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京都大学との共同研究のお知らせ ― 酸素発生反応の“活性点”を特定、グリーン水素社会実現へ新たな一歩
マルチモーダル解析で酸素発生反応(OER)の鍵を握る“活性点”を特定:酸化イリジウム触媒の構造が高性能の秘密を握る
2025年8月20日
京都大学大学院人間・環境学研究科Neha Thakur博士研究員、内本喜晴 同教授らの研究グループは、田中貴金属工業株式会社、技術研究組合FC-Cubic、横浜国立大学、九州大学、奈良女子大学、島根大学、立命館大学と共同で、水を電気分解して水素を製造する水電解#1の鍵となる酸素発生反応(OER)において、酸化イリジウム触媒の高い活性の起源を解明しました。
再生可能エネルギー由来の電力を利用した水電解によるグリーン水素の製造は、カーボンニュートラルへ向けたエネルギーシステムの中で重要な役割を果たします。固体高分子水電解は高効率で高純度な水素製造法であり、酸素発生反応(OER)の触媒の特性がさらなる効率向上に重要です。OER触媒にはイリジウムを含む酸化物が用いられていますが、階層構造を持つ電極表面の反応は複雑な要因によって支配されるため、これまでその特性が何によって決まっているのかが不明であり、開発の指針を決めるのが困難な状況でした。
この成果は、高効率かつ安定的な固体高分子水電解の開発を後押しするものです。これまで、活性がどのような因子で決定しているのかが不明であった触媒の開発において、複数の高度解析手法を統合的に活用するマルチモーダル解析の重要性を示したものです。この手法を用いて、飛躍的に性能が向上した触媒の開発が実現し、脱炭素社会の実現に向けた基盤技術の一つとなる可能性を秘めています。
本研究成果は、2025年8月19日に、アメリカ化学会の「Journal of the American Chemical Society」誌にオンライン掲載されます。
<論⽂タイトルと著者>
タイトル:Identifying Active Sites of IrOx Catalysts for OER: A Combined Operando XAS, SEIRAS, and Theoretical Study
著者:Neha Thakur, Yadan Ren, Mukesh Kumar, Tomoki Uchiyama, Mitsuharu Fujita, Ikkei Arima, Minoru Ishida, Yingkai Wu, Yuta Tsuji, Hideto Imai, Masashi Matsumoto, Yu Zhuang, Kentaro Yamamoto, Toshiyuki Matsunaga, Koji Ohara, Mitsuhiro Matsumoto, Yuki Orikasa, Yoshiyuki Kuroda, Shigenori Mitsushima, Yoshiharu Uchimoto
掲載誌:Journal of American Chemical Society DOI: 10.1021/jacs.4c18510

本研究の概要図。電位を印加した状態、つまり、水電解が起こっている際の酸化イリジウム表面の構造をX線によってマルチモーダルに分析する様子を表現している
田中貴金属は、PEM形水電解用電極触媒として、高活性・高耐久性を有する酸化Irアノード触媒およびPt系カソード触媒を提供しております。その他、H₂リーク対策触媒やIr低減触媒の開発にも取り組んでおります。「PEM形水電解用電極触媒の開発と実用化」において、一般社団法人触媒工業協会より「2025年度 触媒工業協会技術賞」を受賞いたしました。
本技術では、「酸素発生触媒(Oxygen Evolution Reaction:OER)」と「再結合触媒(Gas Recombination Catalyst:GRC)」の2元機能を有する触媒を新規に開発し、実用化しました。本触媒技術により、水電解反応の過程で高い電解効率を維持したまま、アノード(陽極)側の水素濃度を効率的に低減し、PEM形水電解における技術課題である「水素クロスオーバー現象」を解決することに成功しました。さらに、この触媒により膜厚の薄型化が可能となり、安全性と電解効率の大幅な向上を実現します。詳細につきましては、当社産業事業サイトの情報をご覧ください。
田中貴金属産業事業グローバルサイト:
燃料電池/水電解(PEM形)用電極触媒 |田中貴金属
「2025年度 触媒工業協会技術賞」に関する情報:
田中貴金属工業、「PEM形水電解用電極触媒の開発と実用化」が「2025年度 触媒工業協会技術賞」を受賞 | 田中貴金属
リリース全文:
20250819_マルチモーダル解析で酸素発生反応(OER)の鍵を握る“活性点”を特定:酸化イリジウム触媒の構造が高性能の秘密を握る.pdf