて、電子機器のライフサイクルを伸ばし、製品の最終段階の処理を改善させることは、環境と経済のどちらの観点から見ても避けては通れない。
電子機器セクターは、最もグローバル化が進んだ産業のひとつであり、国際貿易と、グローバルなバリューチェーンへの依存度が高い。しかし、複雑に入り組んだグローバルな電子機器バリューチェーンの網には、循環型サプライチェーンやリバースサプライチェーンを生み出す効果的な経路がまだ形成されていない。こうした状況の背景には、規制の問題、資本へのアクセス不足、貿易規制の不適切な運用などがある。
安全な循環型の電子機器貿易は、修理や再製造、リサイクルを進展させ、埋め立てなどの不適切な最終処理を回避するために不可欠だ。こうした貿易体制の確立に先立って、多国間での効果的な管理制度を、責任ある正当なやり方で構築する必要があり、適切な廃棄物管理インフラのない国に廃棄物を持ち込むような不法行為を防ぐ必要がある。
世界経済フォーラムの循環貿易コミュニティーに集う5人の先進的リーダーたちが、循環型の電子機器産業の推進において、貿易と投資がいかに建設的な役割を果たし得るかについて意見を述べた。
「自由貿易協定を循環経済に生かす」
ジャック・バリー(Jack Barrie)氏、英国王立国際問題研究所循環経済部門上席研究員
自由貿易協定(FTA)と経済連携協定(EPA)は、国境を超えた協力を促進し、再製造電子機器の関税を下げ、リサイクルや修理への電子機器部品のシームレスな移動を実現することで、循環型の電子機器産業を強く後押しすることができる。こうした協定には、電子廃棄物の管理基準の統合、循環技術およびインフラへの投資の促進、持続可能な電子機器設計におけるイノベーションの促進といった効果も期待できる。また、ベストプラクティスの情報交換や、国家間の能力構築の基盤となり、循環経済イニシアティブの規模拡大に貢献する。加えて、FTAやEPAは、(特定有害廃棄物の輸出入に関する)バーゼル条約の手続きの合理化にも役立つ。例えば、電子化された事前のインフォームドコンセントにより、電子廃棄物の越境移動を、より効率的かつ環境に配慮したものにすることができる。
「デジタルソリューションで循環性を高める」
メアリー・デ・ヴィソツキー(Mary de Wysocki)氏、シスコ(Cisco)シニアバイスプレジデント兼最高持続可能性責任者
電子廃棄物の回収は、循環経済の達成に不可欠だ。シスコでは、再製造が可能な、価値の高い設備の回収や、部品や素材の回収を実施することで、未使用資源の需要削減に取り組んでいる。電子廃棄物の越境移動については、デジタル化によって効率を高め、処理時間を短縮する好機が眼の前にある。2025年1月1日以降、「事前インフォームドコンセント」、略してPICと呼ばれる手続きが、すべての電子廃棄物貿易に適用されるが、この手法は1980年代につくられた非効率なものだ。PIC手続きを現代化し、21世紀にふさわしいものにアップデートする必要がある。医療記録や学校のカリキュラムから小売業まで、デジタル化はすでに私たちの社会のあらゆる側面に浸透している。PIC手続きを同じように合理化し、電子化することで、電子廃棄物回収のボトルネックを緩和し、循環性を高めることができる。
「循環電子機器のバリューチェーンを育てるため、規模拡大の実現を」
アルヴィン・ピアダサ(Alvin Piadasa)氏、SKテス(SK Tes)グループ持続可能性担当ディレクター
再利用と最終処理は、無情なほどに規模集約的かつ資本集約的な産業だ。厳しい環境基準を満たしつつ、事業の採算性確保のために、施設は、大量の廃棄物を処理する必要がある。現実には、十分な原材料を生み出せる国ばかりではないため、採算性のあるリサイクルユニット(再利用、修理、改造、回復のすべてのプロセスを網羅する)の設置が難しい場合もある。したがって、必要な規模を実現し、採算性のあるエンドツーエンドの再生工場を稼働させるためには、安全な国際貿易が不可欠だ。現在の規制や煩雑なコンプライアンス規則は、電子資源および商品の最終段階である原材料の越境移動を停滞させている。我々が相手にしているグローバルなOEMクライアントは、クローズドループ・ソリューションを高く評価するはずなのだが、輸入量が少ないために、私たちのような会社は、国内の製造スクラップを処理する機械設備に投資することしかできない。
熱分解や湿式冶金ラインといった、より高度な循環型設備により、貴金属やプラスチックが回収できるようになれば、クローズドループの電子機器バリューチェーンの強化に大きく貢献するだろう。しかし、現在の貿易規制と、おざなりな法執行体制のせいで、環境に配慮した設備は経済的に成り立たない。そのため、デバイスの修理、再生品製造、リサイクルの地域的ハブを設立しようという意思が削がれており、途上国における技術的スキルの普及とグリーン雇用は停滞している。
「設備の寿命を伸ばす」
ケン・ヘイグ(Ken Haig)氏、AWSアジア太平洋地域および日本担当エネルギーおよび環境政策担当責任者
AWSは、サーバーラックに3つの循環経済原則を適用している。すなわち、再利用を前提とした設計と、設備を効率的に運用すること。そして、設備を安全に解体し、リユース(再利用)、リペア(修理)、リサイクルを通してその価値を回収することだ。これによりAWSは、資源の価値を、最大限に高く、最大限に長く維持することができ、グローバルオペレーションから廃棄物が生じることを防ぐとともに、サプライチェーンにおける資源利用と炭素排出を削減している。同じ理由から我々は、情報技術産業評議会(ITI)および業界パートナーの取り組みを支援し、業界全体に再利用の機会を広く行き渡らせる能力の開発に取り組んでいる。
「信頼できる貿易テンプレートのために」
キンバリー・ボットライト(Kimberley Botwright)氏、世界経済フォーラム持続可能貿易担当責任者
各国の政府が廃棄物貿易を管理することは、適切な処理を行えない場所に廃棄物が行き着かないようにするために重要だ。バーゼル条約は、優れたグローバルな調整メカニズムを提供しているが、効果的な施行のためには一層の努力が必要だ。しかし、いくつかの政府が、廃棄物貿易規制の簡略化を望む場合もあるだろう。これは、とりわけリサイクルに当てはまる。結局のところ、電池やプラスチックのような廃棄物には、責任あるプロセスを採用しさえすれば、安全に生産過程に戻すことができる資源が含まれている。循環的なビジネスモデルは、資源のレジリエンス、生物多様性、気候への影響といった課題に対するソリューションを提供するものであるため、こうした調整が今後ますます必要になることが予想される。
すでに緊密な経済関係にあり、たいていは同じ地域に位置する複数の政府は、信頼できる貿易システムを構築することができるだろう。業者が廃棄物を越境移動させる際には、国家間で合意された基準に照らした監査を実施し、国境での手続きを合理化することにより、双方が恩恵を得る。グローバルレベルでも、各国政府は、こうした協定のテンプレートに関して合意を結ぶことで、信頼できるリサイクル貿易システムを、乱立を防ぎつつ多様に確立させ、グローバルな廃棄物貿易の規制体制に抜け穴がつくられないようチェックすることができるだろう。
この記事は、World Economic ForumのJeet Karが執筆し、Industry DiveのDiveMarketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。