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田中貴金属工業、300℃の低温領域で使用可能な高性能パラジウム合金水素透過膜の開発に成功

~高純度水素精製に必要不可欠なパラジウム合金水素透過膜のラインアップを拡充、追加設備が不要で設備劣化も抑制、エネルギーコストの削減にも貢献~

2025年9月12日

田中貴金属の産業用貴金属事業を展開する田中貴金属工業株式会社は、300℃前後の低温領域で使用可能なパラジウム(Pd)合金水素透過膜の開発に成功したことを発表します。本製品は従来品に比べ、高い水素透過性能を持ちつつ使用温度が低温であることが特長です。本製品のサンプル提供は2025年9月15日(月)以降に開始します。

2025年9月17日(水)~19日(金)に北海道大学で開催される、公益社団法人日本金属学会「2025年秋期(第177回)講演大会」にて本製品に関する学会発表を行います。


<パラジウム合金水素透過膜(PdCu39)>

PdCu系合金膜の中ではPdCu40(パラジウム含有率が60%、銅含有率が40%の合金)が最も水素透過性能が高いと言われています。しかし、PdCu40で水素を精製するためには、400℃前後の高温での運用が必要でした。田中貴金属は、PdCu系水素透過膜のパラジウム含有率に着目し、PdCu39(パラジウム含有率が61%、銅含有率が39%の合金)でPdCu系水素透過膜の最大性能を引き出すことに成功しました。

これまでPdCu39の高い水素透過能力は認知されていませんでした。これは、僅かでもfcc相(※1)が混在すると水素透過性能が著しく低下してしまうことに由来し、相を完全にbcc相(※2)にすることは難しいとされていました。しかし、長年の貴金属素材研究開発で培った知見から確立した独自の熱処理方法を用いることで、完全なbcc相を得ることが可能となり、今回の製品化に至りました。


<パラジウム系水素透過膜による水素透過メカニズム>

昨今の水素精製関連技術の発展により、これまでよりも低温で反応する水素透過金属膜の需要が高まりつつあります。高純度な水素を精製するためには、メタノール水から生成された水素ガスを水素透過膜が組み込まれたモジュールで精製する方法が一般的です。しかし、メタノール水から水素を生成する際の温度が300℃前後であることに対し、水素透過膜は400℃以上で性能を発揮するため、追加の加熱設備が必要となりコスト増加の一因となっていました。さらに、加熱による不純ガスの発生も課題となっています。

本製品は、約300℃という低温で水素を精製できるため、追加の加熱設備が必要なく、従来よりも設備の酸化が抑制できます。さらに、電力・CO2などのエネルギーコスト削減への貢献も期待できます。

■本製品の特長
・300℃前後の低温で効果を発揮
・完全なbcc相の実現により高い水素透過性能を持つ
・ピンホールフリーな膜
・追加の加熱設備が不要で、加熱工程における設備の酸化も低減
・他技術に比べて、水素精製設備の小型化が期待できる


<PdCu合金のPd/Cu比率と水素透過係数@300℃>

<水素透過性能の温度依存性>

<PdCu39の熱処理条件によるbcc相/fcc相比率の差異>

■対応範囲(評価用試作サンプル)

板厚板幅形状
最小10µmT最大120mmシート状(角、円など)

20250912_田中貴金属工業、300℃の低温領域で使用可能な高性能パラジウム合金水素透過膜の開発に成功.pdf


(※1)fcc相:面心立方格子構造 (face centered cubic) を持つ金属の相を指します。
(※2)bcc相:体心立方格子構造 (body centered cubic) を持つ金属の相を指します。