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大気汚染を抑制する新材料、ロボットとAIを活用して開発

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ロボットとAIを活用して大気汚染を抑制する新材料を開発

人間はさまざまな活動を通して、大気、水、土壌に汚染物質を放出している。有害な化学物質は、人の健康と健全な生態系のどちらに対しても脅威となる。世界保健機関(WHO)の推計によると、大気汚染によって死亡する人の数は、毎年420万人に上っている

科学者たちは、この問題の解決法を模索しており、可能性の一つに「光触媒」と呼ばれる物質があるよくある有害汚染物質を分解できることが既存研究で確認されている化学反応を、光によって引き起こす技術だ。

筆者(※注1)は、テネシー大学で材料工学を研究しており、現在は同僚たちと、大気汚染の軽減を目指す新しい光触媒の作成と試験を、ロボットとAI(人工知能)を活用して進めている。

汚染物質の分解

光触媒は、光があるところで電荷担体(電荷キャリア)を生成することで機能する。電荷担体とは、動き回って化学反応を引き起こせる微粒子のことだ。電荷担体が、環境中で水および酸素と接触すると、「活性酸素種(reactive oxygenspecies:ROS)」という物質が生成される。高活性の活性酸素種は、汚染物質の一部に結合してこれを分解したり、害のない生成物や有用な生成物に変化させたりできる。

しかし、光触媒プロセスに用いられる材料の中には、制限があるものもある。例えば、光に十分なエネルギーがない場合には、反応を起こせないものがある(エネルギーの低い赤外線や可視光線では、反応が起きない)。

別の問題として、反応に関与する荷電粒子が、役目を終える前に再結合して、元に戻ってしまうことがある。この場合、汚染物質が完全には分解されないか、処理の完了に時間がかかる。

それだけではない。光触媒の表面が、反応中や反応後に変化して、それが光触媒の作用や効率に影響することがある。

こうした制限を克服すべく、筆者が属する科学者チームでは、汚染物質を効率的に分解できる新たな光触媒の開発に取り組んでいる。またチームでは、開発した物質に毒性がないことの確認にも力を入れている。汚染を浄化する物質が、汚染を引き起こすことになってはならないからだ。

小さな結晶

筆者のチームでは、汚染物質の迅速な分解にとって最適な光触媒物質の候補を割り出す際に、実験の自動化とAIを活用している。現在、ハイブリッド・ペロブスカイトと呼ばれる材料の作成と試験を進めているが、これは、厚みが髪の毛の10分の1ほどしかない、とても小さなナノ結晶だ。

ハイブリッド・ペロブスカイトには、有機(炭素系)と無機(非炭素系)の成分が混在している。

これにはいくつかの特徴がある。まずは、光吸収特性が優れていること(これは、原子レベルの構造に由来する)。極めて小さく、それでいて強力だ。光学的に見ても、驚くべき特性があり、とても面白い方法で光と相互作用することで、小さな電荷担体を大量に生成して光触媒反応を引き起こす。

電荷を効率的に運ぶ材料であり、それにより、光のエネルギーを運んで、化学反応を促進することができる。ソーラーパネルの効率向上にも使われているほか、テレビ画面の鮮やかな映像を生み出すLEDライトにも使用されている。

このようなハイブリッドなナノ結晶は、種類が大量にある可能性がある。そこで筆者のチームは、有害な汚染物質の浄化に最適な候補を見つける際に、迅速かつ、できるだけたくさん作成・試験する方法を考案する必要があった。

ロボットの導入

筆者のチームは、サンプルの作成と試験を手作業で行って、何週間・何カ月という時間をかけるのではなく、スマートロボットを用いている。これにより、1時間で100種類以上の材料を作成して試験できる。小型の液体処理ロボットで、少量の液体をある場所からある場所へと正確に移動、混合、転送することができる。加速度と精度は、コンピューターで制御される。

また、プロセスを導くのに機械学習を活用している。機械学習のアルゴリズムは、試験データを、ロボットが実施する次の実験に向けて迅速に分析でき、そのデータを学習することができる。人間の目であれば、普通は見つけるのにもっと時間がかかるパターンやインサイトも、機械学習アルゴリズムなら、収集されたデータから素早く見つけ出すことができる。

このアプローチで目指しているのは、光触媒作用の複雑なシステムを解きほぐし、理解を深め、ひいては新たな戦略や、材料の創出につなげることだ。機械学習による実験の自動化を活用することで、システムの分析・解明のハードルが下がり、従来の手法では困難だった課題の克服が可能になる。

※注1:マフシド・アハマディ(Mahshid Ahmadi)氏は、テネシー大学のアシスタントプロフェッサー(材料工学)。

この記事はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下、The Conversationから転載された。オリジナル記事はこちら

この記事は、Fast Company(The Conversation)が執筆し、Industry DiveのDiveMarketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。